第98話 Aー1 アビリティとスキル
「やあっ!」
魔法剣士のアルクが高く跳躍し、止めの一撃をゴーレムモンスターに与えた。
ここは北の麓にある洞窟。
セシリアが借りてきた図書により、ストーリーイベント攻略の鍵がここにあると分かり、ユウはパーティーメンバーと共に洞窟攻略を進行していた。
入口が小さかったので洞窟の中は狭いと思いきや意外と広く、槍振り回しても問題はなかった。まるで空洞の山の中を進んでいるみたいだとユウは感じた。しかも中も妙に明るいので全然洞窟とは感じられない。
「ユウ! そっちに行ったよ」
アルクの言葉を受け、ユウはすぐに槍で突き、オオカミモンスターを撃退する。
今のユウはジョブチェンしシーフから槍使いになり、ダガーではなく槍を得物としている。
「槍使いも意外に様になってるじゃない」
戦闘を終えて、魔法少女のセシリアがユウを褒めるが、そのユウは気難しい顔をしている。
「う~ん、そうかな?」
「何か問題でも?」
ミリィが尋ねた。
「今までダガーだったから
「あー分かる、分かる」
とアルクが賛同する。
「私も魔法剣士の前に色々な近接戦闘系ジョブを経験しているからその気持ちは分かるよ」
「へえ、それってやっぱ大変なの?」
セシリアが聞く。
「特に短剣から長槍になるとリーチが違うから踏み込みが大変なんだ。しかもステータスも変化するから避けれたものが避けられなくなったりするんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「先へ進みましょう。そろそろ休憩エリアにたどり着くと思います」
○ ○ ○
ミリィの言う通り、少し進むとモンスターが現れない白い枠で覆われた休憩エリアがあった。広さは体育館並みである。
「休憩ポイントなんてあるだね」
座るのに丁度良い岩場に腰掛けながらユウは言った。
「そりゃあ、ずっとダンジョンで戦うのもしんどいでしょ。だから休憩エリアってのがあるのよ」
セシリアが自身の肩を叩きながら言う。
ゲーム内では肉体的疲労はないが精神的疲労があり、休息は大事である。
「何か面白いネタあった?」
アルクは端末で情報を調べているミリィに聞いた。
「いいえ、特には」
「もしかしてこの情報知っているのは私達だけなのかな? 一番乗り?」
「一番乗りかは分かりませんが他のプレイヤーの先は行ってるかと」
ふとユウは視界にメッセージが着ているのを知り、開封する。
『急所突きレベルが2に上がりました』
「ん? 急所突きレベル2?」
「どうしたの?」
アルクが聞く。
「なんか急所突きレベル2というスキルを取得したらしいんだけど。アビリティではないの? 前にアビリティを取得したけど。ん? スキル?」
ユウは以前のジョブ、シーフの時にアビリティを取得していた。そのアビリティとスキルどう違うのか分からなかった。
「アビリティは能力、スキルは技よ」
セシリアが簡単に説明する。
「……いや日本語変換されても」
言葉だけではゲーム内でどのような意味を為すのか理解できない。
「説明するとアビリティはジョブによって習得でき、かつそのジョブ及び類以のジョブ以外は使用はできないの。スキルはプレイヤーのプレイスタイル、特定の条件下で習得できる」
代わりにアルクが説明をする。
「ちなみに急所突きはクリティカル時の威力アップだよ。詳しいことは端末で調べるといいよ」
ユウは視界右上端の端末アイコンを意識する。すると端末が虚空に現れる。それを操作し、スキル一覧を見る。
その一覧に先程取得した急所突きがある。しかし、それ以外のスキルが全部で九つ並んでいる。
「こんなにあるんだ。いつの間にか取得してたのかな」
「いや、初期スキルだろう」
「何それ?」
「ゲームスタート時に全プレイヤーが取得しているやつだよ。さっきの急所突きもだよ。レベル2あるでしょ。スキルにもレベルがあるやつもあるんだ」
スキル一覧を見るとレベルがあるのとないのがある。
「なるほど」
「でもこの『ロミジュリ』ってスキルって何だろう?」
セシリアがユウの端末を覗き見てロミジュリというスキルを指差す。ユウはそのスキル名をタップすると詳細が表示される。
「えっと、『特定の行動時に発動』とだけあるわね。どういうこと?」
セシリアが訝しんで読み上げる。
特定の行動が何なのか。そしてどのような効果なのかが記されていない。
「よく分からないけどレアスキルかもね。それ」
とアルクが
「レアスキル?」
「スキルにも珍しいものがあるのよ」
「どんなの?」
「そうだね。例えば私の『デッドアクセル』。このスキルは相手のHPがレッドゾーンになった場合、攻撃力、クリティカル発生率アップというもの」
「私は『ペインタッチ』を持っています。能力は相手の状態異常が5個以上あるときダメージアップというものです」
「へえ、すごい。皆、レアスキル持ってるんだ。セシは?」
「……」
「ないんだ」
「あ、あるわよ。『魔法・巻き込み軽減レベル5』よ」
「いや、それただのスキルだし。しかもそれ間違って味方を巻き込んだ場合、味方へのダメージが軽減されるやつだよね。レベル5って、今までどんだけ巻き込んだんだよ」
「兄が近接戦闘だったのよ」
「あれ? そういえばここって他のプレイヤーに与えるダメージはなかったのでは? PKとかないって聞いたけど」
「戦闘時の魔法は別なのよ」
○ ○ ○
ユウ達は休憩を終わらせ、腰を上げたと時だ。ユウ達が来たところからプレイヤーの一団が現れたのだ。
そのプレイヤーの一団はホワイトローズのメンバーであった。
「おや、アルクさんではないですか」
男が言った。その男は確かカフェでプレイヤーと揉めてたとき助けてくれた人物だ。
「ヴァイスだっけ」
「ええ。覚えてくれありがとうございます」
ヴァイスは営業スマイルを向けた。
「どうしてホワイトローズがここに?」
「ストーリーイベントの攻略ですよ」
「ちょっとヴァイス! 何言ってんのよ」
褐色の踊り子が横から口を出す。
ここはまだプレイヤーが少ない。ということはイベントとの繋がりをまだ知られていないということ。それをやすやすと他のプレイヤーに教えるようなことを言ったことを咎めたのだ。
「彼女はアルクさんですよ。前回イベントで活躍した。貴女もこの洞窟がストーリーイベントと繋がっていると気付いたのでしょ?」
「へえ、そうなのか?」
とアルクは惚けた。
「おや、違った! では偶然ですか? すごいですね」
「そうみたい」
とアルクは肩を上げる。
嘘である。ストーリーイベントと繋がりがあると推測しての洞窟探索である。
「ほらみろヴァイス、みすみす情報を流したじゃないか」
「ハハ、すみません」
「じゃあ私達はこれで」
アルクは奥へ足を向けるのでユウ達も続いた。
○ ○ ○
アルク達が去った後、ホワイトローズの一団は休憩エリアで寛いでいた。別に休む必要はなかったがアルク達とのあのような別れの後、すぐに進んで鉢合わせるのを避けるためここで時間を潰していた。
「彼女、ああは言っていたけど実際はどうなんでしょうねえ?」
ヴァイスの問いに、
「偶然だろ? 偶然」
と弓矢を手にした男が答える。彼の名はソーマ。ジョブクラス5のサジタリウスを職業とするハイランカー。
「いや、偶然でこの洞窟に入るか? ん、待ってよ。初心者もいたよな」
と次は軽装スタイルの男が答える。髪も明るく表情も豊かな男はアルトという名で職業はクラス5のファントムウルフ。
「ここに来たのは偶然なんじゃない?」
白い服を着た少年が答える。少年の名はベル。頼りなく見えるが、こう見えてもクラス5のオラクルで回復・補助魔法だけでなく攻撃魔法も得意とする。
「初心者は遠くのエリアには行かないし」
「だよな」
洞窟は近くに聳える山の麓にある。都市部からもそう遠くはない。出現するモンスターもレベルは低い。
「だが、もう一人珍しい奴もいたな。確かミリィだったか? アムネシアの」
とソーマは言う。それに褐色の踊り子が聞く。
「アムネシアってあの?」
彼女はこのチームの中で紅一点を担っている。名前はセラ。踊り子に見えるがそれは見た目で本職はソードダンサー。双剣を使い、高速で相手を切り刻む。
「ああ。古参のな。やっぱ何か知ってそうだな。あのパーティー
それにヴァイスは首を振った。
「それは止めときましょう。ただ、やはりここに何かある可能性は高いでしょうね」
とヴァイスは腰の長剣を軽く叩く。その長剣は普段から使用している物ではなくリゾートイベントで手に入れたもの。この長剣にはストーリーイベント攻略用のスキルが付与されている。
ここへ訪れたのもこのスキルが有用とされるポイントを探してここへと足を運んだのだ。もし有用ポイントを探せばストーリーイベント攻略の鍵となると考えたからだ。
そしたらスゥイーリアが気にかけているプレイヤーに出くわした。前回制圧戦でポイントランキングに活躍した人物だ。
「どうする? スゥイーリアに報告しとく?」
セラは短剣をジャグリングのように投げながら聞く。
「そうですね。報告しときましょう」
ヴァイスは端末を取り出しメッセージを送る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます