3章
第96話 Rー1 各国の思惑
中国国家首席は目を瞑り、眉間に深い皺を寄せ、頭を悩ませていた。
その悩みの種は北朝鮮が飛ばした飛翔体の件だ。
報道局長はそんな国家首席を端の席で押し黙って顔色を伺っていた。
中国のみならず世界各国では北朝鮮が日本近海にミサイルを落とすのは一種のお家芸として周知されている。
だが今回はいつもとは違う。
核爆発による電磁パルス攻撃を日本に対して行ったのだ。
それには日本国内で明確に被害が出た。
これまで中国、ロシア、韓国、北朝鮮は日本とトラブルを起こした場合、どれかの国がまた別の外交問題を与えて日本を沈静化させるという暗黙の決め事がある。
しかし、さすが攻撃に対して落ち着かせることは難しいらしく、もし今ここで外交問題で日本を刺激させれば、とばっちりをくらう可能性が高い。最悪、国際レベルで全世界から非難を買うだろう。
ゆえにここは日本進出の中国の企業、中国人の安否確認について語り、時間を稼いで日本政府の行動を注視すべきであろう。
もし日本政府が経済制裁、国際裁判による北朝鮮に慰謝料を請求等を発表すれば、こちらは日本政府を遠回しに非難をすれば良い。
なぜなら日本国内にいる工作員からの情報によれば高高度核爆発の少し前に停電騒ぎがあったと聞く。ゆえ、日本政府が被害について発表した場合はそれを使い、日本は被害を誇張していると後から報道すれば良い。もちろんそれで北朝鮮の高高度核爆発による電磁パルス攻撃を擁護する訳ではない。
報道局長はそれがベストな行動と考えていた。
だが会議室にいる共産党序列1位から7位までの政治局常務委員は尋常ではない雰囲気を醸し出していた。
確かに今回は核が使われた。そして被害も出た。
しかし、以前の北朝鮮軍の日本上陸問題に比べれば問題は軽いはず。例え、アメリカが騒ぎ立てても韓国を使い、足並みを揃えさせないように邪魔をすれば良いのだ。
なのにどうして序列1位から7位は険しい顔をしているのか。もしかして自分には知られていない情報があるのか。そしてそれは中国を脅かすものなのか。もしかしたら今回の北朝鮮の奇行は中国と日本の間にあった極秘裏の問題を反らすためのものだったのか。
誰も答えず沈黙だけが続く、そんな中で着信音が鳴った。ここにいる全員はスマホの電源を切っている。唯一着信音を鳴らせるのは会議室にある固定電話だけだ。
主席秘書がすぐに取る。そして少しの会話の後、主席にだけ話す。主席はそうかと言い、席に着いている者を見渡す。
やはり自分には知られていない何かがあるとだと報道局長は考えた。
そしてそれは事実であった。だが、報道局長には知らぬ単語が出てきた。
顔を見ると序列1位から7位は知っているらしい。それ以外はピンときていない。
主席はそんな彼等に向け、
「プリテンドと言うのは……」
○ ○ ○
眠りについていたアメリカ大統領は夜中に起こされホワイトハウスに戻ってきた。
「今日は寝る前にワインを飲まなくて正解だった」
そのジョークは一部の人間に愛想笑いを作らせるだけに終わった。
「で、高高度核爆発による電磁パルスは本当なんだな? 被害は? 我が軍には対EMCが施されているのだろ?」
最後に席に着いた大統領は尋ねた。
「日本国内の被害の全容についてはまだ分かっておりません。ただ微弱であったので我が米軍は個人のスマホやパソコン、テレビ、その他通信機器を除いては問題はありません」
副大統領が答えた。
「北朝鮮で間違ってないんだな?」
「はい。監視衛星から北朝鮮からの発射を確認しております」
「日本は何と言っている?」
「まだ具体的なことは言っておりません」
「じゃあ、こちらから総理に話をしないとな」
「大統領、あなたはどうお考えで?」
平和主義の副大統領は聞いた。
「それはもちろん日本が攻撃を受けた場合は同盟国として動くまでよ」
「韓国はまた足並みを乱すのでは?」
「その時は在韓米軍を引き払えばいい」
それはつまり韓国との同盟を切るということ。
「それだと韓国が攻撃を受けた場合は?」
「攻撃? どこから? 中国とは反日で仲良しだろ?」
「北からの攻撃には? 在韓米軍を引き払えば北は動きますよ」
「まあ、身を守る術はあるだろ? そしてこっちが北を攻撃すれば良いだけだろ?」
大統領は不敵に笑った。
○ ○ ○
北が高高度核爆発攻撃を繰り出したことにより特別緊急対策会議が韓国の大統領府で行われた。ただ韓国そのものが被害に遭ったわけではない。被害に遭ったのは日本だ。だが今までの北のお家芸ではない。核を使った攻撃だ。会議室には韓国大統領、総理、その他大臣、そして国防部長官が席に着いていた。
「我が国の被害は?」
韓国大統領が聞いた。
「被害はありません。ただ日本国内の我が国の企業、国民の安否については目下調査中であります」
総理が答えた。
「まったく、あいつは何がしたいんだ? この前の件もあり、戦争がしたいのか?」
「大統領はあの日本が開戦に踏み込むとお考えで?」
「違う! アメリカだ。戦争に踏み込もうと考えているのはアメリカだ」
「ではこちらはアメリカと共に?」
しかし、大統領は答えなかった。
開戦となれば中国は北朝鮮側だろ。それで韓国が日本とアメリカと共に北朝鮮に対して反抗すれば戦地は朝鮮半島になり、第二次南北戦争が始まる。
「日本とアメリカの問題に我が国を危険に晒す訳にはいかない」
「ではいつも通り、足並みを揃えないように致しますか?」
「そうだな」
「しかし、国民は我が国が何もしなければ不安を募らせてしまうのでは?」
北朝鮮が次に我々韓国を攻撃するのではと危惧している。
国民のストレスが溜まれば、もちろん怒りの矛先は政府に向く。ここ最近、大統領の支持率は低い。このままでは大規模なデモが発生するだろう。
それをさせないためにもプロパカンダを使うのだが、今回被害に遭ったのは日本だ。しかし、ここで日本に対して外交問題を持ち上げれば世界各国から叩かれるだろう。
大統領は顎を撫でて熟考する。
その時、国防部長官の部下がノックして会議室に入ってきた。
「なんだ? 返答も聞かずに?」
「失礼。中国が日本近海に向け海軍を向けたと報告がありました」
『なんだと!?』
会議室にいる全員が驚愕の声を上げた。
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