第178話 Aー7 決意と中間発表

「やあ!」


 ミリィは双剣を素早く振り回し、クマ型モンスターにとどめの一撃をくらわす。

 モンスターはHPがゼロになり消滅。


「ふう」

 ミリィは一息ついた後、短剣を鞘に収める。


「すごいね」

 ユウが驚嘆の声をかける。


「そんな」


 今のミリィはいつもの僧侶のジョブではなく、ジョブクラス3の双剣士。


「いやいや、ついこの前まで僧侶だったとは思えないわ」

 セシリアも賛辞する。


 ミリィはついこの間まで後衛だったと思わせないくらい活躍していた。


「恐縮です」

「でも、長いこと僧侶やっていたのに、どうしてそんなに上手なの?」

「僧侶の前は前衛のジョブばかりだったからでしょうか」

「そうなんだ」

「はい。ずっと前衛で……実は初めての前衛以外のジョブが僧侶だったんですよ」

「なんか意外ね。ミリィって後衛のイメージが強いから」


 それにはユウとアルクも頷く。


「久々の前衛ジョブでしたけど。問題なく良かったです」

「久々ってどれくらい?」

「アムネシア設立からはずっと僧侶ですね」

「それって長くない?」

「まあ、長いですかね」


 アハハとミリィは苦笑する。


「なんでずっと僧侶を?」

「威厳でしょうか。私、威厳がないものですから……それで僧侶に。あと、アムネシアは戦闘活動はないので僧侶のジョブレベルが上がらなかったのも理由の一つですかね」

 と言い、ミリィは肩を竦める。


「で、どうして急にジョブチェンを?」

「次のイベント対策ですね」

「選ばれるってこと?」

 次のイベントはタイタンからアンケートで選ばれたアヴァロンプレイヤーが強制参加となる。そのアンケートにミリィは選ばれると踏んでいた。

「結構恨まれていますので」

 とミリィは苦笑する。


 ミリィはアムネシアのリーダーを務め、数多くのチートプレイヤーを見つけては運営に報告した。そしてそのチートプレイヤーはアカウント停止処分を受け、アムネシアのミリィを恨んでいるということ。


「でもさ、チート行為してたやつが向こうで活躍してるとは限らないでしょ? だって、チートしてトッププレイヤーだったんでしょ? チート行為ができないなら活躍できないし」

「セシ、向こうにいるのは必ずしもハイランカーではないんだよ。ローからハイまで様々なプレイヤーがいるんだよ」

 アルクが言う。


「でも、恨んで奴がゲーム世界に囚われたわけではないんでしょ? それこそ様々なプレイヤーが閉じ込められたんだから。恨んでる奴なんて少ないんじゃない?」

「それでも他のプレイヤーよりかは選出される可能性は高いかと。それに向こうで意図的に私の悪評が流れたら、それこそ……」


 ミリィは俯き、首を振る。


「そいつらが選ばせるために自分のことを棚上げしてミリィの悪評を流すと?」

「可能性はあるでしょう。垢バンされた後、ネット掲示板でたびたびアムネシアの嘘偽りの悪評が流れましたし」

「最低ね」

「ですので、次のイベントで選出されることを考慮して前衛ジョブを取得しました」

「その双剣士はホワイトローズのスピカに相談して決めたの?」

「お気づきでしたか」

「まあね」


 嘘である。本当はアルクが気づき、それをセシリアは聞いただけ。


「私が過去に取得しているジョブとスキル、次のイベントを考慮して、この双剣士が使えると教えてくれたんです」

「剣士やシーフを取得したプレイヤーが次に習得するジョブって聞くけど?」

「はい。それらは習得済みです。あと、格闘家も持ってますよ」

「ほへー。ミリィが剣士を!」

「それと格闘家!」

 ユウも驚く。


「何ですか? お二人とも。そんなにおかしいですか?」

「うん。ミリィが敵を素手でタコ殴りしているなんて想像がつかない」

「もー」


  ◯ ◯ ◯


 その後も訓練は続いた。

 ミリィの決意は強く、モンスターに対して臆することなく両手の短剣で上手に敵を切り刻む。

 そしてその訓練は陽が沈む時間まで続いた。


「ふう。今日はこのくらいにしておきましょう」

 夜空の月を見て、ミリィは告げた。


「そうだね。セシ、大丈夫?」

 アルクは1番疲労が溜まっているであろうセシリアに聞く。


 そのセシリアは地面に尻を着いていた。


「……もうくたくたよ。いったいどれくらい狩るつもりよ」

「なんかすみません。付き合わせてしまって」

「まあ、こっちも慣れが必要だし、いいんだけどね」

「あとレベルもランクも上がったしね」

 ユウが笑って言う。でも、その顔には確かに疲労の影があった。


「町に帰ったら飯にしよう」


 アルクの提案に3人は声を揃えて賛成と言う。


  ◯ ◯ ◯


 そしてイベント告知から6日目の昼、アンケートの中間発表がなされた。


『みなさーん。ロザリーでーす。アンケートによる次回イベント参加者の中間発表を予定通りいたしまーす。

 私からはアンケートで選ばれた上位十名のプレイヤーを発表させていただきまーす。それ以下につきましては別途のメッセージにて発表させていただきまーす。

 では、第十位から……』


「やっぱ上位陣はホワイトローズの面々ね」

 ロザリーは音声メッセージを聞きつつ、声を発する。

 今は第5位まで発表されている。

 発表は名前とランク、ギルド名、そして獲得票の三つ。

 ユウ達はまだギルド名がないため、リーダーのアルクの名が記載されている。


 そしてまだスゥイーリアやスピカの名が発表されていないが、ロザリーや他のプレイヤーはこの後、名前を言われるのだろう考えている。


『第4位はメイプル』


「この人もアルクが前のイベントで知り合った人よね?」

「ああ」


『第3位ユウ』


「……ん!? ユウ!?」

「俺……か」


 ユウは驚いていなかった。むしろ、やはり選ばれたかという顔だった。


「どうして?」

「それより結果を最後まで聞こう」

「……うん」


『第2位はスピカ』


 この前、キャンプを一緒に過ごしたプレイヤー。

 でも、今のセシリアにはそんなことよりユウのことだった。


『第1位はスゥイーリア』


 そして1位が発表された。

 順当だなとどのアヴァロンプレイヤーも思っただろう。


 音声メッセージが終了し、セシリアは開口一番、

「なんでユウが選ばれるの?」

「たぶんエイラのことかな?」


 ユウは前回のイベントでタイタンで有名かつ人気のプレイヤーを倒したのだ。そしてそれが直接的な原因かは不明だが、エイラはポイント不足でペナルティーを受けた。それはこのゲームからの消滅。


 つまり『死』だ。


「だからって……選ばれる? しかも3位に?」


 セシリアはアルクやミリィに聞く。


 けど、二人はわからないと返す。


「てか、あんたがそのエイラを倒したって知ってる人もいないでしょ?」

「ううん。いる。戦闘してるとこを複数のプレイヤーに見られた」

「……これはどうすれば?」

 セシリアは弱々し誰ともなしに聞く。


「まずは11位から100まで見よう。自分の名前が見つけたら言うようにね」


 アルクはロザリーが別途で送ったメッセージを開封してアンケートランキングを見るべきと言う。


「……そうね」


 そしてセシリアはメッセージを開封して自身と仲間の名がないことを祈りつつ、アンケートランキングを読む。


 ──……なし……なし……あっ!


 ミリィの名前が第16位にあった。


 ──ああ!


「皆さん、私の名前が第16位にありました」

「……うん」


 嘆いてもしょうがない。セシリアは続いてランキングに目を通す。


 ──……ない……ない。そりゃあ、普通はないよね。……ない……ない……えっ!


「ちょっとアルク! 第24位にあんたの名前があるわよ!?」

「ああ! こっちでも確認した。まさかあるとは」


 アルクは苦笑した。


 そしてユウ達は第100位まで目を通した。


「私達の中で選出されたのはユウとミリィ、そして私の3人か」

「私だけないって、なんか寂しいわね」

「そう言うなよ。良かったじゃないか」

「でも……」

「あくまでこれは中間ですので気をつけないといけませんよ」

 ミリィは安心してはいけないと言う。


「分かってる」


 中間はあくまで中間。最終結果と同じというわけではない。ランキングが上がったり下がったりもするし、名前がなかったものも急に名前が浮上することもある。


 でも──。


「やっぱランキング上位陣は101位以下にならなんじゃない?」


 第3位だったユウが最終結果で第101位以下のランキング外まで下がるとは考え難い。それに第16位と第24位もそうそうランキング外にはならないはず。


「ま、仕方ないよ」

 ユウはどこか諦めたように言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る