第95話 Mー14 おわかれ
昼、ユウとアリス、葵はコテージのバルコニーにてバーベキューをしていた。
「ほらほら最後よ。じゃんじゃん肉焼いていこう」
アリスが熱々な金網に肉を次々に置いていく。ジューと音を立てて、肉が焼ける。立ち登る煙、それに乗って肉の香りが。
「野菜も食べな」
ユウは金網でなく鉄板側にキャベツ、もやし、玉葱、輪切りにしたトウモロコシ、肉と野菜の串刺しを置く。
「分かってるわよ。野暮なこと言わないでよ」
と言うもののアリスは肉しか目がいっていない。うきうきと肉が焼けるのを待っている。
そして肉が焼けて、タレの入った皿に浸けて食べる。
「んん~、上手い。これ牛肉?」
アリスは舌鼓を打ちつつ、葵に尋ねる。
「はい。牛肉でございます」
「……牛肉と分からずに焼いてたの?」
ユウの問いに、
「何の肉かは分からなかったの。ただ肉を渡されたから焼いてたの」
「牛肉と答えましたが」
「あれ? そうだっけ」
と言って、アハハと笑うアリス。
「ほら、野菜も焼けたよ」
「分かってるわよ」
アリスはもやしの束を箸で掴み、タレの入った皿にちゃぷちゃぷと浸ける。ユウはそれわ危なっかしそうに見つめ、
「タレを服に付けないように」
「あのね。ここはゲーム世界よ。汚れという概念はないから」
「いえ、汚れはしますがすぐに落ちるだけですので」
「……」
「気を付けなよ」
「ま、まあ、すぐ落ちるんだし」
○ ○ ○
「ふう。食べたわ」
アリスはチェアーに座り、満足気に息を吐いてぱんぱんとお腹を叩いた。
少し品のない行為だがユウは目を瞑ることにした。
「デザートのアイスをお持ち致しました」
葵がお盆を持ってバルコニーに戻ってきた。お盆にはバニラアイスが乗った皿が三つ。
「お! ありがとー」
「え!? お腹一杯じゃないの?」
「やーねー、デザートは別腹でしょ」
○ ○ ○
バニラアイスを食べているとロザリーからメッセージが着た。
『皆様、リゾートイベントはどうでしたでしょうか。普段のことを忘れて寛ぎましたか。それとも派手に遊びましたか。はたまた普段通りモンスターを狩りましたか。そのイベントも本日19時で終了となります。イベントポイントはリゾートアイランドでしか使えませんのでアイテム交換をお忘れなきようお願い致します。なお、ビーチバレー決勝及びミスコンにつきまして端末内にページを設けさせて頂きましたので、そちら方をご覧下さいませ』
アリスとユウはビーチバレー決勝戦とミスコン発表があったドームに行けなかったので結果の詳細を知るため、端末を操作してページを見る。
そしてビーチバレーはタイタンチームが優勝でミスコンの優勝はこちらもタイタンチームでエイラであった。
「エイラ…………エイラ!! え、ええ!? 同姓同名でなくて本当にエイラなの!?」
アリスは端末を凝視して叫んだ。そして優勝者プロフィールもチェックする。端末画面にエイラの全身画像やポーズをとった画像が表示される。
「エイラって君がお薦めしてた人だっけ」
「そう! そう! いやあ、本当に優勝しちゃうなんて!」
アリスは自分のことのように心から喜んでいた。
○ ○ ○
「アリス! そっち行ったよ」
「まっかせなさい!」
アリスはライフル・スピードスターで猪モンスター・マチョを撃ち倒す。
ここはユウとアリスがこの島で初めてプレイしたクエストエリアである。
アリスは最後にまたこのクエストをプレイしたい言い、ユウは一緒に討伐に参加した。
「やあ!」
ユウはすれ違い様にマチョの腹にダガー・ウィンジコルで切る。
それを止めとアリスが撃つ。そして近づいてくるもう一体のマチョに弾丸をぶちこむ。弾丸で弱まり、動きが鈍ったところをユウが切り裂く。
二人の息はぴったりだった。
○ ○ ○
「ふう、結構私達、様になってきたわね。もう初心者卒業ね」
アリスはしたり顔で言う。
「これ初心者クエストだよ」
「もう野暮なこと言わないで」
「でも俺達なら中級クエストでもいけたかもね。どうしてこのクエストに」
別にポイントが欲しいわけではないようだし、それなら中級クエストでも構わない気もする。
「何て言うかさ、この島に来て初めてのクエストじゃん。だから、……さ」
毛先を遊ばせながらアリス言う。
何を伝えたいのかは分からないわけではない。
「ま、思い出深いもんね」
とユウは答えた。
その言葉にアリスは目を細め、優しく微笑んだ。
夜19時前になり、メッセージが鳴った。
『これより転位を開始いたします』
そのメッセージは自動で開封され自動音声がプレイヤー全員の耳に入る。
「アリス、俺がいなくてもしっかりな」
「生憎、私の兄とエイラはハイランカーよ。他にも強い知り合いがいるんだから」
「自分でも強くならなきゃあ」
「ユウこそ強くなりなさいよ」
「わかってるよ」
二人の体が青白く発光する。
転位の開始だ。
「アリス! 楽しかったよ」
「私も。すっんごく楽しかった」
光が強くなる。
『ありがとう』
○ ○ ○
光が収まるとそこはレオパーティーの宿舎の中にあるブリーフィングルームにいた。そこにはアリス以外にもレオパーティーのメンバーがいた。
メンバーらはリゾートイベント中、会えなかったメンバーと久々の再会にあれこれと語り始めた。
「アリス!」
呼ばれて振り向くとエイラが駆け寄ってきた。
「良かった。大じょ……どうしたの? 何かあった?」
「え?」
「あなた泣いてるよ」
頬を触れると涙が。
「大丈夫?」
アリスはエイラに抱き付き、胸の中で静かに泣いた。
○ ○ ○
ユウはパーティーハウスの自室にいた。
戻ってこれたのかと現実を受けとめているところに名前を呼ばれ、ドアが叩かれた。
ドアを開けるとアルクがいた。
「良かった。お前無事だったんだな」
「うん」
次にセシリア、ミリィが部屋から出てきて、
「あ、ユウじゃん。やっぱ生きてたじゃん」
とセシリアは抱きついてきた。
「御無事でしたか。今までどこに?」
ミリィの質問に、
「皆と同じリゾートアイランドだよ」
「お一人で?」
「ううん。他の子もいたから一人ではなかったよ」
ユウは笑顔で答えた。
「他の子って誰?」
とアルクが聞く。
「えっと……アリスって名のプレイヤー」
「え、二人っきり!? やらしー。しかも女!」
「ちょっとセシ、やらしくないよ。お互い知り合いと離れ離れで大変だったんだよ」
「まあ詳しい話は下でいたしましょ」
とミリィに言われユウ達は1階リビングへと向かった。
○ ○ ○
「しかし、メッセージの返事がこないから心配したよ」
「え、メッセージ送ったけど」
アルクは端末を取り出しメッセージボックスを開くと、
「本当だ。今になってメッセージが着てる」
ユウもメッセージボックスを開くと大量のメッセージが届いていた。
「うわ! すんごい量」
全部で137通ものメッセージが着ていた。
セシリアがメッセージ欄を覗く。
「アルク、どんだけメッセージ送っているのよ」
「ちょ! 違う。最初の時にメッセージが送れてないと思って、その……つい」
「でも最初の日だけでなくて、毎日送ってるよね」
セシリアがメッセージ日時を見て言う。
「もう! セシ、他人のメッセージを盗み見するな!」
覗き込もうとするセシリアをアルクが押す。
「ユウ! メッセージには何が書いてるの?」
セシリアがユウにメッセージ内容を聞く。
「えっと日記かな? 今日は何をしたとか」
「ユウ! しゃべるな! てか違うぞ! 報告だ!」
「他には?」
セシリアが興味ありげに続きを聞く。
「クエスト攻略法とか、おすすめアイテムとか」
「なんだ本当に報告なの?」
「当たり前だ!」
「でも『水着買うんだがユウはどういうのが好み? 参考までにだからな!』とか『モノキニはどう?』とかあるけど」
「やめろーーー!」
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