第268話 Pー20 打ち上げ
雫達がトラックの荷台から降ろされて着いたのは八王子の高層マンションの駐車場だった。
「ここは?」
雫は助手席からトラックを降りた胡桃に尋ねる。
「八王子のマンションです」
さも当然のように胡桃は言う。
「だから、なんで八王子なのよ。前の新虎のビルじゃないの?」
「安全のためです。それと拠点の場所が特定されるような名称はお控えください」
胡桃は苦言を呈する。
「分かった」
少し不服そうに雫は返事をする。
「さあ、こちらへ」
胡桃は車椅子の莉緒を押して、雫達を案内する。
「あの、私一人で車椅子を動かせますが」
莉緒が車椅子を押す胡桃に言う。
「いえ、手伝わさせていただきます」
高層マンションのロビーは広く、コンシェルジュ付きだった。
胡桃はコンシェルジュに挨拶して、ロビーを突っ切る。
後に続く風花が「コンシェルジュなんているんだ。すごい」と感嘆の声を漏らしている。
エレベーターに乗り、30階で降りる。
廊下には赤の絨毯が敷かれ、風花は「ホテルみたいだ」とはしゃぐ。
そして胡桃は3007号室のドアロックを生体認証で外してドアを開けた。
「すごい生体認証ってやつ?」
「風花、うるさい」
雫がはしゃぐ風花を叱る。
「お二人ともお先にどうぞ」
胡桃が雫と風花を先にと勧める。
雫と風花は先に入り、靴を脱ぐ。
「お好きなスリッパをお使いください。廊下の奥の部屋です」
雫達はスリッパを履き、廊下を進む。
途中、風花がちらりと後ろを伺うと室内用の車椅子を出して、そこに莉緒を移動させていた。
雫が奥のドアを開けると鏡花と九条がリビングにいて、ソファで寛いでいた。
「やあ、遅かったね」
「何が遅いよ。てか、ここはどこよ」
「前のマンションに戻ると敵嗅ぎつかれる可能性があったから、ここに来てもらったんだよ」
「いやいや、今何時と思ってるのよ」
日付は翌日に変わっている。この時間では終電は間に合わない。
「今日はここに泊まりたまえ」
「……泊まれって」
雫は眉根を寄せ、訝しむ。
「替えのお洋服と下着も用意しております」
莉緒と共にリビングへ入ってきた胡桃が言う。
「用意って、サイズとかあるでしょ?」
「Sから4Lまで揃えております」
「風花は?」
「前もって友達の家に泊まるって言っておいたから」
「莉緒は?」
「問題ないです」
ということはここで反対しているのは雫だけであった。
雫は息を吐き、
「お泊まりね。はいはい」
そして雫は二人掛けのソファに座り、隣には風花が座る。
「さて、打ち上げといこうか」
「打ち上げって!?」
「デリバリーで構いませんか?」
胡桃が尋ねる。
「ああ。皆もそれでいいかい?」
「構わないけど、お嬢様もデリバリーとか食べるの?」
「偏見だね。私も普通にジャンクフードなども食べるよ」
「意外ね」
そして胡桃がデリバリーのピザを注文し、打ち上げが始まった。
「では、問題解決に乾杯!」
鏡花が缶ビールを掲げる。
『乾杯』
九条と雫は缶ビール、胡桃と莉緒はオレンジジュース、風花はコーラの入ったコップを掲げる。
「本当に問題解決したの? 学生のプリテンドの件とか……まだあるんでしょ?」
各々が飲み物を飲む中、雫は口につける前に鏡花に問う。
「こちら側が構築したウイルスなどでなんとか遅延しているよ。今回のも完全にプリテンドになったわけではないからね、すぐに元に戻るはずだ」
「遅延って……解決じゃないじゃん。いつ再発してもおかしくないってことでしょ?」
「そうだね。そのためにも日本国民には人工補助脳やデバイスの件に危険性を持ってもらいたいね」
「なら」
「急ぐと敵の罠に引っかかるよ」
「そうそう。のんびりはできないけど、急ぐのもいけないよ」
九条がそう言って、缶ビールを飲む。
「文化祭は自粛で中止になるかもね。ただ、今回のことで留学部には圧がかかるだろうね。しばらくはあの中国当局の息子達は大人しいだろう」
「さあさあ、その話はおしまい、ピザが冷める前に食べよう」
九条はピザを一切れ取って、食べ始める。
それに釣られて皆もピザを食べ始める。雫もピザを一切れ取って食べた。すると体がさらにピザを求め、雫はすぐに一切れを平らげた。どうやら相当お腹が空いていたようだ。それに今の今まで気づいていなかったことに雫は驚いた。
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