第56話 Aー4 トップランカー

「セシリアは?」

「それが少し待っててだとさ」


 ユウの質問にアルクが答える。アルクはリビングでソファーに座りくつろいでいる。ミリィはキッチンにいてコーヒーをカップに淹れているとこだ。


 ユウたちはセシリアが図書館から借りた本を読み終えたからリビングに集まるよう端末からの連絡で指示されていた。だが、当の本人はまだ着ていない。


「どうしたんだろ?」

「読んだあと内容を纏めるためメモを取ってるらしいよ」

「それならその後に連絡してくれよ」


 ユウは肩を落とし、ため息を吐いた。


「ま、少し待ちましょ」


 アルクはそう言ってコーヒーの入ったカップに口を付ける


  ○ ○ ○


「なんで強い人をハイランカーって言うの? 普通トップランカーって言わない?」


 セシリアを待っている間、ふと疑問に感じていたことをユウは二人に聞いた。


「ああ、確か、昔はそう言ってたんだよね?」


 アルクが少し自信のなさげにミリィに聞く。


「はい。ただリリースから数ヶ月ぐらいまではトッププレイヤー、その後にトップランカーと。今はハイランカーや上級ランカーと呼ばれています」

「? どうして?」

「私、知ってる。確か昔はランクシステムがなかったんだよね」

「え? そうなの?」

「はい。アルクさんの言う通りにランクシステムはありませんでした。その頃はトッププレイヤーという名だけが流通されていました。けれど、しばらくしてチーターが溢れてしまったのです」

「チーター? 動物の?」

「ユウ、何言ってんのさ。チートプレイヤーだよ。そうよね?」

「そうです。かつてはレベル上げの裏技ならまだしも悪質なプログラムによるチートプレイが横行していたのです」

「それでランクシステムができたんだよ」

「しかし、ランクシステムもすぐにクラッキングにより暴かれ、悪質なプログラムによりチート行為が溢れたのです」

「その頃が一番やばかったんでしょ?」


 アルクが身を前にして聞く。

 ミリィは悲しげな顔をして大きく頷き、


「この頃まだPKやアイテム譲渡がありましたからね。そしてそういったPKの多くはトップランカーだったのです。だからトップランカー=チートプレイヤーというイメージだったのです。アムネシアもそういうPKを見つけ運営に報告するために作られたのです」

「ミリィってすごい人なんだ」

「いえいえ、私なんて全然。アムネシアの活動実績なんて微々たるものです」


 ミリィは静かに首を振る。


「確かあの頃っていじめとかもあったんでしょ?」

「はい。ありましたね。本当にあの頃は大変でした。それで多くのプレイヤーが引退しましたね」


 ため息混じりにミリィは言う。


「その後はPKとアイテム譲渡が無くなって違法なトップランカーは運営に垢バンのみならず裁判で訴えられましたね。その後は皆さんの知るようにです」

「私が始めたのはその頃だな。親にやっと許可が得てさ」

「私にとってはその頃からアムネシアがおかしくなり始めた頃ですね」

「それじゃあハイランカーってどこからがハイランカーなの?」

「これといった定義はありませんが大体、ハイランカーはランク100以上、最低でもジョブクラス4以上でしょうか。レベルが低くてもクラス5、もしくはEXジョブプレイヤーはハイランカー扱いですね。

 上級ランカーは70以上、ジョブクラス3か4くらいでしょうか。まあ、あくまで私の物差しですが」

「でも私もそれくらいが基準と思ってるよ」


 アルクが頷きながら答える。


「そのハイランカーより上っているの?」

「ありませんね。でも、ホワイトローズのスゥイーリア組は神クラスなんて言われてます」

「神なの!?」

「ええ。正直なろうとしてなれないレベルですよ。天性の才、運、そして現実での生活を捨てなければいけません」

「さすがに現実の生活を捨ててまでなりたくないかな」


  ○ ○ ○


「……というのがカルガム山の伝説よ!」


 セシリアは胸を張ってカルガム伝説を語り終えた。


「それじゃあ、どうしてその勇者グラムディアが悪者になったの?」


 ユウは眉を八の字にさせ聞く。そして開かれた文庫本を見る。そこには物語のラストには凱旋した勇者グラムディアの挿し絵が載っている。


「それはわかんないわ」


 またセシリアは胸を張って答える。


「なんで堂々と言えるのかな?」

「でも勇者から黒騎士になったことが重要なのかもしれませんよ」


 ミリィが文庫本をしげしげと見ながら言う。


「よし。この後の続きがあるか図書館で確かめてみよう」

「あるかな? というかこれフィクションの可能性も高いよ」

「ええ! それなら私何のために読んだのよ!」

「大丈夫ですよ。わざわざこんなフィクションを用意しないと思います。きっと何かある可能性があると思います」

「そう! そうよね!」

「それじゃあ、セシとユウは図書館に。私とミリィは少しカルガム山に向かってみるよ」


  ○ ○ ○


 目当ての本はすぐに見つかりセシリアは部屋にこもり読書を。


 ユウは暇なので散歩に出ることにした。

 南の商店区域。次に酒場、バー、ギルドのある区域。そしてもう一度ストーリーイベントの現場となった城門広場を巡った。


 城門広場の後ユウは近くの自然公園に向かった。自然公園は広大や芝生、池、遊具のあるエリア、公園内をぐるっと一周できる遊歩道などがある。ユウは遊歩道を歩くと別の道を見つけた。興味半分その道へと進路を変えた。


 しかし、前へ進む度に木々が増え辺りは暗くなる。

 やはり戻るべきか? しかし、道が続いているし何かあるのかもしれない。それにいざとなったらあのを目指せばいい。城のある方を見上げると高い尖塔が伺える。だから問題はないだろうと考えた。


 だが道が次第に傾斜を持ち始めて坂道になり、自然公園ではなく森か山に変わっていく。さらに獣道のようになり始めて、一度歩みを止めた。


 ――やっぱ戻ろう。


 ユウは反転してもと来た道を戻る。

 だが、歩き続けて二股の道に遭遇した。来た時にはなかったはず。いや、進行方向からでは見えなかったのか。さらにその二股の道に近づくと左手にもう一つ道があった。その道は少し傾斜のある下りの道だった。さすがにこの道は違うと思うがこの道は公園に近づいているような気もする。


 だが、怪しい道は避け、真ん中の道を選んだ。

 道は緩やかな傾斜で下り、ユウは当たりかなと思った。けど、またしても二股の道に遭遇。


 ――やっぱり引き返したほうが良かったか? なんとか皆と連絡が取れれた。


 その時、ユウは端末のメッセージシステムのことを思い出した。それと掲示板のことも続いて思い出し、いざのなればこれで連絡が取れると知り安堵した。

 それらのことによりユウは迷うことなく道を選び、歩み始めた。


 結果、道はオオハズレだった。徐々に道に石が増え始め、うっかりしていると躓きそうになる。


 そしてとうとうユウは歩みを止めた。自らの判断で歩いて出口を見つけるのを止め、助けを呼ぼうと端末を取り出した。そしてアルクたちにSOSのメッセージを送ろうと。だが、送信ができなかった。さらに掲示板も見ることも書き込むこともできなかった。


 ――このまま進むか? 道を戻るか? それとも坂を登り、高い地点から全体を見るか? それとも坂を下るか?


 ユウは立ち止まり腕を組んで熟考する。坂は木々があり危ない。だがゲーム内だからこそ無茶はできるはず。ダメージを受ければHPも減る。最悪HPをゼロにするというのも手である。ゲームではゼロになれば最終休憩ポイントか街の外に飛ばされる。


 ――よし。


 ユウは意を決して坂を下る。顔面に腕をクロスさせ駆ける。木々の枝がユウの体や腕を叩いたり引っ掻いたりする。道はなく柔らかな土をユウは踏む続ける。


 そして道に辿り着いた。いや、道かどうかまだ怪しかった。だが木々も草もなく土の線が伸びている。ユウはその道らしき道の向こうに人の姿らしきものを視界に捉えた。


 ユウは目を凝らした。そしてそれが人の姿だと確認した。赤い髪の少女。少女は一度ユウに振り向くもすぐに前を向き歩き始める。


「ま、待って! 待ってそこの人!」


 ユウが声を上げるも少女は止まらずに進む。急いでユウはその背を追い走り始めた。だが不思議と少女の姿を見失った。いや、消えたというべきだろうか。


 ――消えた? いや、違う。そんなことは。


 ユウは走った。道を進めば会えるのではと。だが、少女の背を見つけることはなかった。しかし、少女の替わりに道の向こうから城の姿が目に入った。ユウは走りから歩行に変え、城を眺めながらゆっくり前へ進む。


 だが目の前の城は王都の城ではなかった。この城は小さく、どちらかというと古い豪邸のようでもあった。屋根も赤かった。王都の城は青かったはず。

 少女は城へと入ったのか? それとも追い越したのか? 


 ――いや、追い越しはないはず。


 ユウは門扉に近付き、


「すみませーん。誰かいませんか? すみませーん」


 しかし、返事がなかった。

 もう一度声を掛けた。だが、音はユウの声だけでそれ以外はやけに静かだった。

 ユウは試しに門扉を軽く押してみると錆びた金属音を出しながら自動のように門扉は開いた。


 驚きながらもユウは城の門扉を越え、庭へと突き進む。

 歩きながら何度も、左右に顔を動かし、


「すみませーん。誰かいませんか?」


 と、何度も声を掛け続ける。

 アーチを越えて玄関に辿り着いた。ユウは一呼吸のあと扉を叩いた。しばらく待ってみるも何の返事もなかった。今度は強く叩いてみた。しかし、結果は同じ。


 扉を押すと扉も門扉と同じ様に鍵が掛かってなく音を立てて誘うように開いていく。

 城の中は灯りがあり、城の見た目とは違い綺麗であった。ロビーは吹き抜けで天井から豪奢なシャンデリアが。下は赤いカーペットが敷かれている。ロビー奥には曲がりくねり2階へと続く階段がある。


 ロビーの左右に廊下があり、ユウは逡巡した後に右にへと折れた。

 右側は廊下を進み、近くのドアを開けると食堂であった。もう一つのドアを開けるとそこは食堂より広い大部屋であった。グランドピアノが置かれていて。パーティー用の部屋なのであろう。


 ユウはロビーに戻り、城の左側廊下へと進んだ。

 左側は応接室や展示室といったコレクションルームで廊下奥にあるドアは書庫であった。いや、図書館と言うべきであろうか。それほど広く高い部屋であった。書庫は2階建てでユウは室内の階段から上がった。そして2階ドアから出て廊下に。2階も明るかった。


 ユウは「すみませーん」と声を出しながら進んだ。2階の部屋はベッド付きの小部屋と1階の応接室のような大部屋がいくつもあった。


 2階半分ほど進んだ頃にはドアを開けるのも億劫になり止めていた。そしてとうとう廊下の突き当たりに。突き当たりの左に廊下がありユウはそのまま進んだ。そして今までと違う小さな観音開きの扉を見つけた。そのドアを開けると中は部屋ではなく物置部屋だった。箒やバケツ、ごみ箱、雑巾が。ユウはため息を吐き、項垂れた。


 ――このお城は無人なのではないか? もしかして幽霊屋敷? さっき見たのは幽霊? いやいやそれはない。もう散策は止めよう ここはきっと買い手のつかない城なのではないか?


 ユウは頭の中で自問自答をして廊下を再度進み始める。廊下の奥に階段が見える。もし3階にも何もなかったらここを出ようと決意した。


 そういったことを考えていたせいか観音開きの扉をきちんと閉めていなかったことに気づかなかった。

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