第57話 Tー7 都庁ビル
朝8時、熟睡中のアリスはクルミに揺さぶられていた。
「朝ごはんできましたよ」
「う~ん」
返事なのか呻きなのか判別しずらい反応をする。クルミは今度は少し強めに揺さぶる。
「起きてください」
「もう少し寝かせてよー」
アリスは目を瞑りながら抗議し、毛布を頭へと手繰り寄せる。
「駄目ですよ。ここにいると他の人の迷惑になります」
クルミは毛布を引き剥がす。
「ん~誰の迷惑よぉ~」
アリスはまぶたを擦りながら言う。
「第2班が到着したんですよ」
「ニハン?」
「2班です。他のプレイヤーが来てるんですよ。ここに」
クルミは腰に手を当て答える。
「ん、わかった」
まだ言葉の意味を把握してないが上半身を起き上がらせる。そしてクルミがテントの外に出ると大きな欠伸をした。
人の忍び笑いと視線を感じて振り返ると見知らぬ女性プレイヤーたちがいた。
クルミの言葉が脳内リピートされる。
第2班、他のプレイヤー。
眠気が一気に吹き飛んだ。アリスは顔を赤らめるとさっと立ち上がり、すぐにテントを出て外に。
飯ごう炊飯では炊きたての白米の香りと、卵とソーセージが焼かれる音と香りがアリスの鼻腔を刺激した。
「なんかキャンプみたいでいいですね」
アリスは椅子に座り、朝食の香りに心を浮き立たせながら言った。
「一応キャンプではあるがな。てか、昨日はキャンプらしくなかったのかよ」
離れた席に座っているレオが言葉を返す。
○ ○ ○
「あれ? エイラも来たの?」
レオの相棒として当然であろうが今日はいつものスタンダードなスーツでなくEXジョブのフェアリースタイルで白のハイレグ。
「寒くない?」
「寒くはな……寒い。めちゃくちゃ寒い」
首を縮め、膝を曲げ、太股を擦り合わせ、二の腕を擦るエイラ。両太股を擦るのがなんかエロい。ここは雪山。当然、気温は低く寒い。
「どうしてそのスタイルで?」
「が、頑張らなきゃさ。うん。頑張らなきゃ」
どこか自分に言い聞かせるようにエイラは言う。
きっと合併をうまく進めるように男性プレイヤーたちに向け、パフォーマンスしているのだろうとアリスは考えた。だが、どちらかというとサービスでは?
「風邪を引かないようにね」
「ここでは風邪なんて引かないわよ」
○ ○ ○
エイラたちが雪をかいたおかげで帰り道は雪をかく必要はなかった。それでもモンスターとの戦闘、そして険しく足場の悪い下りの坂道などで疲労は蓄積され街に辿り着いた時はくたくたでアリスは宿舎にすぐ戻り、自室で就寝をとった。
翌朝、アリスは役所に向かった。本当は山を下りた日に済ませる予定であった。
役所は都庁ビルの前にあるというのをレオに教わっていたので道に迷うことはなかった。都庁ビルは高く見上げれば良いのでマップを見る必要もなかった。
都庁ビル前に4車線の車道がありそれを挟んで真向かいに3階建ての役所があった。
役所の中に入ってすぐにジョブチェンの方はこちらにという案内看板を見つけアリスは看板通りに進んだ。
必要手続きをして名前を呼ばれるのをソファーに座って待つ。
しばらくしてアナウンスで名前と室内番号を呼ばれ、アリスは指示された部屋に向かった。
部屋は8畳程度の個室で中には白シャツに黒パンツの20代後半の女性担当官が。いや、NPCがいた。
「こちらへ」
と、担当官はアリスに椅子に座るよう促す。
アリスは軽くお辞儀をして椅子に座った。
担当官はテーブルを挟んでアリスに対面して座る。
「プリントを」
と、言われアリスは必要事項を記入したプリントを提出。
「ではジョブチェンジですが、クラス2のジョブはこちらになります」
机の上のキーボードを操作するとアリスに向け、空中に投影された映像を見せる。
「ガンナー、スナイパー、ファイター、アサシン、オールマイティーの5つがあります」
「ん? 5つ?」
「はい」
レオからは4つと聞いてたのだが。
「職業の説明は必要でしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
「ガンナーはメインウェポンが大型ハンドガンか拳銃、それとライフルです。サブウェポンがショットガンとなります。
スナイパーはメインウェポンがスナイパーライフルかライフル。サブウェポンが拳銃となります。
ファイターはメインウェポンが拳銃でサブウェポンがハンドガンとなります。
アサシンはメインウェポンが拳銃。サブウェポンが閃光弾、手榴弾となります
オールマイティーは全ての武器使用が可能です」
映像にもジョブについて情報が載っている。
それを読みながらアリスは、
「ステータスも違うの?」
「はい。ガンナーはスタンダード型で大幅なステータス向上はありませんが下降もありません。
スナイパーは威力補正、命中率が高く。素早さの成長が低いです。
ファイターはHP、力、防御力が高く成長します。
アサシンは回避率、素早さ、運が高く成長します。
オールマイティーはガンナーと同じで成長に特色はありません。しかし一定の武器種を使用し続けるとステータスが割増に伸びます」
「あの、威力補正とは?」
「武器にはが威力値あります。自身の威力補正値が低いと高い威力値の武器使用ができなかったり、使用が可能であっても威力が低くなったりします」
「なるほど。では力が上がるとどうなります?」
「力は格闘、ナイフやハンマーによる攻撃力が上がります」
「力はそのままの意味か」
これといってなりたいジョブがない。消去法でいくならまずファイター、アサシンは除外。初心者かつ射撃が苦手なアリスからしたら遠距離のスナイパーがお薦めであろう。だが、アリスは2丁拳銃に憧れを抱いている。やはりここはガンナーだろうか。
「ん~? このオールマイティーって具体的にはどんなジョブなの?」
「とりあへず初期スタイルが良いという方にお薦めです。どんな武器も装備可能なのでどんな局面でも不利なく立ち振るうことができます」
「そっか。ん~それならこのオールマイティーにしよっかな」
「よろしいでしょうか?」
「うん。オールマイティーでお願い」
担当官はキーボードのキーを3つほど叩く。
「終わりました」
「え? 終わったの?」
アリスは自身の体を見る。どこも変わったようには見れない。
「ガンナー、オールマイティーは装備服は同じです。ただカラーチェンジやマークを付けることが可能です」
「へえー」
○ ○ ○
役所を出たあとアリスは都庁ビルにも立ち寄ってみることにした。というのも都庁ビルの室内展望台が一般解放されていたからだ。一般解放と言っても料金はかかる。
一階受付で料金を払い、エレベーターで50階まで移動。展望台はエレベーターを中心にしたドーナツ状。NPCの一般人が複数名いた。カップルから子連れの親子。アリスは一周して首都全域を見渡した。
窓ガラスに近付き自身の部屋がある宿舎を探してたとき、女の子の悲鳴がし続いて、女性の叱声が届いた。
「コラ! 押したら駄目でしょ」
振り向くと母親が男の子を叱っていた。
男の子の妹だろうか女の子が望遠鏡を持ちながら今にも泣きそうな顔していた。
きっと妹が望遠鏡に目を近づけた時に押したのであろう。
アリスは自分は兄そんなことをされたことはなかったが睫毛が接眼レンズの隙間に挟まって、目を離したときに睫毛が抜けたことがあったというのをなぜか思い出した。
今度は睫毛を挟まないように望遠鏡の接眼レンズに目を近づけた。
真っ暗だった。
きちんと街の方へ望遠鏡を向け、もう一度覗きこむ。しかし、真っ暗だった。
壊れているのかと思い、望遠鏡から少し離れ首を傾げた時、コイン投入口を見つけた。
コインを入れ、もう一度接眼レンズに目を近づける。
景色があった。
アリスは望遠鏡を回し、首都を伺う。
自身の宿舎見つけ意外と小さいことを知り、大通りを見て色々なプレイヤーの姿を知る。ショピングセンターで気になる看板を見つけ今度伺ってみようと思った。自然公園には広大な芝があり、犬と戯れる子供たちを見て、犬もいるのか今度カナタを誘って行ってみようかなと考える。
そして視界に残り1分と表示が出た。
あらかた見終わっていたので焦ることはなかった。最後にもう一度自然公園を見ようと望遠鏡を動かすと自然公園の後ろにある山の麓に何かが見えた。アリスは望遠鏡を操作して拡大する。山の下に鬱蒼とした森があるのでよく見えないが城のようなものがあった。ブレに注意しながら拡大する。
「お城?」
やはりそれは城だった。SF色の街には似合わないヨーロッパ風の城だった。
アリスはより注意して見ようとしたところで視界が真っ暗になった。
時間切れだった。アリスはもう一度コインを入れようと思ったが後ろに列ができているのを知り諦めて望遠鏡から離れた。
他の望遠鏡も列ができていた。
先程までNPCだけだったがプレイヤーも増え始めていた。
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