第99話 Aー2 探検とクリスタルドラゴン
ダンジョンでよくある二股の道。それは右か左かと冒険者を悩ますもの。
それが今、ユウ達の前に立ちはだかっていた。
別にこれが初めてというわけではない。今までに何度も二股、三股の別れ道に遭遇し選択していた。
しかしだ。
「多すぎ! 何これ?」
セシリアは再度現れた二股の道に吠えた。広くても洞窟内だからか声が反響する。
そう。問題は多すぎたのだ。
「不思議な道ですね。帰りに道は一本道ですのに」
ミリィも不思議そうに言う。そのミリィはどの道を選択し通ったのかを記録している。
「で、どっちに進む? さっきは左だったっけ?」
セシリアは辟易しながら尋ねる。
「右にしよっか」
「アルク! 適当に決めていいの?」
「別にいいんじゃないか? さっきまでずっと適当だったじゃん」
アルクは肩を竦めて言った。
そしてユウ達は右へと進んだ。
進み続けると洞窟の奥が白くなる。
「お、外じゃない? 当たり!?」
セシリアが奥を指差して喜ぶ。
○ ○ ○
『ええええ!』
ユウ達は一斉に大声を上げて驚いた。
洞窟の向こうは外ではなかったのだ。
そこにあったのは氷の大空間であった。下は底が分からない大きな穴で洞窟の出入り口から一本の橋のような道が細長く奥の城へと伸びている。
「これ? 氷なの?」
セシリアが地面を見て言った。
「ちょっと火炎魔法で確かめてみたら」
とアルクが言うのでセシリアは火炎魔法を地面に向けて放った。
小さい火の玉は地面に当たった。地面は溶けずに焦げるだけであった。
「氷ではなくクリスタルでしょうか」
ミリィが焦げた地面をさすりながら言う。
「ガラスの可能性は?」
アルクが聞く。
「なくもないかもしれませんが……すみませんどっちか判りません」
「どっちでもいいんじゃない?」
とセシリアがなんともなしに言う。
「いやいや、ガラスだと
ユウは城へと続く細長い道を指して言う。
道が割れてしまうとほろ暗い穴へと落ちてしまう。
例え危険性のないゲーム世界だと分かっていてもぞっとする。
「ねえ、ユウ1回落ちてみない?」
「なんでだよ」
「落ちたらどうなるのかなって? 普通ゲーム内では落ちたら出入り口に戻るでしょ」
「セシ、分かってるならどうして?」
「ん~もしかして違う地点に戻るかもしれないし」
「まあまあ二人とも、そういうのなしで橋を渡りましょう」
「ん。ミリィの言う通りだ。ここは一度進んでみよう」
そう言ってアルクはクリスタルの橋を渡る。
○ ○ ○
「氷だと絶対滑って穴へと真っ逆さまよ」
セシリアが震えながら言う。
「だな。普通ならただの一本道なのに穴があるだけでどうしてこうも違うのかな」
先頭のアルクが言葉を返す。
細長いといっても二人横歩きでもまだ余裕がある。それを一列になってユウ達は進んでいる。
「さあ、もう少しで半分だ」
「まだ半分なの? もう嫌!」
「セシ、そう言うな。ここからはそんなに坂も少ないし、カーブも一つだ」
橋は平坦で真っ直ぐではなく、ゆるやかな勾配があり、カーブもいくつもあった。
ぼんやりしていると躓いたりバランスを崩してしまう。だがアルクが言うように半分以降は平坦な道が多くカーブも一つだけ。
「!? 皆さん、何か来ます!」
『え! どこ?』
「上です!」
クリスタルと同じような青白いものが上から近付いてくる。
「つらら?」
「違う、ユウ。…………あれはドラゴンだ!」
「ド、ド、ド、ドラゴン!?」
セシリアが叫んだ。
アルクは鞘から長剣を抜く。それに続いてユウも槍を構え戦闘態勢をとる。
青白いドラゴンは徐々に近付いてきて、その大きな体躯を現す。
「で、で、でかくない?」
以前倒したカブキオオトカゲより大きい。
ドラゴンは橋を越え、穴へと。その際に風がユウ達にぶつかる。
「きゃあ!」
「セシ! 姿勢を低く」
ユウはセシリアの腕を掴みつつ、姿勢を低くするよう告げる。
そのドラゴンは下で旋回して上昇。
「くるぞ!」
アルクが叫ぶ。
そしてドラゴンは橋の高さ程に浮遊する。
『ギャアアアァァァ!』
ドラゴンは首を上げて吠え、羽を動かし風をユウ達へと叩きつける。
「きゃあああ!」
セシリアが吹き飛ばされて悲鳴を上げる。
橋から落ちそうになったのをユウとミリィがセシリアの腕を掴まえる。
「あ、ありがとう」
「アルク! どうする?」
攻撃しようにも相手は浮遊していて距離がある。
「セシ、魔法だ!」
「OK 特大の魔法くらいやがれ!」
セシリアが杖をドラゴンに向けると特大の火球が生まれる。
「メガフレイム」
特大の火球がドラゴンにぶつかる。
火球は大きく
「どうよ」
セシリアが自信ありげに言う。
だが、ドラゴンは何事もなかったようにただずんでいる。
「なんで? ていうかダメージが全然じゃん」
ユウはドラゴンのHPバーを見ると確かにHPは減ってはいなかった。そしてHPバー上に小さなマークが付いていることに気付いた。
「なんか小さいマークが付いているけど?」
「たぶんバフです。強化解除の魔法をかけます。デリート!」
ミリィは強化解除の魔法を唱える。
しかし、マークは消えなかった。
「どうして? ライブラリー」
今度は相手の詳細が分かる魔法をかけるミリィ。
「! 駄目です。あれは強化解除できないバフです。効力は魔法ダメージ70%カットです」
「うっそ!? どうすればいいのよ!?」
セシリアが非難の声を上げたところでドラゴンはセシリアに爪を振り上げた。
それをユウが跳んでセシリアを突き飛ばす。
「きゃああ!」
ドラゴンの手が橋を叩き、大きな音を立てる。
「ユウ、セシ!」
「だ、大丈夫」
ユウは大丈夫と手を振る。
HPバーを見るとダメージは受けていないらしい。
しかし、橋はヒビが入っていた。
あと数度攻撃を受けると橋が壊れるだろう。
「魔法が効かないならどうします?」
「……ミリィとセシリアは先に走って!」
アルクはエスケープアイテムを取り出す。
「逃げれるかどうかは分からないけど」
アルクはエスケープアイテムをドラゴンに投げる。噴煙が巻き上がる。
「さあ、走って!」
ミリィとセシリアは先に走る。
「俺達はどうするの? 囮役?」
「もちろん逃げるよ。ただしエスケープ出来なかったら
ドラゴンは羽を動かして噴煙を散らす。
「ああ、これは無理だったか。……ユウは防御に専念して、なるべく下がりつつだよ」
「分かった」
二人は得物を構え、ドラゴンに
ドラゴンは吠えてアルクに向けて爪を振り上げる。
それをアルクは剣で防ぎ、その隙にユウはドラゴンの腕を槍で突く。
だが、与ダメージは微々たるものであった。
「俺が防ぐからアルクがその隙に攻撃を」
「いや、駄目だ」
「どうして?」
「ユウではこいつの攻撃は防げない」
ドラゴンのマルチ型でレベルは80だった。
最近は初心者でもなくなってきたと考えているユウでも対応ができないレベルだ。
「……」
自分の弱さが歯痒いユウであった。
「ギャアアア!」
ドラゴンは羽を大きく後ろへと反らして、そして一気に前方へと扇ぐ。
ユウ達は得物を地面へと刺して暴風を防ぐ。
そして防いだところでドラゴンがすかさず爪を振り上げる。
バランスと得物を地面へ刺していたことにより対応が遅れる。
二人は後ろへと弾き飛ばされる。
運よく後ろは真っ直ぐの道だったから底へと落ちることはなかった。
「ギャアアア」
また爪の攻撃かと二人は身構える。
だが、ドラゴンは口を上空へ向けて、腹を膨らませる。
「ユウ、後退だ!」
アルクが危険を察知して叫ぶ。
「分かった」
二人は大きくドラゴンと間合いをとる。
そしてドラゴンは口を前方に向けた。膨れた腹が萎み、ドラゴンの口から氷の
距離は取っていたものの氷の息吹きは広範囲で少からず二人にダメージを与えていた。
「ユウはミリィ達のもとまで下がって」
「でも」
「このままだと殺られちゃうよ。私は平気だから」
「ブッシャアアア!」
ドラゴンは羽を動かして、低空飛行で前へと突き進み二人に体当たりをしかける。
ユウは横に、アルクは上に高く飛ぶ。
「アルク!」
アルクは避けるのでなくドラゴンの背中に乗ったのだ。
そして剣を背中へと突き刺す。
「ギャアアア!」
ドラゴンは叫び、背中のアルクを振りほどこうと何度も旋回する。
しばらくしてアルクは背中から飛び降りる。
「アルク! 大丈夫?」
「大丈夫だ。走るぞ」
二人はドラゴンがまた攻撃を仕掛ける前に橋を駆ける。
すぐにドラゴンは二人を追い越し、前に立ちはだかる。
「邪魔だあぁ!」
アルクは剣を持ちドラゴンへ向かう。
「ギャアアア」
ドラゴンは鋭い爪をアルクに向ける。
剣と爪が交差して甲高い音が鳴る。
ユウはその隙にとドラゴンの腹に槍を突き刺す。
ドラゴンは怒り、羽を使い突風を放つ。
「うわっ!」
もろに突風を食らったユウは弾け飛ぶ。
「ユウ!」
大きく飛ばされたユウは橋から落ちそうになる。
なんとか腕2本で橋にしがみつき落下を防ぐ。ユウはすぐに橋へと上がろうとする。
「そっちにドラゴンが行った!」
橋の上へと起き上がったユウは前後左右を窺う。
「上だ!」
上を向くとドラゴンがユウのもとへ下降の動きを取っていた。
ユウは頭上からの攻撃を避けようとするもドラゴンの後ろ足に捕まってしまった。
「がっ!」
ドラゴンはユウを掴まえたまま、また高く飛び、何度もぐるぐると旋回する。そしてユウを穴へと放り投げる。
「うわぁぁぁ!」
「ユウ!」
真っ逆さまに落下するユウ。もう駄目だと思い目を瞑る。
柔らかい衝撃のあと謎の浮遊感があった。不思議と思い目を開けると知らない女性がユウを抱き抱えていた。
いや、違う。その女性は確かに休憩ポイントであった――。
「確かホワイトローズの……」
「セラよ」
そしてユウを抱きかかえたまま空中で一回転して、橋へと降り立つ。
「うっ、わわっ」
セラはユウを橋へと下ろすと短剣を抜き、ドラゴンへと向き直る。
ドラゴンは空を飛び、新たな敵が現れて吠えている。
ユウはロックを外そうとドラゴンの頭を見るとすでにロックは外れていた。
「ユウ! 大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
と答えるも、
「瀕死じゃないか」
とアルクは回復アイテムをユウに使う。
気付かないうちに瀕死になるほどダメージを食らっていたらしい。
「それよりロック外したの?」
「ああ。私らだけでは無理だからな」
「というわけでよろしくね」
とセラはにんまり笑う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます