第180話 Tー8 上級モンスター・ゼータ①
「お集まりの皆さん、お待たせしました。これよりイベント上級モンスター・ゼータを討伐を開始したいと思います」
キョウカはいつもとは違う丁寧な言葉遣いで集まったプレイヤーに挨拶をする。
「ここ高原近くのゼータは他に出没する個体に比べて幾分かレベルは低いが、それでも上級クラスのマルチ型だから十分に気をつけるように。では、出発としよう」
『おー!』
数多くのプレイヤーが拳を空にあげる。
アリスも空気を読み、拳を肩ほどまで上げて、「おー!」と呟いた。
◯ ◯ ◯
上級クラスのイベントモンスター・ゼータは高原の奥に出現することが判明している。
ただしエンカウント率は低いため、3つの索敵班を作り、どれかがゼータとエンカウントしたら攻撃部隊を派遣し、挟撃となっている。
「なんか
アリスと同じ索敵班の女性プレイヤーが愚痴をこぼす。
「仕方ないさ。俺ら弱いから。こういう時でないと役に立たないでしょ?」
両手のひらを上にして男性プレイヤーが答える。
アリス達索敵班は3名のローランカーで構成されている。戦うのではなく見つけて報告するための部隊で、上級イベントモンスター・ゼータとエンカウントしたら戦闘ロックを外して、すぐにキョウカ達攻撃部隊に報告。そして攻撃部隊が来るまで時間を稼ぐのが索敵班の仕事。
「でもさー。なんか美味しいとこだけ持って行かれるのってムカつかない? ねえ?
貴女もそう思わない?」
女性プレイヤーはアリスに聞く。
「え? ええと……」
「イチカ、困ってるだろ」
「何よー! オーティスだって、参加前は文句言ってたくせに」
イチカと呼ばれた女性プレイヤーは唇を尖らせる。
「そりゃあ、少しは……な」
「お二人は同じパーティーの方で?」
アリスは聞いた。
「ええ。他にもモニカ、サラーサ、マサルもいて、5人でパーティーを作ってるの」
「君は1人なの?」
オーティスがアリスに聞く。
「ええと、今は兄のパーティーにお世話になっていまして」
「兄。アリス……貴女、どっかで見たことがあるような……」
イチカは自身の顎を掴んでアリスの頭から足先まで見渡す。
「ハイランカー・レオの妹さんだよ」
「ああ! はいはい! あの妹さんね!」
「『あの』とは?」
「君、色々と活躍しているじゃない」
「そんなに活躍してますか?」
「メタルカブキオオトカゲ戦とか、この前のストーリーイベントでも。ほら、あの中継のやつ。ほらパンチパーマの」
「や、やめてください!」
アリスは恥ずかしくて耳を塞ぎ、俯く。
パンチパーマとはアリスが空港エリアで発生したストーリーイベントでパンチパーマになり、テレビ中継で報道されたもの。
「あれ、すごかったわね。なんと……」
「イチカ、敵だ!」
バッタ型のモンスターが3人の前に現れた。
「ああ、もう!」
「対象は君みたいだね」
オーティスはアリスに向けて言う。
モンスターとの戦闘時、プレイヤーの誰かがロックをかけられる。
これは他のプレイヤーからの横入りをなくための措置。
パーティー登録しているなら、自分以外のパーティープレイヤーが戦闘になるとその戦闘に参加が可能。この場合はアリスが対象となっているためロック解除はアリスの役目。
アリスはすぐにロックを解除する。
「このくらいの敵、ちゃちゃっとやっちゃいましょ」
ロック解除されるやいなや、イチカはアサルトライフルのトリガー引く。
「イチカ、今はモニカ達はいないんだよ。少し冷静に!」
オーティスはライフルの音に負けじと声を張り、イチカに注意を促す。
「わかってるわよ!」
◯ ◯ ◯
あれから幾度とモンスターとエンカウントするも上級イベントモンスター・ゼータとは遭遇しなかった。
「ああ! もー! 雑魚ばっか!」
イチカは苛つき、地団駄を踏む。
「仕方ないさ。ここいらではゼータはレアモンスターなんだから」
オーティスは溜め息交じりに言う。
「アハハ、疲れますよね」
アリスも愛想良く2人に言葉をかける。
「他はどうなのかしら?」
「連絡はないからまだ遭遇してないのかな?」
他の班がゼータと遭遇した時、他の索敵班にも連絡があり、交戦も許可されている。
「イチカ」
「ん? 何?」
「そこからは違うエリアだよ」
「あ、ホントだ」
目の前も同じ高原だが、エリアが違う。目前のエリアはゼータとの遭遇情報はない。
「少し戻ろう」
「だね……ぬうぉ!」
振り返ったイチカは大きく驚いた。それにアリスとオーティスも振り返って、
『うわぁ』
と声を揃えて驚いた。なぜならそこには巨大ゴリラ型モンスターがいた。
モンスターは初めからエリアに出現するのではなく、急に現れてプレイヤーを敵対象として襲ってくるのだ。
そして今、急に出現したゴリラ型モンスターこそがアリス達が探していた上級イベントモンスター・ゼータであった。
「びっくりした。急に現れるなや!」
イチカはアサルトライフルのトリガーを引き、弾丸をゼータに撃ちかます。
「イチカ、まだロック中だよ」
「あ、ホントだ。ノーダメだ。アリス!」
「あっ、はい!」
「ダメだ!」
「え?」
「今ここでロックを外すと俺達も狙われる。そしたら終わりだ。まずは攻撃部隊に連絡をするから、少し持ち堪えて。でも、もしやられたそうになったらロックを解除」
つまり、アリスがやられそうになるまで2人は何もしないということだ。
「そんな!」
「ほら逃げて!」
オースティンに急かされ、アリスは逃げる。
それをゼータはドラミングという胸をはたく動作をしたのちに、アリスを追う。そしてそれをイチカ達も追う。
◯ ◯ ◯
ゼータは速かった。
アリスを抜き、振り返って、またドラミングをする。
「邪魔よ!」
アリスは両手に持つ拳銃でゼータを攻撃する。
しかし、ゼータはレベル90のマルチ型モンスター。与えたダメージは微々たるもの。
「撃つより、逃げる優先。しかも、相手に付け狙われるくらいの。振り切ったらダメよ」
少し離れたところからイチカがアリスに声をかける。
「攻撃部隊はまだですか?」
アリスはゼータの攻撃を避けつつ、イチカに聞く。
「連絡はしたからすぐよ」
アリス達のいる場所から攻撃部隊が待機している場所までそんなに遠くはない。
「早く来てよね」
アリスはゼータに背を向けて逃げる。
逃げては追い越されて、ゼータからの攻撃を避けを繰り返した。それももう何度目かと言う時。
「避けて!」
イチカの声にアリスは立ち止まる。そしてゼータの方へと振り向くと、視界に大きな岩が現れる。
アリスは反射的に右へ飛び、避けるも地面にぶつかり砕けた岩の破片がアリスを襲った。
その破片でアリスは地面に転がる。
岩を投げたのは勿論、ゼータであった。フィールドの岩を持ち上げて投げたのだ。
並の破片なら問題はなかったが、今回はレベル90のモンスターだ。
ゼータはアリスにダメージを与えて喜んでいるのかウホウホと吠えていた。
「アリス、もうロックを解除して」
その言葉にアリスはHPを確認する。HPはレッドゾーンではなかったが、7割ほど削られていた。
アリスがロックを解除するとイチカが銃撃を開始した。
「ほらこっちだよ!」
そしてオーティスがアリスに向け、回復薬を使用。
アリスは立ち上がり、すぐにイチカを狙うゼータの背中に向け銃撃を始める。
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