第115話 Rー5 調査
早坂は女子高生のアルクと共に建物周辺を調査するため外に出た。
スマホがないため正確には時間が分からないが太陽が頂点に近いので昼11時か13時辺りと早坂は考えた。
「11時頃だよ」
「え!?」
ふいにアルクの言葉に早坂は心を読まれたのかと驚いた。
「前に外へと出た時はまだ高く昇ってなかったから今は昼11時頃だよ」
「……そうなんだ」
アルクは外に出て建物左側へと移動する。
「ねえ、早坂さんもデバイスを頭に入れたの?」
「ん、何をだい?」
早坂は聞こえなかったフリをした。
「デバイス。頭に入れたんでしょ?」
「どうして?」
「たぶんここにいる人達、皆そうだよ」
「それは君もってこと?」
アルクは答えずに先を進む。
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そして二人は倉庫もしくは工場らしき建物を見つけた。倉庫にしては大きすぎるし、工場にしては小さすぎる建物だった。
その倉庫は早坂達がいた施設の裏手にあり、シャッターは閉められている。
「ドアにも鍵が掛かっていて中には入れないですね。窓壊したら入れそう」
「いやいや、駄目だよ」
「駄目ですか?」
「まずは皆に報告しよう」
「そうですね」
早坂とアルクは倉庫を離れて施設周辺を再び調べ始める。
「おかしいですね」
アルクは施設に目を向けつつ、歩きながら言う。
「おかしい?」
「裏口がありませんでした」
「まあ、そうだったね。でも非常口があったじゃないか」
施設左側面に非常ドアがあった。どこにでもある普通の非常ドア。
「でも小さかったですよ」
「ん? そうだね。大きい非常ドアなんてないと思うけど」
アルクは立ち止まり、振り返る。くるりとした綺麗な目が早坂を見つめる。
「ではあの倉庫か工場らしき建物から物を運ぶ時、どうやって中へ運ぶの?」
「そりゃあ、非常ぐ……ってそうか。大きい物は無理そうだね」
「そう。それだとわざわざ正面玄関口まで回らないといけない」
「だとしたらこの施設は何なんだろうね」
施設の背を眺めて早坂は考える。
──もしかして倉庫の物を施設へと移動させることはない……とか?
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そして二人は施設を一周して正面玄関口へと戻ってきた。その時、入ろうとする早坂達とは逆に玄関から出てくる白洲と遭遇した。
「おう! 終わったのか?」
どこか驚いた口調で聞く白洲に早坂は、
「ああ、特に怪しいものはなかった。で、そっちは?」
「俺はあんたがそこのJKといやらしいことしてんじゃねえかと心配になってな?」
白洲は眉を上げて嫌らしい口元をして言う。
「は? 馬鹿なのか? こんなの時、そんなことあるかよ」
不快だと言わんばかり早坂は言い返す。
「馬鹿はほっとといて行きましょう」
そう言ってアルクは玄関口を通る。
それに早坂も鼻を鳴らして続く。
「けっ!」
白洲は二人に聞こえるよう悪態をつく。
早坂達は一度先程いた大部屋に戻ってきた。中には誰も戻ってはいなく無人である。
「まだ戻ってないようだね」
「そうですね」
と言ってアルクはまた廊下に出る。そしてどこかへ向かった。
どこに行くか尋ねるべきかなと思ったがトイレの可能性もあったので聞かなかった。それとこっそりついて行っても白洲に後で揶揄されるかもしれないので早坂は席につき
◯ ◯ ◯
しかし、早坂はすぐに寛ぐのをやめて、立ち上がり、2階へ向かうことにした。
階段を上がり、2階の廊下に着くと早坂は左右どちらに向かおうかと一瞬逡巡した。
その時、頭上から大きな物音がした。質量の大きい何かを落としたかのような音。
早坂は階段を上がり3階に。そして音があったであろう方向に向かった。
すると廊下側に鮫岡達がいた。
「どうしたんだ?」
「ああ、ちょっと棚の上の物を取ろうとしたらね」
と鮫岡は肩を竦める。
「何を取ろうと?」
「双眼鏡だよ。これなら遠くを見渡せるかもと思ってね」
鮫岡は早坂に手もとの黒色の双眼鏡を見せる。
「ん〜けど山しかないと思うけど」
「四方全てが山に囲まれているわけではないだろ? 前方は下り坂だしね。なら、高いところからなら何か見つかるかもしれない」
「そっか」
早坂は鮫岡達が出てきた部屋に入ろうとドアノブを握ると、
「今は入っちゃあ駄目だよ。散らかってるからね」
「あのう、私、やっぱり片付けておきます」
と神田川が言うと堂林も、「じゃあ俺も」と残ることに。
それで早坂と鮫岡の二人で屋上へと向かうことになった。
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階段から屋上に上がると鮫岡は前方向け双眼鏡をかけた。
「
「ああ」
「あと、太陽にも気をつけてね」
「もー分かってるよ」
少し苛立ち気味に鮫岡は返事をした。
それで早坂はしばらく言葉を投げずに鮫岡の様子を伺った。
黙って見守っていると階段へ通じるドアが開く音を聞いて早坂は振り返った。
「どうです? 何か発展は?」
現れたのはシュタイナーだった。
「今、鮫岡さんが双眼鏡で下界を眺めているところです」
「なるほど」
シュタイナーは鮫岡へと視線を向ける。
その鮫岡は頭を動かして双眼鏡で下界を見渡している。
早坂も近寄り、目視で下界を見渡すがやはり緑あふれる自然しかなかった。
これでは双眼鏡を使っても何も発見できそうにはないと考えたが、早坂はそれでも鮫岡に尋ねた。
「どうだい? 何か見えたかい?」
「残念。森と平原、それと山に川だね」
鮫岡は目から双眼鏡を外して首を振る。
「君も見るかい?」
「いや、いい」
「おや、シュタイナーさんもいらしたので?」
「ええ。お食事のお誘いにきたのです」
「食事?」
「ええ。もうお昼時ですので。食品がありましたので調理したのです。食堂の方にどうぞ」
「それはいいね。腹も減っていたし」
そして三人は食堂へと向かった。
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「これはすごい」
大学生の堂林が食堂に入るや感嘆の声を上げた。
テーブルには中華料理が並んでいた。
青椒肉絲、八宝菜、水餃子、麻婆豆腐、天津飯、エビチリ等の皿が一皿ずつ一人一人に小分けされて並んでいる。
「君が作ったの?」
堂林が準備をしているアルクに尋ねた。
「チンしただけだよ」
「チン? 誰かが作り置きしてたとか?」
「さあ?」
アルクは手の平を上げて答えた。
「おいおい、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ」
と答えたのはシュタイナー。
「賞味期限も問題はありませんでしたし」
「賞味期限ってことは加工……いや、冷凍食品?」
「ええ。キッチンに大型冷蔵庫があり、そこに食材や冷凍食品が詰まっていたのですよ」
そこで、
「お! まじで飯じゃん!」
白洲が上田に案内されて食堂へと入ってきた。そして席に座り、エビチリを摘み、口へと頬張る。
それを見て神田川はやれやれと溜息を吐いた。
「それじゃあ皆さん、食べましょうか」
シュタイナーの言葉に各々は席に着き、昼食をとり始める。
早坂は麻婆豆腐を一口食べ、味の違いに気づいた。周りを伺うと数名が口元を押さえて、どこか険しい顔をしている。
「これ中華というより中国料理だな」
「は? 何言ってんだ?」
白洲が眉を八の字にさせて言う。
「あなた中華料理と中国料理の区別も付かないの?」
と神田川は呆れたように言った。
「あん? どういうことだ?」
「味が違うだろ? 麻婆豆腐とか特に」
早坂にそう言われて、白洲は麻婆豆腐を一口食べる。
「……ん? んん? 確かに何て言うか……甘辛くなくて……どちらかというと……ううん? なんだろうな。変に味の濃い……クセがある感じかな」
「ま、そういうこと。味が違うのよ。中華料理は日本人用の味付けで、中国料理は本場中国の味よ」
「そっか。てっきり四川風だの広東風とかでちょっと味が違うのかと思ったけど、これ中国料理だったのか」
「でもどうして中国料理が?」
上田が疑問を投げる。
「どうやらここは中国人が使っていた施設らしいな」
「中国人? もしかしてここは中国か?」
「んなわけないでしょ」
白洲の言葉に神田川が呆れて突っ込む。
「どうしてそう言いきれるんだよ」
「電化製品は日本製。他にも日本製のものばっかよ」
「中国人が日本製品を爆買いしたかもしれないだろ? もしくは日本マニアとか」
「電圧が違う。ここが中国なら日本製品を使うのに変圧器が必要でしょ」
「そうなのか?」
「そうよ。一応今では中国対応の物あるけど。上田さんが調べたところ日本の電圧だったわ」
「じゃあここは横浜か?」
と言う白洲の馬鹿な発言に神田川は目を瞑り、眉を引き攣らせる。
「あのさ、山に囲まれて、ここ以外、
アルクが代表して言った。
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