第269話 Tー16 思惑と疑惑

 古墳エリアの手前でレオとキョウカが対峙していた。


 それをティナ達タイタンプレイヤーは見守っている。


 ティナ達は戸惑っていた。

 どちらが正しいのかと。


 そしてそれを見極めようとティナ達は二人に注視していた。


 レオの少し後ろには外から来た公安の者がいる。


 名はチェン。


「そこを退いてくれないか?」


 レオが口を開く。


「この先に君の欲しいものがあるのかい?」

「俺だけではない。皆が欲しいものだ」


 それは嘘ではないが、間違っている言葉。

 AIは嘘は言えないが、間違うことができる。


 。けれど、皆というわけでもない。


「具体的に何があるんだい?」

「解放だ」

「何から何を?」

「この世界からの解放」


 二人の会話はゆったりとしていた。


 そのためティナ達は焦ったく感じて、脚が急げよとむずむずしていた。


 だから、一人のタイタンプレイヤーが問う。


「お前がロザリーと手を組んでるってのは本当なのか!」


 その問いにティナ達は息を呑む。


「ああ。本当だ」

「どうしてですか?」


 続いてティナが問う。


「中国から君達を守るためだ」


 ヤイアという人物からメッセージが先程、タイタンプレイヤー全員に届いていた。

 そこには自分達は日本国民を中国から守るために、閉じ込めていること。

 そしてレオはグルであると。


 ティナはレオを見て、


「レオ、彼女が言っていることは本当ですか?」

「信じてはいけない。我々を信じてくれ」

「そ、そうだぜ。中国が人の体を奪って悪さをしようなんてありえねえって」


 プレイヤーの一人が言う。


「はっきり私が言ってることを嘘と言えばいいじゃないか? どうしてそれができない? 嘘は言えないのかい?」


 キョウカが挑発めいた態度を取る。


「俺は誠実だ」

「なら私は嘘をついているのかい?」


 キョウカはすぐに聞き返す。


「嘘……なんでしょ?」


 ティナはレオに確認する。


「さあ! はっきり言いたまえ! 私が嘘をついていると!」


 レオの眉間に皺が寄る。


「言えぬのであろう? だって君はレオではないからね」

「えっ!?」


 ティナは驚き、レオを見る。彼はどう見てもレオだった。レオでないなら何というのか?


「そうだろう? カナタ!」

『カナタ!?』


 ティナ達タイタンプレイヤーに衝撃が走る。


「いやいや、嘘じゃん」、「でも、カナタを見てないわ」、「そういえばそうだ」、「ならどうしてカナタがレオになるんだよ?」などそれぞれが言葉を発する。


「皆さん、混乱してはいけません」


 チェンが声を張った。その声にティナ達は黙った。


 そしてチェンは前に出て、


「もう、おやめになっては? ロザリー達の助けもなく貴女一人で何ができるのですか?」


 普段とは違う声音でチェンはキョウカを説得する。


「一人か」

「そうです。貴女は一人で古墳エリアを守ろうとしています。でも、この数を相手に守れますか?」

「無理だね」

「なら、退いてくれませんか?」

「戦闘では負けるだろうね」


 キョウカは笑った。


「でも、時間稼ぎにはなるだろう」

「時間稼ぎ? 仲間が来るとでも?」


 ロザリー達は今、戦闘中。


 助けに来れないということはチェンは知っている。だから鼻で笑った。


「もう行きましょう。時間の無駄よ」


 そこでキョウカの背後──古墳エリアが光り始めた。


「な!?」

「マリーがやってくれたようだ」

「嘘だ! あの野郎は破壊した」


 チェンが吠えた。


「じゃあ? これはどういうことなんだろうね?」


 キョウカはほくそ笑む。


「言ったろう? 時間稼ぎにはなると」

「テメエ!」

「おやおや、言葉遣いが荒くなってるよ」


 チェンは拳銃をホルダーから取り出して、クイックショットでキョウカの眉間を狙う。


 けれど銃弾はキョウカに当たる前にシールドによって弾かれた。

 シールドは古墳エリアの周囲を包むように展開されていた。その内側にキョウカがいて、シールドに守られている。


「カナタ! 君はそれでいいのかい?」


 キョウカは最後に一言そう告げる。そしてゆっくりとレオことカナタに背を向けて歩き始める。


  ◯ ◯ ◯


 キョウカが去った後、タイタンプレイヤー達はレオとチェンに歩み寄る。


「おいおい、どうするんたよ?」

「カナタって、どういうことだよ?」

「何とかしてくれるんだろ?」


 矢継ぎ早に尋ねられ、チェンは怒りを露わにする。


「うっせえな! テメェで考えて動くことも出来ねえのかよ! 甘えんじゃあねぇよ」

「おい! チェン、言葉が悪いぞ」


 レオに咎められ、チェンは下を向き、心の中で悪態をつく。


 そしてタイタンプレイヤー達に向けて、営業スマイルを貼り付けて、


「皆さん、まずはあのシールドを破壊しましょう」

「私とレオは周囲を見て、穴があるのか探してみます」

「どうやってシールドを破壊するんだよ?」

「武器をお持ちではないですか? それで試してみてください」

「とても破壊できそうにないわよ」

「頑張ってみてください」

「ねえ? どっちが本当ことを言ってるの?」


 なんとかチェンは怒りを鎮めているが、そろそろ限界だった。


 それをみかねてレオが、「行くぞ!」と、言って先に駆け出した。


「では、皆さん、お願い致します。何かありましたら、お連絡ください」


 チェンは最後にそう言って、そそくさとその場を離れる。


 少し離れてからチェンは、


「ああ! ウザい! 何のために脳みそあるんだよ?」

「そう喚くな。あいつらも情報過多でいっぱいいっぱいなんだろ?」

「だからってさー」


 チェンは苛立ちで髪をかく。


「それよりシールドをどうやって破壊するかだ」

「そりゃあ、仲間を呼ぶしかないだろ?」

「アヴァロンの方も気になるが、ここはこのシールド破壊に戦力を注ぐしかないか?」

「いいの? クルエールは向こう側にいるんでしょ? せめて何かヒントが得るまではさ」

「いや、クルエールは後回しだ」

「どうしたのさ?」

「これがそんなに怖い?」


 シールドの向こうはたぶんロザリー達が仕込んだなんらかのプログラムがあるのだろう。


 しかし、こちらも何の策もなしに敵地へ飛び込んだわけではない。


「マリーが生きてるいることもまだ不明だしな」

「本当に生きてんのか? あいつの出鱈目って可能性は?」

「いや、あの状態でキョウカが何かをしたという可能性は低い。例え時限式のプログラムであってもキョウカに扱えるとも思えない」

「人間でも使えるようなやつとか?」

「……そうだな」

「もしくは仲間がヤラれて……」

「味方はそんなに弱いのか?」


 小馬鹿にした聞き方にチェンはムッとする。


「弱くない」

「だろ。なら、何かある」

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