第243話 Aー10 中止

 アヴァロンプレイヤーは一度イベントフィールドに飛ばされたが、元の場所に戻された。


「え? 何? 戻って……きた?」


 ホームを見渡してセシリアは言う。


「だね。何かあったのかな?」


 ──敵から攻撃があった?


 ユウは事前にロザリー達から話は聞いていたので敵が原因だと察した。

 そしてそのことは仲間や他のプレイヤーには他言無用となっている。


「トラブル? 緊急メンテ入ったとか?」

「たぶん……そうじゃないかな? メッセージには……あっ!?」


 端末を操作してメッセージボックスを見ると新着メッセージがあった。


「メッセージきてる。えー、なになに。『緊急メンテのため今回のイベントは中止とさせていただきます』。何よそれ」


 セシリアは溜め息を吐いて、ソファに座る。


「ん? どっか行くの?」

「ちょっと2階に」

「ああ。ホワイトローズね。私も連絡しとこ」

「う、うん」


 本当はもう一つメッセージがきていたのだ。

 それはホワイトローズではなく、ヤイアという人物からだった。初めは誤送信の類いと思ってたが開いてみると葵の仲間であると記されていた。

 ユウは2階の自室でもう一度メッセージを確認する。


『私はヤイアと言います。葵達の仲間です。至急お話がありますので人気ひとけのない場所へ移動お願いします。それと返信はさらぬように』


 そしてヤイアから通話がきた。


「もしもし」

『ユウさんですか、私はヤイアと申します。失礼ですが今どちらに?』

「自室です」

『分かりました。現在の状況を簡潔に申します。現在、我々は敵からの攻撃を受けており、イベントは開始することが不可能となりました』

「攻撃って、やはりタイタンにですか?」


 今のところ、アヴァロン側では戻ってきた以外問題はない。あるとしたタイタン側だろう。


『ご明察です。いいですか、敵が助けに来たとか甘い言葉を使って近づいても接近はしないでください。あなたにはクルエールがいるのですから』


 敵の目的の一つはクルエール。

 そのクルエールはユウの中にいる。そしてなぜかそれを望んだがクルエール本人。


「分かった」

『向こうはまだあなたのことを知らないので大丈夫とは思うのですが。とりあへず気をつけて下さい』

「そっちは今、どうしているの?」

『今、二体の敵が現れて葵とロザリー達が対応しています。私は他の敵がこのアヴァロンに入ってこないように対処しております』

「他にも敵が?」

『以前タイタン側で戦闘があったのですが、その時の敵がまだ姿を見せていません。いえ、もしかしたら現在タイタン側を攻めているのかもしれません』

「ん? タイタン側の状況が分かってないの?」

『お恥ずかながら申し訳ありません。タイタン担当のセブルスとマリーとは連絡がつかないのです。さらにプレイヤーも不明なフィールド内に閉じ込められているようで』

「それ相当やばいのでは?」


 プレイヤーの半分が人質に取られたようなものだ。


『……はい』


 沈痛な声音が耳朶に届く。


『でもヤイアもマリーも量子コンピューターのです。そう易々とやられは致しません』

「そう……ですか」


 ヤイアは問題はないように言うが、やはり不安は拭いきれない。


『では、これで』


 そして通話は切れた。


 ユウは1階へ戻ろうとドアへ足を向けた。その時、急に視界がぐらつき、そして足がふらついた。

「なん──」


 意識が途切れ、ユウの体は床へ倒れる。


  ◯ ◯ ◯


 大地が空と化している世界にユウはいた。


「クルエール」


 ユウは忌々しく、その名を発する。


「怒らないでよ。私は関係ないんだし」


 白いワンピースを着た赤髪の少女が答える。


「じゃあこれはどういうこと? どうして俺がここにいるの? 君は眠っているため力を出せないのでは?」

「普通はね。今は君たちの敵……中国AIが攻撃を仕掛けたため、君の体にも影響が出てしまったから私が君をここへ呼び出すことができたの」

「攻撃? 俺が?」

「うん。まったく葵達もしっかりしなきゃあね」


 そう言ってクルエールは肩を竦める。


「いつ?」

「アヴァロン側にウイルスをぶち撒けたんだよ。で、感染。……おっ! ヤイアも気づいたようだね。今、抗体で対処してるね」

「敵の目的はやはり君?」

「私というか麒麟児だね。彼を救出後、ついでに私ってところかな? でも私のことは向こうでは、もう有事ではないから、こっちへの攻撃はないかもしれないよ」

「……」

「怖い?」


 クルエールはどこか小馬鹿にするように聞く。


「見知らぬ敵は怖いよ」


 ユウははっきりと答えた。


「ふうん。つまんない反応」


 クルエールはくるりと回り、ユウに背中を向ける。


「じゃあね。ヤイアも頑張ってるみたいだから大丈夫じゃない?」


 そう言ってクルエールの姿は消えた。


 消えたと同時にユウの意識もアヴァロンへと戻っていた。


  ◯ ◯ ◯


「んっ」

「ユウ! 良かった。目が覚めたのね」

「あれ? セシ、どうしたの?」


 目を開けて、起き上がるとセシリアの姿があった。


「どうしたのって、ドタンと音がして部屋に入ってみたら、あんたが倒れてたから。でも良かった」


 セシリアは胸を撫で下ろした。


「ごめん。心配かけたね」

「どこか体に不調でも?」

「ゲーム世界なんだから異変はないよ」

「でも……」

「ちょっと心労が溜まったかな?」

「心労って、それ……」

「気にしないで。それより時間が出来たんだし、ご飯でも食べに行こう」

「……うん」

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