第52話 Tー4 会合

 ストーリーイベントが始まって二日目の夜、ゲーム世界に囚われた日に集会した場所である中央講堂には前回とほぼ同じメンバーが合併案の会合で集まっていた。


 前回はブラームスが指揮をしていたが今回はレオが場を指揮していた。壇上がなく周りは雛壇になっているのでレオは三段以上に座るプレイヤーには見上げる形になる。


「皆集まってありが……」

「先に言っておくがお前の合併案に賛成したわけではないぞ」


 青スーツのプレイヤーが割って入る。出鼻を挫かれてもレオは怒りをぐっど胸の内に抑える。そしてレオは前回もこのプレイヤーが輪を乱したこと思い出した。


「ああ、わかってる。今日は合併案についての皆の意見を聞くためのものだ。今日で合併案の決を取るわけではない」


 レオは最初は青のプレイヤーに向けていたが後半はこの場にいる全員に向け話した。


「合併について理由は説明はいらないな。では合併後についての説明をしようと思う」


 ここで一旦、集まってたプレイヤーの顔を伺う。誰も意見を述べないのでレオは続ける。


「合併後は攻略班が行っていたことを継続する情報収集班。そしてイベント等、モンスター退治の行動班に分けようと思う」

「情報収集班に行ったら攻略班にこき使われるってか?」


 青のプレイヤーが嫌みっぽく言う。


「こ、こき使ったりなどはありません。絶対」


 サラは椅子から腰を上げて強く否定する。

 青のプレイヤーは卑屈に鼻で笑った後、


「どうだか? 合併って結局は攻略班の補充じゃあねえのか?」

「完全否定はできない。攻略班、特にブラームスが抜けたことは痛手だ。だが、それは全タイタンプレイヤーもそうだ。彼の攻略情報でどれだけのプレイヤーが助けられた?」


 レオの言葉に青のプレイヤーは鼻をならし顔を背けた。


「ここにいるメンバー全員が情報収集に駆り出されることもあるだろう。時にはきついこともあるかもしれないし納得がいかないこともあるだろう」


 そのレオの言葉に会場は少しざわつく。


「何か質問がないなら次は行動班について話させてもらうが?」

「私からいいですか?」


 女性プレイヤーが手を上げる。


「どうぞ」

「具体的に情報収集って何するんですか?」


 レオはサラに視線を向ける。

 サラは立ち上がり、


「えっと、情報収集とはプレイヤーから話を聞いたり、掲示板から情報収集したり、それを確かめたり、……えっと、その後は纏めて情報公開を……などです」


 と、しどろもどろに答え、周りをきょろきょろ伺った後、頭を下げ腰を下ろした。


「……う~ん。ちょっとわかんないや」


 レオは喉を鳴らし、


「補足として、情報収集には実際行動して真偽を確かめたりもする」

「はあ」

「では次に行動班についてだが。行動班はイベントに積極的に参加してもらう。イベント限定アイテムにはとことん回収してもらうし、前回のようなポイント制にはとことんポイントを獲得してもらう。そしてイベントで得た情報を包み隠さずに情報班に提供してもらう」

「それって廃ゲーマーみたいに朝から晩まで狩りですかい?」


 赤髪の男性プレイヤーが尋ねる。


「ああ。だが休憩はある。それにもしモンスター狩りに飽きてきたとかなら情報班に行ってもらう」

「まあ、ここにいるメンバーは基本廃ゲーマーだから大丈夫か」


 赤髪の男性プレイヤーは笑いながら言う。だが誰も釣られて笑わないので笑うのをすぐ止めた。


「で、リーダーは誰だ? お前か?」


 青のプレイヤーが続いて聞く。


「リーダーは各々のパーティーリーダーを候補として多数決で決めようと思う」

「俺のようなソロは?」


 迷彩服のがたいの良いプレイヤーが聞く。


「ソロプレイヤーも立候補して構わない。立候補するかい?」

「いや、いい。聞いてみただけだ」

「でも、なんかそれってパーティーの多いとこが得するってことじゃないか?」


 青のプレイヤーが否定的な言葉を投げる。


「あんた、そんなことばっか言ってるとカルマ値上がるよ」


 ポニーテールの女性プレイヤーが頬杖をつきながら言う。


「うるせえ」

「今のストーリーイベントはどうするの?」

「先遣隊を派遣したところ設営キャンプが必要と判明した。明日、サラのパーティーと共に設営部隊を派遣する予定だ。誰か参加してくれるか? 別に強制はしない」


 レオは集まったプレイヤーに問う。


「いいよ。うちら暇だし」


 ポニーテールのプレイヤーが手を上げると、


「俺たちも構わんぞ」

「俺も手を貸そう」


 他にも続々とプレイヤーたちが手を上げ始める。


「あんたはどうするの?」


 ポニーテールのプレイヤーが青のプレイヤーに聞く。


「行けたら行く」

「他に質問はある方は?」


 手を上げるものはいなかった。だが、周りはレオに聞くのでなくパーティーメンバー同士でこそこそと小声で話し合っている。

 レオは彼らの話し合いが終わるのを待った。そして静かになった後、もう一度聞く。


「質問はあるかな?」


 誰も手を上げなかった。


「では今日はこれで終わりにしよう。近いうちにもう一度場を設け、会合をしようと思う。その会合の最後で合併の決をと考えている。もちろん合併に反対なら無理に合併する必要はない。それまでよく考えてくれたまえ」


  ○ ○ ○


 中央講堂には二つのパーティーが残っていた。レオのパーティーと攻略班だ。


「大丈夫でしょうか?」


 サラは不安気にレオに聞く。それにレオは難しそうな顔で答える。


「わからない。彼らが協力的であることを願おう」


 少なくとも明日の設営に幾人かプレイヤーが参加すると約束してくれたので少しは案に好意的であろう。


「そうですか」


 やはり自分では人は集まらないのだろうかと考えると気が落ち込む。


「後ろ向きに考えず前向きに行こう」

「……ですね」


 サラは空元気な笑みをレオに向ける。


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