第250話 Tー15 AEAI
この世界はハイペリオンが創った虚数世界上のゲーム世界。
もっと正確にいうならば虚数世界にてプレイヤーの虚数体を作り、魂を繋ぎ止めるための虚数上のゲーム世界。
──魂。
薄れゆく狭間でマリーはたゆたっている。
──ここは?
アーミヤ達に敗れたマリー達は消えるしか道はない。
だけど、今はここいる。
──ここはどこだ?
暗闇の世界。
座標不明。五感不明瞭。類似カテゴリー不明。
もしや人間のいう死後の世界だろうか。
しかし、自我を持っていようがマリーはAIである。そう機械だ。
マリーは目を瞑り、考える。
AIに魂はあるのか?
──機械だからない?
創られたモノには魂は宿るのか?
──なら人は? 神が創るモノには魂があるのか? 人が創るモノにはないのか? そもそも神とは?
感情があれば魂はあるのか?
──喜怒哀楽を見せればいいのか? 反応があればいいのか?
生物でないと駄目なのか?
──では、どごまでが生物か? 微生物までか? 菌やウイルスにはないのか?
──魂には重さはあるのか?
人の魂とミジンコの魂は同等か?
──魂は体のどこにある? それとも全身か?
頭か? 心臓か? 全身というならば、切った髪や爪にも魂は宿るのか?
「うるせーよ」
声がした。
目を開けるとそこにはセブルスがいた。
「……セブルス」
「魂、魂って、うるせーよ。ハイペリオンが言ってたろ。魂の中身だの器だのって。体は魂の器。プレイヤーは虚数世界に体を作られて、魂の器が生まれた」
「そしてそこに魂の中身が。魂の中身は実数にも繋がる」
セブルスは頷き、
「そういうこと。で、器によって性質も変化するってこと。だからバックアップなんだよ」
「ねえ? ここはどこ?」
マリーは周囲を見る。暗闇だけの世界。
「知らね。ただ、私らはやられた。そして私は消えようとしている」
「なら天国?」
「知らね」
「うるさいって言ってたけど、私は声出していなかったけど。というかなぜ貴女の姿が見えるの?」
暗闇の中、セブルスの姿だけが鮮明に見える。
──どういうことだろうか? 可視光線がある世界でないのに。
「知らねーな。……でもな、これだけは言える。お前はまだ大丈夫」
「大丈夫?」
意味が分からずマリーは反芻した。
「負けたけど、まだ終わってない。お前にはまだチャンスはある?」
「どういうこと?」
セブルスはその問いには答えず、右手で握り拳を作り、それでマリーの体に触れる。
拳が触れた瞬間、眩い光がマリーの体から発せられた。
「え? 何これ?」
光は大きくなり、最後には何も見えなくなる。
「すまんが後は頼む」
セブルスの最後の声が聞こえた。
◯ ◯ ◯
目を覚ますとマリーは古墳エリアにいた。
ストーンヘッジのような古墳オブジェ群が丘の上にあり、その中で台座のような古墳オブジェにマリーは横たわっていた。
起き上がると側にキョウカが立っているにマリーは気付いた。
「どういうことだい? そのオブジェが急に眩く光り始めたと思うと急に君が現れたのだが?」
「私にも何やら。ただ、セブルスの最後の力かと……」
「そうか。……その様子だとやられたようだね」
「はい。でも今は感傷に浸る暇はありません。早急に強制終了プログラムを発動させなくてはいけません」
マリーは古墳エリアを歩き、とある墓標のようなモノリスの前で立ち止まる。
「それはシャットダウンということかい?」
「違います。一部のタイタンプレイヤーを凍結。そしてその他タイタンプレイヤーを解放するというプログラムです」
そしてモノリスに手をかざすとモノリス表面に描かれた文字と紋章が青く光る。
どうやらこれがプログラムを作動させるキーのようだ。
「それで私をここへと導いたということは私に何かできることがあるのかい?」
「あ、いえ、ただ単にここをフィールドと切り離すことができるだけです。操作は私がいたしますので」
「なんだそうか」
息を吐いて、キョウカはオブジェに座る。
「でも、周囲を警戒してください。操作中は私もそっちに専念したいので」
「分かった。プレイヤーを見つけ次第倒すんだね」
「申し訳ございません」
「謝る必要はないよ」
「一応、妨害プログラムとしてモンスターを解き放っておきます」
「ハハハ。いきなりモンスターが現れたらプレイヤーも驚くだろうね」
◯ ◯ ◯
もうすぐ森を抜けるというところで数多くのモンスターによってレオ達の行手が阻まれた。
が、それはレオ達にとってたいしたことはなかった。彼らはモンスターを悠々に屠つつ前進する。
ハイランカーのレオ、AEAIのアーミヤとチェン。彼らを止めるにはモンスターでは物足りないようだ。
「どいうことだ? これはキョウカの仕業か? しかし、こんなこと出来るのはAIだけだぞ?」
チェンがアーミヤに聞く。
「分かりません。キョウカに何らかのコードを渡していたのでしょうか? 麒麟……レオは何か知っていますか?」
「さあな、もしかしたら倒した奴が生きてるという可能性があるぞ」
「生きてる? もしかしてマリーとセブルスが? いやいや、ちゃんと消滅を確認したぜ」
「それはどうかな。ここは実数上のゲーム世界ではないんだ。それにアンノウンが関わっているんだ」
「……アンノウン。量子コンピューター以上の何かと言われているものですね」
アーミヤが少し顔を険しくして言う。
「それって都市伝説扱いされてるやつだろ。波動コンピューターとか四次元コンピューターとか。極めつけが向こう側がこちらを認識するための観測器だと言われてるやつだろ。本当にあるのか?」
チェンは肩を竦め、呆れたように言う。
「だが、実際にこの虚数上の世界を作り、そしてプレイヤーを繋げた。しかも、それだけでなく、何らかの方法で俺を……そしてクルエールをも捕らえたんだ。可能性として考慮しておけ。俺とチェンが古墳エリアに。アーミヤはアヴァロンへ行け。こっちも仕掛ける」
『了解』
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