第50話 Aー2 図書館

「ええ!? 助けに行かないの?」


 城門広場に面して建っているカフェの2階。ユウたちはホットコーヒーを飲みながら次の行動について話し合っていた。


「まずはアップデートについて色々調べようと思うんだけど」

「でもでも、もしかしたらお姫様助けたら解放されるんじゃあない? ユウもそう思わない?」

「それだと解放されるのはパーティーとかチーム?」

「あとはギルドだね」

「ギルドってジョブチェンしたあそこ?」

「そこじゃなくて私設ギルドよ。ミリィのアムネシアとかの」

「ああ! はいはい」

「もう! だから! お姫様助けなくていいの?」


 セシリアがテーブルを叩いて言った。


「ほら、城門広場には誰もいないわ。皆助けに行ったのよ」


 ユウは城門広場を見ると、確かにもう誰もいなかった。野球が出来るくらいの白い空間が広がっている。


「私たちはこのイベントエリアもとい島について何も知らないんだ。アップデートもされたしな。こういう時はまずは情報収集だ。団体の奴等もまずは斥候部隊を送ったりしてるのさ。だから何の準備なく突っ込んだら痛い目や恥をかくだけだ。今はアップデートについて色々調べるべきだ」

「むぅ~」


 セシリアはつまらなそうに唇を尖らす。


「安心しろ。参加しないわけではないんだからさ」

「じゃあ、まず何から始めるのさ」

「う~ん。そうだな。……まずは街について、いや国王がいるから国かな。国の歴史について調べよう」


  ○ ○ ○


 ユウたちは街を散策し、そして図書館を見つけた。図書館の看板を目にするまで皆、遺跡と思っていた。図書館までには太い柱に挟まれた長い階段。図書館は真っ白でオルゴール箱のような外観。そして荘厳で大きな扉、外壁や柱にも装飾が施されておりどこか遺跡風でもあったのだ。さらに周りの建物から離れた位置にあるので得も知れない近づきにくい雰囲気があった。


「これどうやって中に入るの?」


 セシリアが十メートル以上の高さはある扉を見上げて言った。


「セシ、きっとあそこから入るんだよ」


 アルクが指差す方には、扉の下に小さな、いや人の高さほどのドアがあった。


「ええ!? じゃあこれは何よ?」

「見せかけの扉でしょ」


  ○ ○ ○


 ユウたちは中に入ったがすぐに外へと出た。なぜかというと、


「多すぎ! 何よ。皆、考えること同じなの?」


 セシリアが呆れた声を出した。

 図書館の中は人でごった返していた。特に歴史、郷土史の棚の前はなおさら。常識として図書館の中は静かにしなてはいけないのに、彼らはその場で会議をしていたりする。たとえ、小さい声で話し合っていてもあれだけ大勢いたらかしましくなるもの。


「ああいう行為をするとカルマ値も上がるのかな?」


 ユウのなんともなしな言葉に、


「そうね。今頃、爆上げ真っ最中ね」


 セシリアは笑って答えた。


「そういうのも上がるかも知れないよ~」


 アルクが茶化して言ったのだがセシリアは顔を強張らせて、急いで端末を取り出しカルマ値をチェックした。


「せ、セーフ!」


  ○ ○ ○


 図書館近くの広場でユウたちはベンチに座り、図書館が空くのを待った。


「カルマ値だけど、どうやって判別してるんだろう。カメラでもあるわけでもないのに」


 ユウは空や建物を見上げて言った。


「そりゃあ、ここはゲームだもん。全部はデータだよ」


 セシリアは地面を見ながら足をぶらぶらさせて答える。


「もしこのストーリーイベントで解放があるなら処罰もあるのかな?」

「処罰って何よそれ。私たち罪人なの?」

「ただ解放は薄いかもしれないな」


 アルクの発言にセシリアは聞く。


「どうしてさ?」

「少数は不利だろ」

「少数と言えばミリィはどうしてるのかしら?」


 セシリアの呟きに、


「元気にしてますよ」


 と、声が降ってきた。

 驚き前方を振り向くとミリィが立ち止まっていた。


「ミリィ! びっくりした」

「すみません。お挨拶をと思ってたら私の名が出たもので。皆さんもお元気で何よりです」


 ミリィはちらりとアルクへと視線を動かす。


「ああ、こっちはアルク」


 ユウはミリィに紹介する。


「どうもアルクです。うちのがお世話になったようで」

「いえいえ、逆です。お世話になったのはこちらの方です」


 ミリィは手を振ったのちに頭を下げる。


「とにかく座りなよ」


 セシリアは隣に座らせるように勧める。

 ミリィは軽くおじきをしたのちベンチに座る。


「ミリィはこれから黒騎士討伐に向かうの?」

「黒騎士? ……ああ! ストーリーイベントの? いえ。私は不参加です。一人だとちょっと」

「アムネシアのメンバーはいないのか?」


 アルクが尋ねる。


「私一人です」

「それじゃあ、私たちと組まないか?」

「え、でも皆さんに迷惑が……」


 ミリィは声を沈ませて俯く。


「大丈夫だって。なあ?」


 アルクはユウ、セシリアに聞く。


「ああ」

「ええ。ミリィって中堅ランカーなんでしょ。大歓迎よ」


 二人は大きく頷く。


「で、でも……」


 アルクは立ち上がりミリィの前に立つ。そして手を差し伸べる。ミリィはアルクの顔、そして手を見て、ゆっくり立ち上がりおずおずと差し出された手を握る。


「よろしくお願いします。ご迷惑でしたら、いつでもおっしゃってください」


「歴史ですか?」

「そうよ。ミリィは何か知ってる?」


 セシリアは尋ねた。


「いえ、今日アップデートされたので何も」


 ミリィは申し訳なく首を振る。


「ま、そうよね」

「それで俺たちはここで図書館待ちしてるんだよ」

「図書館待ち?」

「今、図書館混んでるんだよ」

「皆、考えること同じなのよね~」


 セシリアは図書館に顔を向けるがまだ人が出てくる様子はない。


「それでしたらギルドとか、文化資料館とかはどうですか?」

「文化資料館?」


 アルクが反芻して聞いた。


「はい。ここに来る前に見かけたのです。そこになら歴史関する資料があるかもしれません」

「文化なのに?」

「たぶんあるかのではと。もしなければギルドの人に聞くのがよろしいかと」

「ギルドは役所みたいだから情報とかありそうだね。じゃあそっちに行ってみよう」

「図書館は? もう少し待てばよさそうだけど」

「それじゃあ二手に別れよう。私とミリィは文化資料館に。セシとユウは空いたら図書館に」


  ○ ○ ○


 二手に別れてしばらく経った後、図書館から大勢のプレイヤーが吐き出されたのを見て二人は図書館に向かうことにした。

 図書館は2階建て、入ってすぐに吹き抜けのカウンター、利用者用の机と椅子が並んでいる。


「どうやら館内の半分が吹き抜けのようね。階段はここと向こうね」


 と、セシリアが館内マップを見て言う。


「歴史書はここだね」


 マップからユウは1階右奥を指す。

 二人は歴史書のある棚を目指すがまだ少し人が集まっていた。


「はあ~、少し待ちましょ」


 セシリアはため息をついた。


「ちょっと見て回るよ」

「うん。私、ここで座ってるから」


 セシリアは歴史書の棚近くの椅子を引き、座った。

 ユウは適当に空いている本棚へと進み、本の背表紙をなんともなしに眺めながら暇を持て遊ぶ。今いる棚は文学棚らしく現実にある小説があった。


「著作権どうなってるの?」


 つい言葉に出して呟く。

 そんな中でカルガム伝説にというタイトルに目を止めた。


 ――あれ? どこかで聞いたような。


 ユウは本を抜き、開いた。

 冒頭を少し読み、驚いた。

 カルガム伝説の舞台となっているカルガム山はあの黒騎士のカルガム山だった。

 本を持ち、セシリアの元へ。


「なんか面白いものあった?」

「こっち来て」


 ユウは小声で言って、セシリアを人気ひとけのない所に招く。


「なになに?」


 ユウは辺りを確認してから、


「これ見て。これ」


 ユウは本をセシリアに手渡す。


「カルガム伝説? どっかで聞いたことあるような」

「竜神グラムディアの! ほら、カルガム山だよ!」

「ああ!」

「ちょっ声、静かに」


 ユウは反射的にセシリアの口を押さえる。


「ここにカルガム山についてのことも書かれているんじゃない?」

「これを借りよ」

「借りれるの? それにこれ借りたら他のプレイヤーが」

「ゲームでは実物を借りるわけではないの。端末に内容が期限付きでダウンロードできるの」

「それならこれと歴史書で」

「ええ!」


 セシリアはにんまりと頷いた。

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