第239話 Tー8 プレゼント

 さてチェンからのプレゼントをどう渡すべきかとレオは悩んでいた。


 キョウカとは繋がりがあるため、カナタに会うことに関してはハードルは高くない。


 が、プレゼントになると違う。


 親以上に歳が離れているわけではないが、兄以上には歳が離れている。


 いきなりプレゼントを渡せば警戒しないだろうか。


 レオは今までカナタのような年の離れた子にプレゼントを贈ったことも、面倒を見ることもなかった。


 キョウカもしくは誰かを経由して渡すという行為が、なぜかチェンにとっても駄目なことのようで、どうもレオ本人がカナタに直接渡さないといけないらしい。


 ──しかし、どうやって。


 レオはリーダー室で溜め息を吐いた。


 ──こういう時にあいつがいてくれたら……。駄目だ。俺がちゃんとやらなくちゃあ。


 レオは弱気を振り払うように首を横に振る。


 ──変に策を講じるのはやめよう。


 直接に会いに行くことに決めたのだった。


  ◯ ◯ ◯


 レオはキョウカにデマについて話したいことがあるということで約束を取り継いでもらった。


 そして今、キョウカ達が根城にしている施設の応接室に通された。


 待つこと数分、キョウカが現れた。


 レオは前置きなしでデマ、そしてチェンと呼ばれる外からの協力者について話、そのチェンからカナタに渡すように頼まれた物があると言った。


「なるほど。で、その預かった物とは?」

「これだ」


 レオはクッキーの入った包みを手の上に載せて、キョウカに見せる。


「中身は? クッキーだ」

「ん?」


 キョウカは怪訝な顔をする。


 それもそうだろう。


 メッセージや子供であるカナタを安心させるためのものなら分かるが、クッキーはおかしくないだろうか。


「なら私がカナタに渡しておこう」


 キョウカはこちらに渡せと手を差し出す。

 それにレオは首を振って拒否する。


「いや、これは直接渡すように言われている」

「誰が渡しても同じだろ?」

「中には手紙が入っていて、間違いで誰かが封を開けると消失するようになっているらしい。だから駄目だ」

「手紙? 彼らは日本の公安と名乗っているのだろう?」

「ああ」

「その公安がどうして子供のカナタに手紙を出す?」

「……知らん」

「知らんって、君、大丈夫かい? おかしいと思わないのかい?」


 確かに言われてみるとおかしいとレオは感じた。公安が大人ではなく子供に。なんの手紙だというのか?


「チェンという名前も怪しいだろ? どうみても中国か韓国よりの名前だ」

「本名でなくコードネームの可能性もあるだろ?」

「ならなおのことチェンという名は避けないかね?」

「だが、彼らは本物の外から来た公安なんだ。俺は確かに証拠となる映像を見せてもらった」

「映像。フェイクという可能性は?」

「まさか? 本物だ」

「断言できるのかい?」

「できる」


 レオは間髪入れずに答える。


 信じてるというより、信じたいという気持ちが高かった。


「私は少し考えるが」

「キョウカさん、もう中国だろうが日本だろうがどうでもいいだろ? ここから出られるんだ。出られるというなら藁にでもすがるべきだ」


 レオは力説した。

 相手が誰であれ、どうでもいいと。


「なら、ここでカナタを呼んで、包みを開けさせる。もしもの時のために私もクルミも立ち会うがいいかね?」

「ああ」


 そしてキョウカはカナタとクルミを端末を使って応接室に呼び、カナタにクッキーが入っているという包みを開けさせた。


 レオは固唾を飲んで見守った。


 公安が子供のカナタに送らなければならないメッセージとは一体?


 だが──。


 包みの中には何もなく、あるのはクッキーだけだった。


「カナタ、皿に包みのクッキーを載せるんだ」

「うん」


 クッキー全てを皿に載せても、それ以外は何も入っていなかった。


 クルミはカナタから包みを受け取り、中を調べる。が、包みの内側にメッセージが書き込まれているということもなかった。


「何もありません」

「ふむ。クッキーの中にあるとかかな?」


 次にクッキーを全て割ってみることにした。

 だが、クッキーの中に折り畳められた手紙があるわけでもなかった。


「ま、さすがあるわけないか。クッキーに入れるほどとなると小さいしね」

「何も……ないと?」


 レオは割れたクッキーを見て呟く。


「君、騙されたんだよ」


 キョウカは呆れ気味に告げる。


「そんな!? 彼女は……」

「本物という証拠はないだろ? 見せられた映像やらはフェイクの可能性が高い」

「でも、なおのことどうやって?」

「さあ? もしかしたらそいつらがロザリーの仲間かもしれんがね」

「仲間? 敵対しているのでなく?」

「敵の敵は味方という理論を使って、君達に取りろうとしたのかもしれないよ」

「なんでそんなこと?」

「そりゃあ、閉じ込めたプレイヤーの心理状態を知るためとかね。よくミステリー映画とかであるだろ? 真犯人は主人公の動向を知るために身近な人物だったってやつ」

「なら俺はどうしろと」

「もう少し相手に乗ってやるという手もある」

「奴らに協力しろと?」

「彼女が何者かは不明だから、しばらくは協力して正体を見極めるというやつさ」


  ◯ ◯ ◯


「で、中身には本当に何もなかったんだな?」


 セブルスが聞いた。


 レオが奴らからのプレゼントを持ってきたということでセブルスはキョウカ達のもとへ訪ねてきたのだ。

 レオは帰り、カナタはクルミに任せて、キョウカはセブルスと相対している。


 本当はクルミことマリーにも同席を考えたが、今はチェンのこともあり、いつカナタが攫われるかもしれないので見張としてマリーに任せた。それとカナタに異変があった時のためも含まれる。


「本当にただのクッキーだったよ。マリーにスキャンをしてもらったが、ウイルスはこれっぽちもなかった」

「じゃあ、そのチェンという女の狙いはなんなんだ?」

「さっぱり皆目見当もつかない」


 キョウカは両手のひらを上にした。


「目的がないわけではないだろうしな」


 セブルスは背もたれにもたれかかり、顎を撫でる。


「こちらの反応知りたいか。もしくはレオが自分達を信じているかを調べるとか?」

「そうかもな。でも、デメリットが多いだろ? レオはどうだった? 奴らが偽者と気づいたか?」

「こちらなりに意見を述べて、レオには彼女が偽者ではないかと思わせることに成功したよ」

「そうか。てか、普通に考えたら、怪しいって分かるのになんで信じるかな?」

「それだけ彼も追い詰められているんだろう。恋人エイラと妹のアリスを失ったのだから」


 ただでさえ、ゲーム世界に閉じ込められ、強制的にデスゲームに参加させられているのに、そこへ恋人と妹を喪失したんだ。精神状態が不安定になってもおかしくはない。


「でも、精神状態はちゃんと把握してるぜ。対応もな」


 プレイヤーが暴走しないように精神状態は常にチェックされ、危険域達するとセロトニンやらで落ち着かせている。


「それでも完璧ではないだろう」

「……そうだけどよ。……でもさ、普通に考えたら分かるんだけどなー」


 セブルスは頭の後ろに手を組んで天井を見上げる。

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