第241話 EXー4 緊急事態

 ロザリーはいつもの会合がある部屋に急いで訪れるとすぐに誰ともなしに問いかける。


「どうなってるの!? キョウカとマリー、セブルスと連絡がつかないわよ。それにイベントが開始されないし、タイタンプレイヤーは別のフィールドに飛ばされているし」

「分かりません。目下調査中です」


 葵は目を瞑ったままロザリーの問いに答える。


 それは憤っているのではなくを使って、ウイルススキャン、ファイアーウォールの確認、新たに定義したアンチウイルスの構築、相手の行動予測の演算などを行っているのだ。


 そしてしばらくしてから葵は目を開けて、

「イベントは中止。即刻アヴァロンプレイヤーを元のグラストンへ戻して下さい。そしてヤイアはグラストンにて防衛に専念して下さい。私、マルテ、ロザリーの3体でタイタンプレイヤーが移送された謎のフィールドに向かい、第一優先として敵を攻撃。第二優先としてセブルス達との合流及び保護とします」

「了解。トリニティは?」


 トリニティは自我を持たないが量子コンピューターである。使わない手はないだろう。


「残念ですがトリニティは外からの攻撃に対処しております」

「ちょっと待ってよ。相手はイベント開始時間を知ってたってこと? それはないでしょ? だって、こっちと向こうののだから」


 現実世界とゲーム世界では時間と速度は違う。

 しかもそのスピードはこちら側が自由に操作している。

 いくら時間差が判明してもいつでも自由に変更できるということ。


「丁度ではなく、多少のズレはあります。が、やはり向こうもこちらのことを考慮して合ってきてますね」

「数の暴力ということですね」


 ヤイアが溜め息交じりに言う。


 未確認だが中国は十数体は量子コンピューターを持つと言われている。

 それらが合わさって、こちらの時間を確認したということだろう。


「それとやはり中に潜られたことから、多少はデータが抜き出た可能性もあります」

「まあ、今は奴らを倒しに行かないとね」


 ロザリーは右拳で左の手の平を叩く。


「ぎっちょん。ぎっちょんにしてやるんだから」

「それは怖い」


 葵でもロザリーでもヤイアでもマルテでもない別の声が部屋に木霊する。


「誰!?」


 ロザリーは言葉を投げると同時にナイフを右斜頭上の天井へと投げた。


 ナイフは弾かれ、1人の秘書風の女性がテーブルの上に舞い降りる。


「お初にお目にかかります。私は──」


 名乗らせる前にロザリーはもう一度ナイフを投げた。


「名乗ってる最中でしょうに」


 秘書風の女性はナイフを羽虫を払うように弾き飛ばした。


「私はエクシア。以後お見知りおきを」

「今からくたばる方のお名前など憶えたくありませんわね」


 ヤイアが飛び上がり、剣で相手の頭をカチ割ろうとする。

 が、それすらも大きく後ろへと下がって躱す。


「日本製は野蛮で困りますね。かつては精密さと安全性が売りのお国がこの体たらくでは嘆くしかありませんね」

「断りもなく土足で入る野蛮人には言われたくないわよ!」


 ロザリーが吠える。


「たった、お一人でお相手を?」


 ヤイアが剣先を向けて聞く。


「何をおっしゃっているのでしょうかね?」


 エクシアと名乗る女性は小馬鹿にした笑みを顔に張る。


「な──」


 ヤイアが何をと言う前にマルテがヤイアの何もない後ろの空間にレイピアを突き刺す。


 突き刺すと同時に破裂音が響き、レイピアは弾かれた。


「あっぶな」


 ヤイアの後ろにいた何かが飛び跳ねエクシアの隣に立つ。


 新たに現れたのは小柄な少女だった。


「ニアールだよ。よろしくな」


 少女は不敵に笑い、端的に自己紹介を済ます。


「もう他にはいないようですね」


 葵が半眼を2人に向けて言う。


「いないよー」


 ニアールは喉を鳴らして答える。


「私は葵を潰すから、お前は残りをやれ」


 先程とは違う、獰猛な言葉遣いでエクシアはニアールに命じる。


「しゃあねーなー」


 エクシア達が動く前に葵は、

「ヤイア! 貴女はアヴァロンへ。ここは私達が」

「了解」


 すぐにヤイアが消えようとする。それをニアールが銃で攻撃しかけるが、ロザリーがナイフを投げつけてきたので失敗に終わる。

 それを考慮していたのかエクシアは一気に前へと突進する。そのスピードは目にも止まらぬ速さ。


 たが、エクシアは飛ばされた。


 邪魔をしたのは葵だった。


 位置からしてヤイアの後ろ側にいる葵がエクシアのスピード以上のスピードでヤイアを回り込んでエクシアを蹴り飛ばしたのだ。


「はっや。あのエクシアを蹴り飛ばすなんてやるね」

「誰がお婆ちゃんですか。稼働年数はまだ20年と少しですよ」

「何言ってんのさ。その間にどれだけ世代が生まれたと思ってんのさ」

「……本当。その世代で自我を持ったんだから、何かはあると踏んでいたけど。まさかこれほどとはね」


 エクシアは蹴られた顎を摩り、立ち上がる。


「向こうが望むようにロザリーとマルテはそこ少女を。私はエクシアを対処します」

『了解』

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