第94話 Aー8 ビーチバレー決勝
決勝戦のドームは小さく、そして天井はない。太陽の光がコート、観客席にさんさんと注ぐ。
決勝戦の対戦カードはアヴァロン側、タイタン側のプレイヤーであった。もし同ゲームプレイヤー同士だったなら片方のプレイヤーしか観戦に訪れなかっただろう。
今は双方のプレイヤーがドーム会場を二分している。ライト側観客席はアヴァロン、レフト側はタイタンプレイヤーゾーンとなっている。
三位決定戦もアヴァロン側とタイタン側プレイヤーの対戦であった。そして先程行われアヴァロン側のプレイヤーチームの勝利で終わった。
アヴァロン側は歓喜で沸き、タイタン側は怒号とヤジが飛んでいた。ただ怒号とヤジといっても本気で怒ってるわけでない。
『ではみなさん、決勝戦の始まりでーす』
ロザリーがマイクを使い宣告する。
ドーム四方にある大型スクリーンにMCのロザリーが映る。
本来なら観客側から雄叫びや拍手喝采が鳴るのだが、ロザリーはプレイヤーをゲーム世界に閉じ込めた張本人なので誰も反応しなかった。
『どうしたのかな? 元気ないーぞ?』
しかし、どのプレイヤーも返事はしない。
ただ中には攻撃をしようと企む者もいた。だがドーム内では攻撃活動ができないようになっている。さらに観客席から中央、試合コート内には入れない。もし無理に行動を起こそうするなら強制的にリゾートアイランドに送還される。
『では決勝戦メンバーを紹介しまーす。まずはオリヴィア・カスミチーム!』
ビーチバレーフィールドに二人の女性プレイヤーが転位される。一人は金髪をポニーテールにし、背が高い女性。もう一人は黒髪のショートヘアーの背の低い女の子。
二人はアヴァロン側のプレイヤーである。
「みんなー、頑張るよー」
明るい声で観客側に手を振る金髪ポニーテールはオリヴィア。
「お、応援よろしくお願いします」
か細い声で、お辞儀をする黒髪のショートヘアーがカスミである。
『では次はマイケル、シルヴィアチーム』
次に男女混合のチームが現れる。日焼けした短髪の細マッチョと赤髪ゆるかわヘアーで起伏のある体が特徴の女性が。
それには観客側からブーイング発せられた。そのブーイングはアヴァロン側だけでなくタイタン側からも発せられていた。ただそのブーイング発しているのは男性が多い。
男女ペアによる嫉妬か、それとも男でなく女が出て欲しいからか。
『双方指定された位置へ』
○ ○ ○
「まさかスウィーリアが負けるとはねー」
アルトが決勝戦を観戦しつつ言った。
「すみません」
スウィーリアは申し訳なく謝った。
「でも、あんただってすぐ負けたくせに」
リルが目を鋭くして言った。
「でもよー」
「ビーチバレーはプレイヤーステータス値関係なしじゃん。経験とセンスでしょ。あんたみないなタッパのある男がなんですぐやられるのよ」
「ちょっと待てよ、タッパも関係ないんじゃなかったか? 確か背の低い奴や女はステータスに補正があったんだろ」
「でも背が高いぶんブロックしやすいでしょ」
「だからそっちは補正で脚力あるだろ」
二人はバチバチと睨み合う。不運にも間に挟まれたスピカは二人の圧に肩を縮める。
「まあまあ、お二人とも過ぎたことは
スウィーリアがなだめるとリルはふんと鼻を鳴らしてアルトから試合へと視線を変える。
今、試合は第2セット13-9でタイタン側が勝っている。
○ ○ ○
周りのプレイヤーが応援、歓声を送る中、どこか沈んだプレイヤーがいた。
それはアルクだった。
起因はユウだ。
決勝ドームに来れば会えると考えていた。しかし、メッセージを送っても連絡がこない。
最悪な事態が脳裏に浮かぶ。
――いやいや、そんなことはないはずだ。
アルクは
右隣のセシリアは普通にビーチバレーの試合を観戦していた。
「やった! 追い抜いたよ!」
セシリアは歓喜の笑顔を向ける。
「ああ」
と相槌を打つも試合内容が頭に入らなかった。
すると左隣のミリィが、
「アルクさん、このドームの席は満員ですけど人数は少なくありません?」
「え?」
「プレイヤー数は向こうも合わせて約2万近くいますよね。このドームに2万もいると思います?」
「いるんじゃないの?」
アルクは観客席に目を向ける。数えようともしたが、数が多くてさらに向こう席の小さくなった人を見るのも大変であった。目を細めて数えようとすると目がちかちかし始める。
「ドーム真ん中はビーチバレーコートが一つ。そして御立ち台、その二つを囲むように観客席があります。観客席はアヴァロン、タイタンと別れていて境目には雛壇型の観客席はなく、さらに四方には大型スクリーンが一つずつあります」
アルクは頷き、続きを促す。
「ビーチバレーのコートは広くありません。野球やサッカーコートならまだしもビーチバレーのコートで2万にもの観客で囲むのははっきり言って難しいです」
「つまりドームに入れなかった人がいると?」
「私もそう考えたのですが掲示板にはそのような書き込みがなかったのです。ただ……」
「ただ?」
「約束したのに会えないプレイヤーがいるのです」
「! それって!?」
アルクの顔に希望が生まれる。
ミリィは頷き、
「ここから考えられるのは私達が見ている試合はリアルタイムのものということ。そしてコート内には入れないということ。それは試合妨害をさせないためではないく……」
「もとから入れないということ?」
「はい。私達が見ている試合はリアルタイムの立体映像の可能性が高いと考えられます。そして他にもドームがあってそこでもリアルタイムの立体映像による観戦が行われていると思います」
「それじゃあ、ユウもどこかで見てると?」
しかし、ミリィは眉根を寄せる。
「ただメッセージを送ることができても返事がないのが気掛かりです」
会えないプレイヤーたちもメッセージは送受信できている。
そこで大きな歓声が湧き、アルクとミリィは顔をしかめた。
どうやら2セット目が終わったらしい。
スクリーン画面に視線を向けた。勝ったのはオリヴィア・カスミチーム。
アヴァロン側だ。
「いやあ、このまま2セット取られて敗けるかと思ったよ。すんごくひやひやしたよ」
セシリアが興奮して言った。それにアルクが相槌を打ち、
「次で決まるってことだよね」
「そう! 次の3セット目で決まるの」
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