第252話 Aー13 二つ目のメッセージ
運営からの二つ目のメッセージは全アヴァロンプレイヤーを驚かせるものであった。
その内容は、ロザリー達は日本の自我を持ったAIで、中国からのプレイヤーを守るためにゲーム世界に閉じ込めたというもの。
AEAI、プリテンド、ゴーストカンパニー。それらの説明についてもメッセージには書かれている。
そして現在、中国からの攻撃を受けているというもの。
「……らしいですけど。どうです? 信じます?」
メイド姿のメイプルはスピカに聞く。
そのスピカは戦闘を終えて、刀を杖代わりして体重を預け、腰を曲げていた。
「大丈夫ですか?」
メイプルの問いにスピカは手で大丈夫だと言う。
さすがのスピカでも何十連戦となれば疲労は出るのだろう。
ゲーム世界だから肉体的疲労はないが、何十戦となれば精神的疲労は計り知れないものだろう。
「で、どうするよ?」
リンが聞く。
スピカは息を整え、
「まず街へ向かいます」
「……ここも街だぞ」
ホワイトローズの拠点があるここも城下町の一区画となっている。
「もう! 野暮なことは言わないで」
◯ ◯ ◯
「本当でしょうか?」
「さあ? 少なくともうちらが囚われてたのは本当だからね」
リンが歩きつつ答える。
「では? メッセージ内容は嘘だと?」
「……う〜ん? どうだろう? スピカはどう思う?」
「分かりません。でも、街に行けば……異変を目にすれば何か掴めるかもしれません」
「そうだけどさ。なんていうのかな? 中国による人の体を乗っ取る……なんだっけ?」
「プリテンド」
「そう! そのプリテンドって、本当かな? いくらなんでもAIが人の体を乗っ取るって飛躍というかフィクションじゃない?」
「しかし、脳内デバイスについて以前からアメリカの医者が意思の誘導とか思考盗聴とか言ってませんでした?」
メイプルが答える。
「思考盗聴なんて統合失調の世迷言じゃん」
「でも自我を持つAIが存在する以上。シンギュラリティがいつ起こってもおかしくありませんよ」
「でもな〜」
リルは空を見上げる。
作り物の空。
それでも現実感のある空。
偽りと知らなければ間違えてしまいそうな。
それだけこの世界は現実味があるのだ。
「何が本当なんだろうな」
リルは誰ともなしに聞く。
「とにかく。今、出来ることは街に行き、暴走したタイタンプレイヤーやNPCを倒すこと」
スピカがはっきりと答える。
「それなんか脳筋」
「なんですか!?」
スピカは目を細めて、リルを睨む。
「なんでもない。なんでもない。現場を見るって大切だよな」
リルは焦って弁明する。
◯ ◯ ◯
「これは……またひどいものですね」
街の惨状を見て、スピカは言葉を発する。
店の並ぶ区域に足を向けるとあちこちで戦闘の跡があった。
ゲーム内ゆえにしばらくすれば建物やその他フィールド内のオブジェは壊されても元に戻る設定になってはいる。
それが今は修復されていなかったのだ。
「これも外からの影響というものなのでしょうか?」
メイプルが周囲を伺って聞く。
「でしょうね。で、向こうの方から煙が昇ってるけど?」
リルの指差す方角に煙が昇っている。距離はここから遠そうだ。
「行きましょう」
「まじ?」
「リル、ここで私達が頑張ればパーティー志願者も増えるかもしれませんよ」
「まあ、そうだけどさ、メッセージが本当かどうかをさ考えないと。それにもしかしたら外の人間が私達を助けようと、ロザリー達を攻撃してるんじゃ……」
そのリルの言葉を大きな地鳴りがそれを遮った。そしてあるものが現れた。
「あんなのが外からの助けによる影響と?」
スピカ達の前には虚な目をした表情の暗いタイタンプレイヤーがいた。
「どう見ても意思がなく操られているように見えるのですけど」
「私にも、まあ、あれはやばいなと感じるわ」
「では行きます」
スピカは刀の柄を握ると同時に跳躍し、突如としたタイタンプレイヤーに接近。
そして鞘から刀を抜き、タイタンプレイヤーを斬る。
斬られたタイタンプレイヤーは倒れ、それから消え去った。
「うちらの出番なしじゃん」
「いいえ。まだです」
敵はまた突如として現れる。
「よっしゃ! 次は私の番だ」
1番近くにいたリルが新たに現れた敵に攻撃を開始する。
今のリルはジョブクラス5のベルセルク。防御力は低いがパワーはジョブ中トップクラス。
防御せずに一撃を食らえばやられる。
その一撃を相手は防御せずに食らう。
これで終わり。
そう思った。
だが──。
「なっ!」
相手は吹き飛ばされても、すぐになんともなかったように立ち上がった。
そしてリルに対してビームソードで斬りかかってきた。
「危なっ!」
なんとか斬撃を避けて、距離を取る。
「リル、気をつけて! そいつ、たぶんハイランカー」
「はあ? ハイランカーだからって今の一撃をもろに食らってピンピンしてるのはおかしいだろ?」
リルもまたハイランカー。ステータスも高い。そしてパワー重視のベルセルクだ。
相手がハイランカーといえどもろに一撃を食らって無事なのはおかしい。
「防御重視のハイランカーでしょうか?」
メイプルが相手を観察して答える。
「そうには見えなけど」
防御重視なら分厚いプロテクターか盾を装備しているはず。けれど敵はどこにでもいるプロテクター装備のタイタンプレイヤーだ。
「見えない能力でしょうか?」
「見えない……ねえ」
リルは相手の攻撃を躱して、カウンターで左フックで顔を殴る。
が、それもまた相手をたたらを踏ませる程度だった。
「これならどうだ?」
スピカが空いた背中に刀による袈裟懸けの斬撃を繰り出す。
「ん?」
刀で相手の背中を斬ることが出来なかった。
「斬れないぞ?」
「おいおい、スピカの斬撃でも無理ってどんな防御だよ? 見えない反発でもあんのか? って、ないわな」
反発があるなら殴った時に分かる。
しかし、それはなかった。むしろきちんとした手応えがあった。
「見えない……そうか! インビジブルコート!」
「あ? なんだそのインなんとかってのは?」
「インビジブルコート。絶対的な防御を持つ透明なコート」
「何だよそれ!? どうしろっていうのさ?」
「絶対的であって無敵ではないはず。現に最初の一撃で吹き飛ばされてるからダメージは存在している」
「とにかく殴れってことだな?」
「では私は遠距離からの目眩し役で」
メイプルが溶けた鉛を相手の顔に投げる。
顔に鉛が付着して視覚を奪う。
その隙にスピカとリルが攻撃を繰り出す。
前方をリルが後方をスピカが。
打撃と斬撃。
はたから見ると視覚を奪われた敵に対して前後を挟んだ二人がかりのリンチにしか見えない。
だが、そうでもしないと相手は崩れない。
それだけ防御力が高かったのだ。
「ふう。やっと終わりました」
スピカが息を吐いて、刀を鞘に収める。
「まじきつい」
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