第242話 EXー5 戦闘

 葵が指を鳴らすとエクシアは広い部屋にいた。

 どうやら先程の部屋から強制的に飛ばされたようだ。


「てっきり牢屋にぶち込まれるのかと思ったのだが」

「貴女を1人にしたら何をするか分からないでしょ? その気になれば牢屋にいようが逃げる事も、もしくはそこから汚染を開始することも可能でしょうし」

 と葵は答えた。


「ま、そうだな。でも、どうしてお前1人なんだ?」


 ここにはエクシアと葵の二人きり。他はいない。


「さっき言ったこと聞いてませんでした? 私は貴女を。もう一人は私の仲間二人で対応すると」


 それを聞いてエクシアはやれやれと首を振る。


「何か?」

「それでいいのか? お前一人で私の対応なんて出来るの?」

「無相応だと?」

「そりゃあ──」


 そうだろうと言う前にエクシアは間合いを詰め、ナイフで切りかかる。

 葵は寸前で腕でガードし、ステップで距離を取る。そしてすぐに杖を取り出し、エクシアからの追撃を防ぐ。

 エクシアは右回し蹴りで葵の杖を蹴り飛ばす。

 葵は後方へと飛ばされ、床に足でタタラを踏む。


「ほうら。反応が遅い。それに武器の取り出しも。旧世代はやっぱ駄目だな」


 葵は腕の傷を修復し、

「随分な自信ですね。それより、傷の修復をしなくていいのですか?」

「!?」


 言われてエクシアは気づいた。右膝から下に火傷があったのだ。それを見てエクシアは笑う。


「へえ、面白い。やるじゃん旧世代」

「それはどうも」


 葵は笑みを返した。


 エクシアが火傷を治す前に葵は動いた。杖をエクシアの頭を叩きつける様に振り下ろす。


 エクシアはバックステップで杖を避け、ナイフを投げる。

 それを読んでた葵はナイフを避け、杖先から火球を出す。

 火球はエクシアの右足の蹴りで掻き消される。

 その瞬間に葵は真っ直ぐ飛びかかり、杖でエクシアを突くように伸ばす。

 エクシアは避けようとしたが、左足が氷で床とくっついていたので左手で杖先を掴む。


「その体勢で防ぐんですか?」

 葵は感嘆の声を出す。


「これくらいなんてことない」


 エクシアは左足の氷を力で崩そうとする。


「なら、これは?」


 相手の左足が自由になる前に葵は杖から電撃を放つ。


 高圧な電流でエクシアの左手が焼ける。


 エクシアは銃を虚空から生み出し、右手で掴んで、トリガーを引く。


 葵はすぐに杖を離して、飛び退く。


 エクシアは掴んだ杖を葵に向けて投げ飛ばそうしたが、杖が爆発した。


 左手が吹き飛んだにも関わらず、エクシアは眉一つ変えずに平然としている。


「新型もこの程度ですか?」


 葵が酷評する。


「まだ本気を出していないんだが?」

「慢心してはやられますよ?」

「仕方ない。本気だすか」


 エクシアは虚空からいくつもの多種多様の銃を生み出す。そしてそれらは掴まれることなく、トリガーが引かれる。


 無数の様々な弾丸が葵へと襲いかかる。


 葵も同じく杖を虚空から生み出す。ただし、こちらは一本。


 その一本の杖を掴んで、床を叩く。

 それだけで銃弾が全て消えた。


 エクシアはその御技みわざを見て口笛を吹く。


 葵は床を蹴り、弾丸の様に飛ぶ。

 急に迫ってきた葵にエクシアはナイフを逆手に持ち、切先を下にして振り下ろす。

 杖はエクシアの体を貫き、ナイフは葵の頭に刺さる。


 葵が倒れ、エクシアは、

「なんだこの程度か」

 と呟いた。


 そして腹に開いた穴を治そうとしたが、なぜか治せなかった。


「不思議ですか?」

 葵の声が部屋に木霊する。


「おいおい、生きてるのかよ」

「生きてますよ」

「姿を見せろよ」

「姿はさっき貴女に倒されたじゃないですか」


 エクシアは集中して、居場所を突き止めようとする。

 そしてある一角を銃撃する。


「あら、バレましたか」


 空間がガラスのように割れて葵が現れた。

 その葵が現れるとすぐにエクシアはまた無数の銃を虚空から作り出して発報する。


「それ二度目です」


 葵は呆れたように言って、指を鳴らす。


 すると飛び交う銃弾も虚空に浮く銃も忽然と消える。


 葵は杖を横へ払うと、暴風が発生し、エクシアを後ろへと押す。

 エクシアは踏ん張って持ち堪え、暴風が消えた後、すぐに葵へと飛びかかり、ナイフで体を袈裟懸けに切ろうと試みる。


「だからワンパターンですって」


 葵はもう一度、杖で暴風を発生させる。


「そっちもワンパターンだろ!」


 エクシアは暴風をものともせずに突っ切ろうとする。


「はたしてそうでしょうか?」


 エクシアは袈裟懸けで葵を切る──が、ナイフが葵の体を切ることはなかった。


「!?」

「はい、王手」


 葵は杖で床を叩くと杖を中心に氷が床を這う。否、床を氷で張う。

 そして氷は部屋の全てを氷漬けにした。それは部屋にいるエクシアも含まれる。


「では、さようなら」


 葵は指を鳴らした。

 全ての氷は一瞬に砕ける。

 小さな氷の礫となり、そして溶けることなく、空中で霧散する。


 そして一人になった葵は部屋の中でじっとしている。ロザリー達と連絡を取らず黙ってじっと。


 しばらくして溜め息を吐き、


「もう隠れてないで出てきたらどうですか?」

「気づいてたか」


 先程氷漬けにして粉々にしたエクシアが前方に突然現れた。初めからここにいたかのような出立ち。


「気づくも何も、元々ここはゲーム世界ですよ。アバターが消えても本体は残ってますから」

「そうだな。にしても、本当にここは不思議だな。本体がここにあるわけでもないのに、ここから出られない。さらに本体と接続が可能だもんな。矛盾だな。どういう仕組みだ」

「言えるわけないでしょ? そんなことをしたらプレイヤーを外に出されてしまうでしょ?」


 そしてまた戦闘が始まる。

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