第128話 Aー9 スピカ②
ユウとスピカが玉座エリア正面扉前に辿り着くと玉座のエリアに入れなかった多くのプレイヤーが正面扉前に密集していた。
「あらら、これじゃあ入れないわね。まだ終わる様でもなさそうだし少しぶらつきましょうか」
「ですね」
そして二人は城内のドアや扉を開けては中を物色する。
出現するモンスターは基本スピカが一蹴する。
「この部屋は書室かしら」
ドアを除き四方を本棚で囲まれた窮屈な部屋。
「でも、さっきの書室とは違いますね」
「そうね。あれは図書室みたいもので、こっちは個人用の書室かしら」
ユウ達はここを訪れる前に学校の図書室程の書室を見つけていた。対して今の書室は壁側の棚と部屋中央のテーブルとソファーだけの狭い部屋であった。
スピカは棚から本を一冊抜き取り、ぱらぱらと捲る。そして本を戻し、別の本を抜き取り捲る。
「やっぱここの本もどれも読めないわね」
先程の図書室の本といい、どの本も知らない言語で書かれていた。
「ここはモンスターとかは出ないようですね」
「そうね休憩ポイントかしら? にしては狭いし……」
ユウは本棚から一冊の本を抜き取った。
それは本ではなく本型の箱であった。
「なんだろう?」
とユウは箱の蓋を開ける。
「あっ、君!」
スピカは待ったをかけるが、時すでに遅く。
箱の中には光が入っていた。
光は大きく強くなる。書室全体を光が支配する。
「わわっ、わーーー!」
◯ ◯ ◯
「君、大丈夫?」
スピカが倒れたユウを除きこんで尋ねる。
「…………はい」
と答えてユウは上半身を起き上がらせる。
「さっきのは?」
「転移トラップね。開けた瞬間発動するやつ」
「あー、すみません」
「気にしないで。にしても、まだあんなところにトラップが残ってたのね」
やれやれとスピカは言う。
ユウとスピカはトラップの転移魔法陣で書室から別のエリアに飛ばされた。
「でも──」
そう、二人が飛ばされた先は玉座の間であった。
王様がふんぞり返って座る金の玉座。その後ろは大きな飾り窓。玉座からレッドカーペットが扉まで伸びている。
「誰もいませんね。ラスボスは倒したんでしょうか?」
「それは違うわ。ラスボスは倒したらしいけどエンディングストーリーはまだ続いているらしいわ」
スピカは端末の掲示板でエンディングストーリーの進行状況を確かめて言う。
「ということは、ここはラスボスの玉座の間ではないと?」
「そうね」
スピカは息を吐き、辺りを見渡す。
とりあえず出てみようと二人は歩き始める。
そこで大きな地響きが鳴る?
「な、何?」
ユウは驚き、たたらを踏む。
次に空気を叩くような乾いた音が。
「玉座よ!」
玉座を振り返ると全身が青白い女性の幽霊が。
アネモネクイーン。マルチ型、レベル150。
「あれは?」
「ここの主人ね。君、ロックを外して」
どうやら敵の的はユウになっているらしく、ユウは急いでロックを外した。
「君は下がって。君のレベルでは倒せないよ」
「で、でも」
スピカは胸元から札を出してユウに術をかける。
「何を?」
「保険よ」
そしてスピカは敵に対して抜刀の構えをとる。
相手はスピカと同じレベル150。だがマルチ型で、単体では倒せそうには思えない。
目にも止まらぬ速さでスピカは敵の間合いに入り銀閃を放つ。
──くっ!
違和感を感じてスピカは相手が反応するより速く間合いの外へと移動する。
幽霊だから手応えがない──というわけではない。
ゲーム世界において幽霊はある程度感触というものがある。
HPバーを見ると多少はダメージを与えている。
アネモネクイーンはスピカに向けて左手を伸ばした。すると──、
「!」
五本の指が一瞬で伸びて、スピカが先程いた場所に指が。
スピカはカウンターへと一気に跳躍して抜刀。
しかし、それを右手で塞がれた。
──今度は塞いだ?
すぐにスピカは距離を取る。
アネモネクイーンは大きく飛び、両手から青い炎を生み出し、それをスピカとユウへと解き放つ。
それを二人はなんとか躱す。
敵は降り立つことなく、ユウの元へと飛ぶ。
「無視するな!」
スピカは跳び、敵の背へと斬り込む。
しかし、またしても感触はなく、敵はスピードを止めずにユウへと向かう。
アネモネクイーンは握り拳を作り、腕を伸ばす。
「君!」
スピカは叫んだ。
「わ、わっわ!」
ユウは槍の柄で右拳の攻撃を防ぐ。だが、パワー差があり、大きく後ろへと吹き飛ばされる。
「良い反射と防御!」
スピカはアネモネクイーンに飛びかかり、上段斬りを繰り出す。
それをアネモネクイーンは左腕で防ぐ。
──なるほどね。
今の防御でアネモネクイーンの特性について理解できた。
通常時はダメージカット。だが攻撃時はダメージカットがなく自力で防御しなくてはいけないらしい。その際、防御部分は硬くなると。
──幽霊が実体化してガードするって、おかしすぎでしょうに。
アネモネクイーンは大きく上昇して両手から青い炎を生み出す。
今度はそれを放つのではなく、炎の玉から小さい火を雨の様に地上へと降り落とす。
スピカが開いた胸元から二枚の防御札を取り出し、それを一つは自分の上に、もう一つをユウの上に飛ばし、火の雨を防ぐ。
アネモネクイーンは次に両指を刃のように鋭利に尖らし、かつ伸ばす。そしてスピカに向けつつ、頭を下にして下降。そのまま突進かと思いきや、近づき様に左指の刃を振るう。
スピカはその攻撃を刀で防ぐ。
雷が爆ぜたような響きが大気を震わす。
「ぐっ!」
アネモネクイーンはそこに右指の刃をスピカの刀へと叩きつけるように振るう。しかし、右指の刃が叩きつけられる前にスピカは後方へと跳ぶ。
──重い。それに速い。制圧戦で倒したエイラより速いのでは?
アネモネクイーンはスピカに追撃をするのでもなく、またしてもターゲットをユウへと変えた。
そしてスピカにしたように指の刃を横一閃に振るう。
ユウはその攻撃を躱すが上手く躱すことができず、槍の柄に指の刃が当たる。
するとバキッと音を立てて槍が破壊された。
「や、槍が!?」
ゲーム世界において武器は破壊されても元にさ戻るが時間がかかる。
ユウはその場を急いで離れる。
そして新しい武器をとユウが選択中にアネモネクイーンは襲いかかるが、スピカが連撃を繰り出し、邪魔をする。
敵は再度上昇。
「また炎?」
ユウはダガー・ウィンジコルを取り出して文句を言う。
「ワンパターンだけどやっかいね。それよりダガーなの? 武器適正はかなり低いんじゃ?」
長モノとは真逆の短い刃物。
「それしかなくて」
ユウは肩を竦めた。
「まあ、いいわ。あなたは下がってて」
「でもどうやって防御すれば?」
「避け続ければいいの」
アネモネクイーンは炎の雨を撒いた。
スピカはまた胸元から防御札を出して上空へと投げる。
「ねえ、ポケットはないの?」
「ほら、早く向こうへ行きなさい」
ユウはその場を離れる。
炎の雨の後、アネモネクイーンは指の刃による攻撃を開始する。
対してスピカは先程までの抜刀術とは違いアビリティによる攻撃を開始する。
バフ、デバフによる攻撃。
だが、弱体耐性があるのかデバフが通用しない。
「ああー、もうー!」
スピカは苛立ちの声を出しつつ高速の連撃を放つ。
しかし、その斬撃もダメージを全く与えることができない。
アネモネクイーンはスピカからユウへと攻撃対象を変える。
「またそっちへ行ったよ!」
「ええ!」
ユウは腰を低くして避ける姿勢を取る。
一撃目の上から下への攻撃を横に飛んで避ける。アネモネクイーンはすぐに横への斬撃に変える。
「のわっ!」
それをユウは地面へと伏せて回避。
アネモネクイーンは跳躍してユウへと指の刃を突き刺そうとする。
それをスピカによる斬撃によってなかったことに。
「早く立って!」
言われた通り、すぐにユウは立ち上がろとするも、
「うわっ!」
アネモネクイーンの指の刃がユウの頬を掠める。
「下がって!」
と言うものの後ろは壁。
アネモネクイーンはスピカへと指の刃の斬撃を繰り出す。
そこへユウは隙が出来たと感じてウィンジコルで背中を切る。
「余計なことはしない!」
「すみま──」
アネモネクイーンは人を包む様な大きな青い炎を周囲に放つ。
レベル150の攻撃。普通ならレベル43のユウなら一撃でお終い。
けれど──。
「あれ? 生きてる?」
HPバーを確認するとHPが1だけ残っていた。
こんな奇跡があるか?
いや、ない。
これはスピカがユウにかけた効果だ。
名はタフネス。
一度だけHPが1で耐える効果。
ならばこの得られたチャンスをどうすべきか。
槍なくなり防御も取れなくなってしまった。
回避も難しい。
ほんの少しでもダメージを受けると消えてしまう。
だったら最後くらいはスピカに貢献できれば。
ユウは駆けた。
相手はこちらに背を向けている。
今ならば。
「やあああ!」
ユウはアネモネクイーンの背をウィンジコルで上から下へと切った。さらに何度も切り込む。
「君!」
スピカが止めようと言葉をかける。
それでもユウは何度も切る。
アネモネクイーンはうっとうしく感じたのか振り返り、肘でユウを突き飛ばす。
これによってユウのHPはゼロになり、ユウはこの場から消失した。
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