第76話 Rー9 緊急放送
深山たちはロッカー室に戻り、ロッカーに保管していたスマホを調べると電磁パルスの被害にはあっていなく、動作、データともに支障はなかった。
不在着信履歴には公安の金本や外事課総合情報統括委員会のメンバーたち、そして公安局長からの連絡が着ていた。
姫月はまず公安局長から連絡を掛け、次に公安の金本、そして外事課の花田に連絡を取った。 公安はまだしも警視庁から来た花田のスマホが無事なのが不思議であった。
花田との通話を終わらせると鏡花が尋ねてきた。
「高高度核爆発の情報はあったのかい?」
一般人の鏡花に警察内部の情報を教えることはできない。しかし、
「これから官房長官が緊急の会見を行うらしいわ」
「電磁パルスで一般家庭の電子機器はパーなのに?」
鏡花は不思議そうに言った。
「スマホやネットに繋がった系の機器はほとんど駄目だけど、コンセントに繋がれただけのテレビは無事らしいわ」
「無事?」
「よくわからないけど、高高度核爆発前に全国の一般家庭の電力が落ちたらしいの。それで被害がなかったとかで」
「なんだいそれは? 不思議なことがあったものだね」
鏡花はどこか演技ぶったような驚きの言葉を発する。
「私にもわからないわ。とりあへず今から官房長官が緊急会見を行うらしいわ。そこで何か分かれば良いのだけど」
姫月は長椅子に座り、スマホからテレビアプリを起動して、緊急放送を見ることに。
画面には官房長官が現れ、丁度、緊急放送が始まろうとしたころであった。
○ ○ ○
『今日、午前11時未明に関東上空400キロメートルにて北朝鮮のミサイルが高高度核爆発したことが判明致しました。爆発の規模は小さく、えー、核爆発による放射能の被害は小さく、電磁パルスによる電子機器の被害が予想されましたが高高度核爆発前に電力供給に被害があり、えー、被害は少ないと、調査の結果で判明』
官房長官はハンカチで額を拭きながら報告書を読む。
『北朝鮮からは核燃料型の人工衛星が不備により爆発と声明がなされており……』
ここで水差しからコップに水を注ぎ、一口飲む。
『日本政府として今回の件は重く受け止め国際社会に強く訴え、北朝鮮に対して断固として強い制裁を考えております』
官房長官は一息吐き、肩の力を抜いて、
『被害についての詳細はまだ不明ですが、日本国民の皆様には混乱せずにきちんとした行動を取っていただきたいと願っております。パソコン、スマホ及び通信機器はほとんどが機能していないとは思われますがテレビ、ラジオ類は機能しておりますのでそういったものを活用して情報を受け取って下さい』
官房長官は一息吐き、集まった記者たちを伺う。
『何か質問があればどうぞ?』
『これは日本への宣戦布告ですか? 開戦の狼煙ですか?』
その質問に対して、
『北朝鮮は戦争をする意思はなく今回は不幸な事故と仰っております』
『核燃料型の人工衛星と仰りましたがそんなことありますか?』
『日本政府としてはそのような危険な人工衛星なんて今まで存じ上げませんが、北朝鮮はそのようなものだと仰っております』
『北朝鮮はかつて弾道ミサイルの実験に国際社会に対して人工衛星の打ち上げと表明していましたが今回もまたそれと同じということでしょうか?』
『目下調査中です』
『本当に事故なんですか? 日本に対する攻撃ではないのですか?』
『我々としては両方の線で調べております』
『これに対してどのような制裁を考えておりますか?』
『それは今の段階では何も言えません』
『高高度核爆発の前に全国の電力が落ちたのはどういうことですか?』
『目下調査中です』
○ ○ ○
姫月はスマホからテレビアプリを切った。すると鏡花たちもアプリを切り、
「これは彼の言った通り早めにここを出る必要があるね」
「ええ」
「にしてもだ。核爆発前の電力落ちは気になるね。まるで誰かが判ってたから落としたみたいだね」
「そんなことができるのは……」
できるのは量子コンピューターのトリニティかナナツキ以外のスーパーAIだろう。トリニティには自我はなく、最終的には動くのは人間だろう。トリニティの未来予測で示唆され、そして動くというのはおかしくはない話だろうが、それなら政府や一部の人間には知れている。しかし、それがないというならばトリニティではなく、スーパーAIが単独で行動を起こしたということ。
――なら一体どれが?
「どうしたのかね。さあ、早く行こう」
鏡花に急かされ、姫月はロビーに出る。そこで小太りの職員に呼び止められた。
「何か?」
「それが……外から不審な輩が集まり始めて攻撃を受けているのですよ」
「おいおい、もう攻撃を受けているのかい? ここは群馬の奥で山に囲まれた地域だよ」
鏡花が驚いて声を出す。
「山でも張ってたのかね。山だけに」
姫月はそのジョークにどう反応すればよいのか分からなかった。
「とりあへずこちらへ」
小太りの職員に客室へと案内された。
「今日はここで寝泊まりかしら」
ソファーに座り、姫月は一人ごちた。
「おや、心配はしないのかね?」
「心配? どっちの?」
「自分のだよ。暴徒が襲ってくるんだよ」
「暴徒と言ってもここには陸自がいるのよ。おいそれと落ちたりはしないでしょ」
「相手は国民だよ。国民を撃つとでも?」
それ対して、国民と言ってもプリテンドだし問題なかろうと言いたかったが一般人である鏡花にプリテンドについては言えないので、
「ゴム弾を撃つでしょうね」
そしてここの陸自はプリテンドのことを知っているのだろうかという疑問が生まれた。姫月はそれを確かめようともう少し一度情報センターに戻ろうとしたところで胡桃に止められた。
「姫月様、どちらへ?」
「守矢さんに聞きたいことがあるから少しここを離れるわ」
「しかし、今は緊急事態ですので……」
「大丈夫。こう見えて私、公安の者よ」
「でしたら室内電話を」
「直接会って確認したいの」
姫月はそう言って部屋を出た。
○ ○ ○
情報センターの前にある廊下には自衛隊がいて、扉の前で姫月は止められた。姫月は自衛隊に身分と目的を伝えると少し待たされたのちに中へと通された。
「守矢さん」
「ん? 姫月君、どうしたんだい?」
陸自の幹部と話をしていた守矢は話を中断して姫月へと振り返った。
「少しお聞きしたいことがあるのですが」
姫月はちらりと陸自の方へと目を配らせる。その意味を理解し、守矢は少し離れたところへ姫月を連れ移動をする。
「なんだい?」
「陸自はプリテンドのことをご存知なのですか?」
「ああ。先程説明したよ」
「信じてもらえたのですか?」
急にAIに肉体を乗っ取られた人間がいるなんて信じられるだろうか。ましてやそれが今から襲ってくるなんて。
「そりゃあ、ここにはシンギュラリティ・ワンがあるしね。意外にすんなり信じてもらえたよ」
「いや、これに関してはさすがに驚きを禁じ得ぬがな」
二人の会話に野太い声が交わる。
守矢は肩を強ばらせて振り向く。青い軍服の初老の男性が姫月たちの元へと近付く。
階級章から姫月は陸将だと理解した。姫月は敬礼して、
「警察庁公安課の深山姫月です」
「警察庁? 深山? なるほど」
陸将は顎をさすりながら守矢へと一度目を配る。
「確か報告に深山の人間がここに伺いに来るとあったな」
「こちらのAIの件で」
「崩していいぞ」
その言葉で姫月は敬礼を止めた。
「私はここの司令官を務める敷山だ。お前はプリテンドのことを知っているのだな?」
「はい」
「ふん。なら、お前にも作戦本部にいてもらおうか」
「敷山さん! 彼女は公安の人間であって……」
「公安ならなおさら問題はないだろう」
そう言って敷山は守矢を一睨み。蛇に睨まれたカエルのごとく守矢は黙してしまう。
「守矢さん、私は大丈夫ですので」
――深山家たるものここで臆してはいけない。
姫月はそう強く心を引き締めた。
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