第240話 Tー9 イベント……開始?

 もうすぐイベントが開始となる時間にレオは疲労でソファに横たわっていた。


 そこへパーティーメンバーが入室して、


「そろそろ時間ですよ。ブリーフィングルームで皆待ってますよ」

「あー、もうそんな時間か」


 レオはゆっくり起き上がり、自身の肩を揉む。


「しっかりしてくださいよ」

「分かってるよ」


 パーティーメンバーが退出した後、レオは溜め息を吐いた。


「何をどうするんだっけ? 準備ってなんだ?」


 レオは独りごちた。


 けれどそれも仕方なく、ここ最近は掲示板での噂の対応をしていて、ろくにイベントの準備をしていなかったのだ。


 部屋を出て、廊下を歩く。


 ブリーフィングルームのドアの前に辿り着くと、ドアを開ける前に一つ呼吸をする。そして顔をはたき、気合いを入れる。


  ◯ ◯ ◯


「──話は以上だ。それじゃあ、時間だ」


 イベント開始時刻間近になり、レオは締め括った。


 いつもなら質問がちらほらあったり、意見を述べる者もいたが、今回はパーティーメンバーもイベントにあまり気乗りではなく、どこか気が緩んでいた。


 ──仕方ないか。


 ここ最近は掲示板の情報とチェン達に対しての情報収集がメインだった。

 もちろん、一部のパーティーにはイベント攻略の作戦立案を任せたりもしたが、彼らもまたイベントよりもチェン達のことが気がかりだった。


 そしてイベント開始時刻になり──。


 何も起こらなかった。


 いつものように体が光、イベントフィールドに飛ばされることはない。


「どういうことだ?」、「なんで?」、「開始時刻間違えたか?」


 メンバーがざわつき始める。


「皆、落ち着け。おい! 掲示板はどうなってる?」


 レオは現秘書のメンバーに問う。


「分かりません。掲示板は……使えません」

「使えない?」


 レオも端末を取り出して、掲示板を開こうとするが開くことはなかった。


「どうなってんだ?」、「中止か?」、「不具合か?」

「とりあへず他のプレイ──」


 プレイヤーとコンタクトを言おうとしてレオは止まった。


 全身が石のように固まり、体が動かなくなった。

 それはレオだけでなくメンバー全員も。


 そして全員の意識が落ちた。


  ◯ ◯ ◯


 目が覚めた時、レオは西洋のお城の床に倒れていた。


 起きあがろうとした時、頭がくらついた。


「まだ起き上がらない方が良いよ」

「だ……君は!?」


 声の主はカナタだった。


「どうしてここに?」

「どうしてって、そりゃあ、僕が読んだんだから」

「君が?」

「うん。僕は人じゃないの。量子コンピューター『麒麟児』で、自我を持ったAI。つまりAEAIが僕の正体」

「麒麟児って、あの中国の?」

「そう」

「それが本当なら、どうしてここに?」

 ここはロザリーという日本のAIによって人間達が閉じ込められている。なぜそこに中国のAIが。

「彼女達は君達日本人と人質を助けに来た僕を封印することだったんだよ」

「人質?」

「量子コンピューター『クルエール』。僕は彼女を助けに来たのだけど、罠に引っかかって、恥ずかしながらここに閉じ込められたんだ」

「ロザリーはどうして俺達日本人とお前達量子コンピューターを閉じ込めるんだ?」

「それはね……」


 と言い、カナタは前に歩み、レオに近づく。


 近づいてはならない。そうレオは感じた。

 離れようとしたけど、体が動かなかった。


 カナタは近づく。一歩、一歩と。


「何するつもりだ?」


 唯一動かせる口を使ってレオはカナタに問う。


「すぐ済むから」


 そしてカナタは指を前に伸ばしてレオの体に触れる。


 レオの体が波打つ。


「がっ!」


 体の中が渦を巻くように捻る。

 心臓に異物が入ったような感触。そして鋭い痛み。

 頭の中はプチプチと何かが膨らんで弾け、視界は砂嵐。

 喉から何かが込み上げてきて、喉が熱くなる。


 足が震える。腹から力が抜け、立っていられなくなる。

 それをカナタが指で抑える。


 レオが気絶した時、カナタは指を離す。レオの体は膝から崩れ落ちカナタへと倒れる。


 が、レオの体がカナタへぶつかることはなかった。


 カナタの体が消えたのだ。


  ◯ ◯ ◯


 レオはゆっくりと起き上がる。

 そこへ1人の背の高い金髪の女性が声をかける。


「どう? 融合した感じは?」

「アーミアか。問題はない」


 レオは拳を握り、そして開く。


は?」

「今は眠ってもらっている」


 レオは眠っているというなら、今、その体を動かしているのは誰だというのか。


「それじゃあ、行きましょうか。皆、お待ちかねよ」

「ああ」

「目が覚めたら彼はびっくりするでしょうね」

「そうだな。レオには可哀想だが、致し方ない。……で、現状は?」

「計画は順調。問題は向こうの出方次第ね」

 アーミアはくすりと笑った。


  ◯ ◯ ◯


 レオは広場へと移動した。

 そこには囚われた全タイタンプレイヤーがいた。


「レオ! どこにいたんだよ。探したんだぜ」


 パーティーメンバーの1人がレオに駆け寄る。


「すまない。それで皆は?」

「皆、向こうさ。お前だけだったんだぜ。まじでどこにいたんだ?」

「向こうの人だかりさ。それより今はどうなってる? 何か情報は掴んだか?」

「それがまだ。ただ『大事な話があるから広場にいるように』というメッセージがきた」

「それは俺もきた。たぶんここにいる全員プレイヤーもだろう」


 レオはメンバーに誘導されてパーティーのとこへと向かう。

 そしてメンバーと再会した時、音声アナウンスが響き渡る。


『皆さん、初めまして。私はチェンと言います。外から来た公安の者です。もう掲示板などでご存知かと思いますが、皆さんをお助けに参りました』


 そのアナウンスにプレイヤー達は様々な反応をする。1番多いのが歓喜。続いて驚愕、嫌疑の声。そして少ない数の怒声。

 怒声に至ってはさっさとしろというもの。


『これよりとても大事な話があるのでお静かに』

 と告げると全プレイヤーは黙った。


 そしてアナウンスは告げる。


『まずはキョウカとクルミ。このお二人を殺して下さい』

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