第59話 EXー2 緊急事態

 ロザリーが急いで部屋に入るとセブルスは立ち上がり、


「おい! 急にイベントが始まってるぞ。ロザリーお前の仕業か?」


 セブルスがロザリーに怒鳴りながら問い詰める。


「はあ? 知らないわよ。イベント執行権は葵なんだから」

「葵、どういうことだ!?」


 今度は葵に聞く。


「とりあへず座って。それとマルテとヤイアが来るのを待って」


 二人はまだ着ていない。

 セブルスは険しい表情で髪をかきあげて座る。

 そしてマルテとヤイアが部屋に入ってきた。


「それでこれはどういうことだ?」


 二人が現れるまで黙っていたセブルスが口火を切る。その言葉には怒気が含まれている。


「詳しくは判りませんが、どうやらアヴァロンとタイタンのプレイヤーがハイペリオンと接触したようです」

「接触? どうして? てか、プレイヤーが? いやいや、それ以前にアヴァロンとタイタンのプレイヤー?」

「はい。両プレイヤーがです。そしてその原因はが誘導したとのこと」

「! 見つかったのか? でも眠っているんじゃあ?」

「眠っているからこそアヴァロンプレイヤーを使い行動を起こしたのかと。それで一度エリア全体を見直すことにしたのです」

「だから私のイベントを。あれならプレイヤーを別のエリアに移動できるしね」


 ロザリー顎に手を当て頷く。


「その通りです」

「しかし、危ねえな。もしタイタン側のとクルエールが会ったら大変なことになってたぞ」

「マリーからは?」


 マルテが聞いた。


「マリーはきちんとを監視しています。今のところ問題はありません」

「弱体してるからといって安心はできませんね。クルエールも眠っているといっても今日のような事態を発生させるのですから」

「で? 私の考えたイベントは実行してもいいの?」

「はい構いません。ただし、急にイベントを始めても混乱するだけです。ですので2日程をインターバル期間として置き、それからイベントを始めましょう。プレイヤーにはこちらが考えた通りに説明しましょう」


 葵がそう言うと、ロザリーたちの前にプリントが現れる。

 四人はプリントに目を配り、まずロザリーが発言する。


「あのさ、私が考えたイベントと少し内容が違うんだけど」

「今回は急ごしらえということなので一部内容を変更してみました」

「元のはどんなんだったんだ?」


 セブルスがロザリーに問う。


「クエストをクリアしてポイントを稼ぐの。そのポイントで大会出場権やアイテムを獲得したりするのよ」

「クエスト? 大会?」

「クエストと言ってもモンスター狩りじゃあないよ。魚釣りやクイズ大会、ビーチーバレーとかだよ。最後の大会も競技大会とかだよ」

「要はミニゲームで予選して本選は大会扱いか」

「ん~そういうのとは違うんだけど」


 葵が咳払いして、


「それで今回はお題形式にしてみました。お題をクリアするとポイントを獲得。すべてのお題をクリアすると難易度の高いお題に挑戦できるようにしました」

「報酬とかはあるのか?」

「報酬はアイテムとゴールドです」

「それだけで満足するのか?」


 セブルスが何を言いたいのか葵にはわかった。その上で、


「流石に解放権は無理です」

「……だよな。もしが解放されたやばいしな」

「報酬アイテムは今のストーリーイベントに役立つ限定アイテムを取り揃えています」

「開催期間は……短いな。2日のインターバル入れて5日間かよ」


 プリントの開催期間を見ながらセブルスは眉をひそめる。


「あのう、島の数が多すぎませんか?」


 ヤイアの発言にマルテが続いて、


「確かに。アヴァロン、タイタン合わせて計1000」

「小さなバカンス島でも全部の島を使うってわけではないよ。だいたい1つの島に50人前後くらいだよ」


 ロザリーが弁明する。


「もっと大勢にしては?」

「NPC合わせると数が多くなるじゃん。それだと面白くないかなと思って。プレイヤーには久々に羽を伸ばしてもらいたくてさ」

「ちなみにどうやって割くのですか?」

「一応50人を基本としてかな。メンバーがバラバラにならないよう注意して分けるよ」

「……本選の大会って言ってたよな。もしかして本選用のバカでかい島を作ったんじゃあ?」

「さすがセブルス。わかってるぅー」


 ロザリーは無邪気にウインクする。


「他に何か気になることや質問はありますか?」


 葵の問いに誰も質問をしてこなかった。


「では、イベントはプリントに書かれている通りにします」


  ○ ○ ○


「……ということで纏めておきました」


 報告のため葵はハイペリオンの元へと伺っていた。

 ハイペリオンはキングサイズのベッドに足を伸ばしながら座っていた。


「ご苦労」

「二人、いえ三人はどうなりましたか?」


 ここに来たアヴァロン、タイタンのプレイヤーそしてクルエールのことを聞いた。


「二人は島へ飛ばしたわ。クルエールはまた深く眠ってもらったわ」

「クルエールはいまどこに?」

「ここではないここよ」


 葵は訝しげに、


「それは、どういう?」


 しかし、その問いにハイペリオンは答えずベッドに上半身を倒す。


「あの、大丈夫なんですか?」

「万事通りよ」

「しかし、クルエールがここに来たのですよ」

「私にとっての万事とは多くの道筋があり、その中で上手くこちらの意図に沿っているということ。あなたのような1つに絞り、それに合わせることではないの」

「……わかりました。でも皆、不安がっております」

「それは悲しいわ。私を信じていてくれないなんて」


 とは言うものの悲しんでいる風には見えない。


「ロザリーたちと直接お会いになられては。彼女たちもあなたにお会いになればきっと……」

「信頼が得られると?」


 ハイペリオンは葵の言葉を先読みして答える。


「実に人間くさいわね。でもそれがあなたたちらしいのよね。大丈夫よ。葵、あなたならきちんと纏められるわ」

「……」


 葵は何も言わず部屋から消えた。





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