第179話 Tー7 驚愕

 アリスはユウの名が中間発表で第3位に入っていたことに驚いた。


 確かにユウはレオやパーティーメンバー、その他プレイヤーに恨まれているのは知っていた。


 だが、まさか中間ランキングの上位に、しかも第3位に名前が入るとは考えていなかった。


 それゆえ、中間発表でユウの名をロザリーの口から第3位で発表されたときは何かの間違えだと思った。もしくは同姓同名かと。


 しかし、プレイヤーランクからユウ本人であると確信した。


 ──ユウ、浮きすぎ!


 ランキング上位陣は名の知れたハイランカーばっかの中、一人だけ中堅クラスのプレイヤーが混ざっていて、目立っている。


 ──ギルドか。向こうではパーティーではなくギルドって名前か。ユウの所属ギルド名はアルクか。


 アリスは別途のメッセージからギルド・アルクを調べた。


 結果、2人いた。


 ミリィ。そしてギルド名と同じアルクという名のプレイヤーが。


  ◯ ◯ ◯


 ユウの件についてアリスはリーダー部屋を訪れた。

 リーダーであり、兄のレオと幾人かのパーティーメンバーがいた。


「どうした?」

「あ、いや、お取り込み中なら、あとでいいや」

「安心しろ。少し時間がある。何用だ?」

「……ああ、うん。えっと、ユウの件だけど、兄貴が仕組んだの?」


 ユウという名前が出た時、レオから殺意が湧き出た。

 それをレオは自制して、なんとか抑え込む。


「多少はな」

 息を吐くようにレオは答えた。


 アリスは視線をケイティーに向け、言葉なしに聞く。


「私はガンガンオススメしましたよ。でも、まじめに聞いてくれませんでしたね。アリスもスゥイーリアに票を入れるし」

 とケイティーはしくしくと泣き仕草をする。


「なら兄貴? 何も3位にするなんて。どれだけ手を回したのよ」

「おいおい、多少だと言ったろ。ぶっ殺したいから投票しろなんて言ってないし、命令もしていない」

「ならどうしてこんなに?」

「たぶんミリィやアルク繋がりだろうな」

「ミリィ? アルク?」


 2人は確かユウが所属するギルドメンバーだったはず。

 それとユウが3位にで選ばれるのはなぜなのか。


「知らんのか? アムネシアのミリィだ」

「知らない」

「昔、アヴァロンで不正行為が濫用していたんだよ。それでアムネシアというギルドが不正プレイヤーを見つけては運営に報告してたんだよ」

「はあ? それが何?」


 アヴァロンにおける身内の件とタイタンに一体なんの関係があるのか。


「垢BANの恨みですよ」

 とケイティーが口端を歪めて言う。


「垢BAN?」

「アカウト停止処分のことですよ。不正プレイヤーはその垢BANを受けて、タイタンに鞍替えったんですよ」

「そんなことがあったんだ」

「だから心当たりのあるプレイヤーは結構いるでしょうね」


 ケイティーはくっくっと笑う。


「つまるとこユウはアムネシアのミリィ繋がりでランクインしたと」

「それとアルクもな」

 レオはもう1人の名を言う。


「そのアルクもアムネシアで恨みつらみで?」

「いや、こいつは噂だろうな。本当かどうかは知らんが」

「噂?」

「掲示板の『投票オオスメ! アヴァロンプレイヤー』というスレッドにて、このアルクが不正から逃れたプレイヤーだって書き込みがあったんですよ」

 ケイティーが両手のひらを上にして言う。

「本当なの?」

「いえ、ですから噂程度ですよー」

「なーんだ。噂か」

「まあ、火のないところに煙は立ちませんよね」

「でも件《くだん》の2人よりユウの名前がダントツで上に来ているのは不思議ね」

「それだけエイラが慕われていたってことですよ」


 ケイティーのその言葉に部屋の空気は暗くなる。


「必ずし倒そう」

 レオが誰ともなしにぽつりと言った。


 すると、

「ああ!」

「おうよ!」

「絶対、仇討ってやりますよ」

 プレイヤーは次々と暗くて硬い意志を発する。


  ◯ ◯ ◯


 翌日、アリスはキョウカに誘われて都市からかなり離れた西北西の高原にいた。平べったい丘が並べられているような起伏のある高原で、雲もなく、風はゆるやかで良いピクニック日和だった。でも、今日はそれが目的ではないようだ。


 待ち合わせ場所は大木のある地点であった。

 その大木は遠くからでも確認できたのでアリスは迷うことはなかった。

 だが──。


「すみません。遅れました」

「大丈夫。ほぼギリだよ」

 とキョウカは言うが、実際は十分遅れだ。


「それにまだ到着していないプレイヤーがいるからね。気にしないで」

「お嬢、やはり街か門前で集合してからの方が良かったのでは? アリスさんもここまで遠かったでしょ?」

 クルミがアリスに聞く。


「……まあ、少し遠かったですね」


 というか、距離よりもモンスターが多かったのが問題だった。ここまでにアリスは13体のモンスターに遭遇。うち5体は倒し、これ以上は遅れると思い、エスケープアイテムを使用した。


 アリスはまだ中堅より少し低いレベルのプレイヤー。

 独りでここまで来るには大変だった。


「で、ここに集合ってことは上級モンスター狩りを?」


 レオからの情報によると、ここはイベントモンスターの上級クラスが出現するエリアの一つだ。

 アリスは周囲を見渡し、人数を数える。


「……16人ですか?」

「ああ。でも、あと4人来る予定だよ」

「そんな大勢で倒すんですか?」

「マルチ型の上級モンスターだからね。それにここに集まったのは中堅プレイヤーだよ。中堅クラスは上級にはなかなか歯が立たないからね。それで自主的に呼びかけてみたんだよ」


 と、そこへ4人組みの男女混合パーティーが現れた。先頭を歩く茶髪の女性が、

「ごめんねー。ちょっとモンスターに遭遇しちゃってー」

 とキョウカに謝罪するも悪びれた様子がない。


「いやいや、こっちこそ集合場所をエリアにして済まない。あっ、こちらはアリス君」

「どうもー」


 茶髪の女性はアリスに笑みを向ける。


「よろしくね。私、メルクール」

「……メルクール」

「ん? どっかで会ったけ?」


 メルクールは首を傾げた。


「いえ、初めてです。似たような名前のプレイヤーがいまして」


 アリスはなんでもないと両手を振る。

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