第129話 Aー10 スピカ③
ユウが倒されて消失した後、スピカはアネモネクイーンを撃破した。
敵はマルチ型のレベル150だ。レベル43のプレイヤーを守りつつ戦うのは困難である。
守りきれなかったが、倒せたのは僥倖。
でも、スピカにはわだかまりがあった。
それはユウが消失した後のアネモネクイーンの防御力だ。
敵は明らかに弱まっていた。
あれだけデバフが効かなかったのに。ユウが倒れた後、急に弱くなった。
原因を知るためスピカは戦闘ログを調べた。特にユウが消失した前後を調べる。
そして──、
「ダガー・ウィンジコル?」
武器による攻撃は載っていた。しかし、それ以外は載っていない。
「デバフ系のアビリティを使ったわけでもない。なら……」
ログにダガー・ウィンジコルを使った攻撃しか載っていない。
「分からない」
そこでスゥイーリアからメッセージが届いた。エンディングが終わった旨だ。
スピカは返事をして端末を閉じた。
周囲を散策して玉座の前に魔法陣を見つけた。ここに来たときにはなかったもの。どうやらアネモネクイーンを倒したことにより出現したと思われる。
スピカは魔法陣に乗り、玉座の間から消えた。
◯ ◯ ◯
ラスボスがいた玉座の間にはもうプレイヤーの数は少なくなっていた。
いるのはまだ余韻に浸るプレイヤーと後から来たプレイヤーにエンディングを語るプレイヤー、そしてラスボスを討伐したホワイトローズの面々。
「なーに遅刻してんのさー」
リルがスピカに遅刻の件を叱る。叱ると言ってもさほど強く責めていない。
「まことにすみません。まさかあんなに人が集まるとは思ってなくて」
スピカはメンバーに向け、頭を下げて謝罪した。
討伐メンバーはスゥイーリア、リル、セラ、ベル。そして本来はここにスピカが席を連ねる予定であった。
「たしかに人が多かったですよね」
スゥイーリアが苦笑して言う。
「でもさー、『私はホワイトローズのスピカ。ラスボス倒すから道を開けなさい』って言えば良かったんじゃない?」
リルが
「そんなことできませんよ。それにあの満員の中、道が開くとは思えません」
「でも遅刻は良くないぞー」
「それのお詫びというか……その、裏ボスらしき敵を
「本当ですか?」
スゥイーリアが驚いて聞いた。
「ログをどうぞ」
スピカは端末を出して戦闘ログをメンバーに見せる。
「確かにマルチ型のレベル150なんて裏ボスじゃん。うちらのラスボスよりやばくね?」
とリルがログを見て言う。
「ソロではなく二人で……このユウというプレイヤーは?」
スゥイーリアがログに掲載されているユウのことを聞く。
「おうおうナンパか?」
リルが口端をいやらしく伸ばして聞く。
「違います。彼はたまたま一緒になって。ええと彼はアルクのパーティーメンバーの一人です」
「アルクってスゥイーリアが唾つけた?」
「え、あのう、その言い方はちょっと……」
とスゥイーリアが小さく抗議をするが、それを無視して、
「ああ! あの子ね。初心者の」
「ん? 知ってるのかセラ?」
「クリスタル城で見かけたわ。でもその子初心者でしょ?」
「はい」
「てことは実質スピカのソロ討伐か」
「いえ、そうとも言えません」
スピカはリルの言葉を否定する。
「なんでさ? まさか初心者ではないとか?」
「いいえ、初心者よ。レベルも低かったわよ。そうよねスピカ?」
セラはスピカに確認する。
「はい。彼はレベル43の中……初心者です」
「ならどうやって活躍するのさ?」
リルは疑問を投げる。レベル43の初心者がレベル100以上離れたマルチ型エネミーとの戦闘で活躍するとは思えない。
「分かりません。ただ彼が倒されて消えた後、妙に敵の防御力が弱まっていたのです。私が勝てたのもそのおかげかと」
「ん〜でも、ログを見るかぎりデバフ系のアビリティや魔法、アイテムを使った形跡はないわね。……ん? ダガー・ウィンジコルでの攻撃?」
「どうしたセラ? なんか引っかかったのか?」
「ウィンジコルなんて武器、初耳ね」
「短剣の類《たぐい》を網羅しているセラでも知らねえってことはイベント用の武器か。それならイベント特攻でも付与されてたんじゃねえの?」
「デバフ付与が? そしたらログに残るのでは?」
「あ、そっか」
「何かあるのでしょうか?」
「う〜ん」
◯ ◯ ◯
裏ボスアネモネクイーンで敗れた後、ユウは街まで飛ばされ、拠点に戻った。しばらくしてアルク達も戻ってきた。
「どーこ、ほっつき歩いてたのよ」
セシリアが少し不機嫌そうに言う。
「ごめん、ごめん。ばらばらになった後、結局、玉座の間にたどり着けなくてさ。そっちはどうだったの? エンディング見た?」
「みんな、バラバラだったけどエンディングは見れたよ」
「面白かった?」
「ん〜まあまあね」
「後日、端末にエンディングストーリーが配信されるらしいですよ」
「というかレベルが49になってるわよ」
「本当だ! もしかして……」
「もしかして?」
セシリアが続きを促す。
「あっ、えっと、城内のモンスターが強くてたまたま一緒に居合わせたスピカさんとしばらく一緒に行動してたんだ」
「スピカって、あのホワイトローズの?」
「うん」
「嘘よ。どうしてあのスピカが!」
「彼女はなんか遅刻したとかで。それでこっちが人波を避けてたらばったり出会っちゃって」
「へえ。それで一緒に行動してたらレベルが6も上がるの?」
「たぶんそれは裏ボスが原因かな」
『裏ボス!?』
セシリア、アルク、ミリィ三人の声がハモった。
「何それ? どうして裏ボス退治してるのよ?」
「ええと、運悪くかな?」
「意味わかんない」
「戦闘ログ見せてよ」
アルクが興味ありと寄ってくる。
ユウは端末を取り出して戦闘ログを皆に見せる。
「本当だ。裏ボスと戦ってる。マルチ型レベル150。こんなの勝てないじゃないの?」
「うん。俺はやられちゃって退場」
「その後はスピカが独りで?」
「経験値が入ったってことはそうなんじゃないの?」
戦闘ログは基本端末所有者の戦闘ログしか残ってないので退場した後のことは残ったものにしか分からない。
「今度お礼を言わなきゃね」
◯ ◯ ◯
実はこの時、アルクは焦っていた。自分が戦闘ログを見せてと言ってすぐに、もしカルガム・ベヒーモスの戦闘ログを見せてと言われたらどうしようかと。
けれど、結局は誰もカルガム・ベヒーモスの戦闘ログについては語らなかった。
アルクは安心しただろうがこの時、一人だけあえてカルガム・ベヒーモスの戦闘ログを思い出してはいたけど、あえて言わなかった者がいることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます