第58話 Tー8 そして二人は出会う
アリスは自然公園を越えて森へと進んだ。目的地は都庁ビル展示台で見えた山と森の間にある城。
森への道は自然公園にある三日月形をした池の向こうにあり、アリスは池を迂回して森へと入る。
道を進むと壁に、いや山の斜面に突き当たった。道は左に続くがアリスが向かう城は反対方向。城の方角は北北西。
アリスは逡巡したが道のない木々の中へと入った。少し歩いて城か道に辿り着けないなら止めようと決めた。
そしてもう戻ろうかなと思ったときに道を見つけた。いや、道が生れたというべきだろう。道は手前から始まり奥へと続いている。途中まで作ったが止めたというところであろうか。
アリスは道を進み、城へと辿り着いた。
だが、そこは城にしては小さかった。洋館か屋敷といった感じ。
アリスは門扉から背を伸ばしたり、跳ねたりして伺う。庭には人はいなかった。屋敷の
――どうしよう? 声を掛けるべき?
しかし、誰か出てきたらどうしよう? 道に迷ったっていうべきかな? よし!
「すみませーん」
アリスは大声を出した。
しかし、返事は来なかった。
門扉を少し叩いてみることにした。すると門扉が軽く叩いただけで開き始める。
「あわわ。ど、ど、どうしよう?」
慌てるも門扉は完全に開いてしまった。
「入っちゃっていいのかな?」
きょろきょろ辺りを見渡したのち、あそるおそる一歩踏み込んだ。
そして庭を突っ切り、玄関まで進んだ。
玄関口の扉を叩きながら、
「すみませーん。誰かいませんか?」
しかし、中から返事は来なかった。
「本当に誰もいない? それとも居留守かな?」
戻ろうかなと思い、最後にもう一回扉を叩いてみた。すると門扉と同じように扉が開いてしまった。
「え、嘘! どうしよ?」
流石に勝手に入るのはまずいと思い、扉を戻そうとするが固くて動かすことができなかった。
「な、な? なんでよ」
強く引っ張るも全く動かない。
「どうしよ? これって中に入っていいの? 不法侵入はちょっとねえ」
ロビーは吹き抜けで豪奢であった。上はシャンデリアがきらびやかで、下は赤いカーペットが敷かれている。少し奥に2階へと続く階段が。
つい釣られて中に入ってしまった。その時、扉が独りでに閉じてしまった。
「え!? どうしよ? ……ま、まあ、これだけ金持ちなら心も広いよね。たぶん。でも、強盗と思われたらどうしよう。てか、住んでる人ってNPCかな?」
アップデートによりここら辺は最近できたエリアと思う。そして道が出来ていないところに城なんて買うだろうか?
「すみませーん。誰かいませんか?」
大声で訊ねるも、やはり返事はなし。
左右に廊下があり、アリスはまず右側を進み、ドアをノックした。返事がないので勝手ながらドアを開けた。
「すみませーん」
弱々しく言いながら中に入る。
部屋は食堂で誰もいなかった。
次の部屋はパーティー用の大部屋でグランドピアノが置かれていた。
アリスはロビーに戻り、左側の廊下を進まず階段を上がった。
2階に辿り着き、
「すみませーん」
と、返事はないだろうなと思い、声を出してみると。
「誰!? 誰かいるの?」
小さいながら返事がアリスの耳に届く。
声は上の方から。
アリスは廊下を進み、突き当たりを左に曲がると観音開きの扉が勝手に開いた。
「ギャ!」
アリスは驚いて声を出した。
「あー、びっくりした」
ほっと胸を撫で下ろしてからアリスは扉を閉める。
そして階段を見つけ、3階へと上がる。
3階で廊下を右に曲がったところで少年と鉢合わせた。
「きゃ!」
「わ!」
双方、急に人が現れて互いに驚きの声を上げた。
アリスの前に現れたのは同年代の少年だった。
「ここの住人ですか?」
アリス人差指を下にして聞く。
少年は首を振り、
「いや、違う。君は?」
「私はただのプレイヤー。たまたま城を見つけて」
「迷子でなくて」
「違うわよ」
「帰り道知ってる?」
「馬鹿にしてるの?」
「ごめん。そうじゃなくて実は俺、迷子なんだ」
「迷子?」
「恥ずかしながら」
少年は照れながら言った。
「ここに来るまでに道があったでしょ。そこをずっと進むの。途中、道が切れるけどそのまま進めばいいの」
「そっか。それと女の子見なかった?」
「女の子? ううん。見なかったわ」
「そっか。じゃあ、あれは見間違いか。……幽霊?」
アリスに向け訊ねる。
「幽霊って何言ってるの? そんなのい……」
少年の後ろに赤い何かが。
「ギャー!」
「うわっ! どうした?」
「後ろ! 後ろに!」
アリスは少年の後ろを指差す。
「何もいないよ」
少年が怪訝そうに言う。
「え? あれ? 確かに幽霊が」
「幽霊なんてものいないよ」
「アンタが言ったんでしょ。アンタが!」
だがさっき見た赤い髪の少女はいない。
「ここ幽霊屋敷? 玄関扉は勝手に開くし」
「どうだろう? 部屋を見て回ったけど特に何も」
「ここ、出ましょ」
アリスは強く提案する。しかし、
「最後に奥の部屋を見たいんだけど」
「何、人ん
「いや、だから道に迷ったから人を探してたんだよ」
「じゃあ私が帰り道、案内するからいいでしょ」
アリスは憤慨して答える。
「でも最後に奥の部屋を確かめるよ」
そして少年は奥の部屋に向かう。
「ちょ! ちょっと!」
アリスは少年の後ろに続く。
「もしかして怖い?」
「べ、別に」
アリスはそっぽを向いて答える。
そして二人は奥の扉に辿り着く。
「開けるよ」
「うん」
部屋はホテルのスイートルームのような部屋だった。
その奥に天蓋付きのベッドが一つ。そのベッドに金髪の少女が眠っていた。
「君、ちょっと声を掛けてくれない?」
少年がアリスに小声で頼む。
「どうして私が?」
「同姓だからさ」
「あー、なるほど」
確かに自室に知らない男から起こされたらパニックになるだろう。
アリスがベッドに近付き声を掛けようすると少女が目を覚まし起き上がった。
「これは由々しき事態だな。彼女がここに来るとはな。しかも互いのプレイヤーもか」
金髪の少女はアリスたちでなく、アリスたちの後ろを見て言った。
二人も少女が見る方へと振り向くと。
「ギャー!」
アリスが驚き叫んだ。
後ろにいたのは赤い髪の少女だった。
いつの間にいたのやら。気配を感じなかった。いや、今も本当にそこにいるのかすら疑わずにいられないくらい存在が薄い気がする。
「ふむ。では」
そう言うと金髪の少女は指を鳴らした。すると辺り全体が白くなり始める。
「いや! 何よこれ?」
アリスは悲鳴と驚きの声を上げる。
光ではなく絵の具のように世界が白く塗り潰されていく。
アリスや少年の体も白く塗り潰される。
「ちょ……」
喉や口が消され発生ができなくなる。そしてとうとう体全体が消された。
○ ○ ○
「いやあぁぁぁ!」
アリスは目を覚まし悲鳴を上げた。
「あれ? ここは?」
青い空とちぎれ雲が見える。アリスはゆっくりと起き上がる。
そこはスイートルームでなく白い砂浜だった。目の前には紺碧な海が広がる。
「うっ!」
隣から呻き声が。振り向くとそこには少年がいた。
「アンタ大丈夫?」
「ああ。大丈夫。……ここは?」
少年は辺りを見渡してアリスに尋ねる。
「私だってわからないわ。確か城の部屋にいたばすよ。金髪の少女は? それとあの赤い髪の少女は?」
周りには少年しかいなかった。
「俺たちだけか? でもここは? 海?」
少年は立ち上がり、背中と尻についた砂を払う。
「島に飛ばされたか? あれ? マップが……ない?」
「え!?」
アリスはマップを表示させようとするも確かに少年の言う通りマップが現れない。さらに端末を取り出し、レオやエイラに連絡を取ろうとしても繋がらない。
「ど、どうしよう?」
アリスは不安気に尋ねる。
「そうだね。……とりあへず周囲を散策しよう。森は危険だからビーチに沿って歩いてみよう」
「だね」
アリスは弱々しく頷いた。
「俺はユウ。君は?」
「私はアリス」
「よろしく」
少年は微笑みながら手を差し向ける。それをアリスも微笑みを返してその手を握る。
「よろしくね」
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