第222話 Pー4 勧誘②

「で、あなた達は私に何を求めるの? 謝罪をさせたくて連れてきたわけてではないのでしょう?」

「話が早くて助かる。ぶっちゃけて言わせてもらうと少々厳しくてね。猫の手では駄目なのだよ」

「はあ? いきなり手を貸せと。得体の知れない人に? しかもやってることがテロまがいじゃないの」

「手厳しいね。で? 貸すのかい? 貸さないのかい?」


 そう問われると雫は言葉を詰まらせてしまう。


 葵達は自分と彼、そして大勢の人をゲーム世界に閉じ込めた張本人。だから助けるという義理はない。


 けれど──。


「どうして風花の……意志がその子の体に?」


 雫ほ魂と言おうとしたが、曖昧な存在を口にすると頭がおかしくなりそうなので意志という単語を使った。


「喫茶店で話した通り、ゲーム内のユウとクルエールはくっついてね。それで現実のユウこと藤代優を守るためアリスが中に入らなくてはいけなくなったのだよ」

「どうしてアリスが? あなたでも良かったのでは?」

「私は深山鏡花としてやることがあるからね」

「他の人は?」

「残念ながら」


 鏡花は肩を竦める。


「で、1番協力してくれそうなのがアリス君だったというわけさ」

「本当に風花なの?」


 雫は隣の少女を見る。


 ユウにそっくりな顔立ちの少女。でも中身は彼の妹の風花。


「本当だよ。例えば、前に……」

「そういうのはいい」


 雫は風花の言葉を遮り、そしてコーヒーを飲む。


「今日は帰るわ。少し。整理させて」

「うむ。それがいいだろう。胡桃、近くまで送ってあげて」


  ◯


 胡桃が車を運転をして雫を家まで送っていた。


 住所を知らないから最寄駅までで結構だったが胡桃が雫の住所を知っていたので結局家まで送ってもらうことにした。

 ただ家の住所を知られているというのが気に食わなかった。


「いきなりあんな事を言われても問われますよね」


 少し警戒心が強まる中、運転中の胡桃に言葉をかけられた。

 その言葉にはどこか苦笑めいた含みがあった。


「え?」

「実のところ、私はゲーム内に囚われていないんですよ」

「いや、いたでしょ?」


 常にキョウカの隣にはクルミがいた。


「あれ私ではないんですよ。私になりすましたマリーというAEAIなんですって」

「そうなの?」


 雫は驚いた。


「ええ。だから、いきなりAIに人間の体が乗っ取られるとか。中国が第4の戦闘をとか言われても意味不明でしたね」

「第4の戦闘? 何それ?」

「陸海空戦の次が電脳戦で。日本のネットワークを攻撃することです」

「へえ」

「私も信じられませんでしたよ。お嬢は頭をおかしくなったのではないかって。でも、実際に葵や中国工作員の存在を知って、『これマジなやつだわ』って驚きましたね」

「警察には?」


 こんなやばそうな話が本当だったなら、それこそ警察に相談すべきだろう。


「勿論、考えましたよ。深山は色々と太いパイプを持ってますからね。警察庁にも深山の人間がいますから相談すべきと考えましたよ」

「なら……」

「やはり上の人間がダメですね。中国は最大の貿易相手ですからね。大義名分で叩くというより、いざという時の外交カードに使おうとするクズばかりですからね」

「……」

「しかも日本国民が少し被害に遭ってもいいなんて考えを持ってますから」


 それは政府が彼の命を軽く見ているという意味。


 車は雫の家の前に停まる。


「着きましたよ」

「……ありがと」


  ◯


 雫を送り届けた後、胡桃は鏡花に連絡した。


『で、どうだった?』

「特に何も」

『難しいね』


 雫に話したことは前もって鏡花に話すよう告げられていたこと。

 話のほとんどは本当のこと。

 ただ鏡花に対して疑いを持ったということは嘘だ。


「どうしますか?」

『しばらくはそっとしておこう……かな?』


 鏡花が『かな?』なんてことを言う時は怪しいと胡桃は理解している。

 たぶん偶然を装っての事件を誘発させるかもしれない。


「お嬢、危険なことは……」

『大丈夫』


 と鏡花は言って、通話を切る。


「……まったく」


 胡桃は溜め息交じりに呟いた。

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