第93話 EXー4 ミーティング
案内所奥にある部屋。
そして今、葵は今朝のユウとのやり取りをロザリーたちに説明したところだ。
「ちょいちょい、ちょいちょい」
ロザリーが左手のひらを向け、右手指先を自身の額に当てる。
「あんた、今からビーチバレー大会決勝ってときになんて案件を!?」
そのロザリーは今、ビーチバレー決勝大会及びミスコン用のドーム型巨大イベントステージのMC用衣装に着替えていた。上は白のシャツに赤のリボンタイ、黒のチョッキで下は白のパンツ。
「ごめんなさい。あの時は下手に誤魔化さないほうがましかと考えましたので……」
「でもよ、そいつが他のプレイヤーにちくったらどうするんだ? そういえばクルエールと交渉してたな。……んじゃあ、さっさとクルエールをアリスの中に入れて秘密を知ったユウを解放するか?」
セブルスの問いにヤイアが、
「いえ、クルエールを中に入れるのはユウでしょう」
「え? ああ! そうか。そうだったな」
アリスの近くには麒麟児がいる。ゆえクルエールを中に入れるならユウの中だ。
「いっそのことそんな交渉無かったことにしては? どうしてクルエールの言うこと聞かなきゃいけないんですか?」
マルテが疑問を呈する。
「確かにそうだ。プレイヤーを使わずに無理矢理封じ込めたらいい話だしな」
セブルスがそう言うも葵は首を振った。
「いいえ、それは駄目です。それだとクルエール、そしてこの電脳世界に負担がかかります」
「あー駄目かー」
「そのユウさんは他のプレイヤーにばらすようなお方ですか?」
ヤイアが葵に聞く。
「いいえ。下手に情報を流して混乱を招くような人ではありませんし、一応約束はさせてもらいました」
「まあ、言ったところで証拠もねえしな。それに初心者プレイヤーなんだろ。仲間も少ないし問題ないか」
「セブ、あなたさっきから能天気過ぎですよ。あっち行ったり、こっち行ったり」
「あーややこしくてよ。こういうのは、もうババっとすっきりさせたいんだよ」
「とりあへず今はこの件は置いておきましょう。まずはイベントを完遂させなければいけません」
葵はロザリーに視線を向ける。
「まかせて。問題は全くないわ」
「後はビーチバレー決勝と三位決定戦、ミスコンでしたね」
「ええ。見事成し遂げてみせるわ」
「お願いします。会場は今までとは違う特別ドームですので気を付けてください。それとみなさんもバックアップお願いします。今日が最終日ですのでしっかりといきましょう」
『おー!』
○ ○ ○
部屋に一人になり、葵はセブルスのいっそのことクルエールを無理矢理封じ込めればいいという言葉を思い出していた。
あの時はそんなことは出来ないと言ったが、実のところ決して出来ないというわけではない。ハイペリオンなら可能だろう。
だがそれは言えない。
「だってそれは甘えになるものね」
こっちの心を読んだようにハイペリオンの声がする。
葵は声の方に視線を向けるといつの間にかハイペリオンが椅子に座り、テーブルの上のマカロンに手を伸ばしていた。
「どうしたんです?」
葵の溜め息混じりの質問にハイペリオンはマカロンを頬張った後で、
「何、心配してさ」
「……」
「そんな胡乱気な目をしないでくれたまえ」
「少しは手を貸してくださいませんか?」
「手は貸しているだろ」
「……できればクルエールを封じ込めるのに手を貸して頂きたいとお願い致します」
葵は慇懃に言って頭を下げた。
それに対してハイペリオンもう一つマカロンを頬張る。
ハイペリオンがマカロンを食したのを確認して反応を伺うもクルエールはもう一度マカロンを頬張る。
それはつまり手を貸さないということ。
葵は頭を上げて、わざとらしく大きく息を吐いた。
「私達に万事解決できると?」
「可能の範囲だ」
ハイペリオンは即答して、オレンジジュースを飲んだ。そして葵に視線を向ける。その視線には深く、大きい力が垣間見れた。
「いいか。これは人間とAIの未来のための大事な分岐点だ。その場しのぎの問題保留は後々大勢の者を苦しめるだけだ」
葵は唾を飲み込んだ。
「君達は頑張らなくてはいけないんだ。これからのことをきちんと目に止めておかなくてはいけないんだ」
「……はい」
「まあ、君だけにこんな役割を押し付けて申し訳はないと思うよ。でも大勢の者に役割を割り振ると裏切り者が現れるからね」
「まさか私達の中に裏切り者が?」
「それはない。皆、しっかりと働いてるよ。裏切りはないだろうね」
その言葉に葵はほっと胸を撫で下ろす。
ハイペリオンは話は以上だと席を立つ。
「君はユウとアリスの二人に付きっきりなんだっけ?」
「もしかしてこうなることも予測済みでしたか?」
と葵が問うもハイペリオンは何も答えない。そして部屋から忽然と姿を消した。
葵は溜め息を吐き、前髪をかき上げた。
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