第116話 Rー6 報告・討論

 昼食が終わり、食堂にて九人は施設内で調べて分かったことを話し合うことにした。


「えーそれでは、調査した結果を報告致したいと思います」


 シュタイナーが周りの顔を見渡しつつ言った。


「報告って。硬っ苦しいな」


 白洲が鼻で笑った。


「何もしてなかったくせに」


 神田川が刺々しく呟く。


「あんだ!?」

「じゃあ何か調べたの?」


 二人は互いに視線をぶつけ合う。


「まあまあ、二人とも落ち着いて」


 シュタイナーは二人を宥め、


「まず私と上田さん、神田川さんで調べたことをお話し致します。まず一階には食堂、キッチン、受付と事務室、応接室、ロッカールームがありました」

「それでここがどこかってのは分かったのですか?」


 早坂が聞いた。


「残念ながら」


 シュタイナーは首を横に振る。


「そして地下には管理室があり、そこは監視カメラの映像がモニタリングできる部屋でした」

「管理室って地下にあるのか?」


 白洲が疑問を呈した。


「そういうことに関しては詳しくはないので。それで管理室なら何か通信機材があるのかもと調べてみたのですが、残念ながら何も」


 シュタイナーは暗い表情で首を横に振る。


「では次は私から報告しよう」


 と鮫岡が次に話し始める。


「私と堂林君、雪柳君の3名で二階と三階の部屋を調べた。ただ、鍵のかかっている部屋がいくつかあったので全てとはいかなかったが」

「あっ! それでしたら管理室に鍵がありましたよ」


 シュタイナーが告げる。


「では後で調べてみよう。それで空いた部屋を調べてみるとパソコンやタブレット、そして書類が多かった」

「パソコン! なら助けを呼べるのか?」

「お生憎あいにく壊れていたよ」

「んだよ、それ」


 白洲は椅子に座りながらテーブルの脚を蹴った。


「一階にも電話等の通信機器もありましたがどれもが……」


 シュタイナーが残念そうに言う。


「なんだよ、それ。あれか!? 北朝鮮の高高度核爆発のせいか?」

「あら、よく知ってるわね」


 神田川が感心したように言う。


「お前バカにしてるのか? 全国で大変だったろ。しかもその後で中国製の人口補助脳やデバイスのせいで……」


 そこで白洲はフラット社に勤める上田を睨む。上田は蛇に睨まれた蛙のごとく恐縮して俯く。


「もしかして、あんた中国製のデバイスを脳に?」


 神田川は聞くが白洲はそっぽを向き、答えようとはしない。


「もしかして、ここにいる全員、脳に中国製のデバイスを?」


 そのアルクの発言に全員が息を呑む。


「否定しないということは、そうなのですね」

「なるほどプリテンドなったせいで私達はここにいると君は思うのかね?」


 鮫岡はアルクに聞く。


「さあ?」

「やめろよ。体を勝手に動かされるなんて」


 白洲は前髪をかき上げて言う。


「でもモーニング・プリペアなんてものもあるのだから、そうおかしくはないでしょ?」


 それには早坂は表情を曇らせた。


 モーニング・プリペア。本人は寝ていながらプログラムが勝手に朝の準備をしてくれるもの。


「あら、早坂さんはよく知っているようね」


 早坂の表情を読んで神田川は言った。


「何? お前、AIに体を操作させてるのかよ」

「違う!」


 早坂は声を大きくして否定した。


「AIじゃない。プログラムだ。しかも、ささいなことだ」

「似たようなものだろ?」

「違う。スマホにアプリを入れて、あれこれ設定するだけ。あとは朝になるとスマホが情報を送信。それで朝の仕度が楽になるだけだ。それに意識がないわけではないんだよ。夢遊病みたいな感じだ。寝て起きたら会社のような便利なものではないんだ」


 早坂は焦ってか早口で弁明する。


 しかし、それは逆効果で白洲はますます疑いの目を向ける。


「それにスマホがないと何もできないんだって」

「そうなのか? 上田のおっさん」


 白洲は上田に確認する。


「ああ、そうだ。モーニング・プリペアだけでは意識もなく高度なことはできない。あくまで無意識下で行動を補佐するものだ」

「それって無意識下で犯罪も可能ってことか?」

「いやいや、理性はどうもできないよ。サブリミナル効果と同じで殺人を犯せないのと同じだよ」

「サブリミナル?」

「動画の中で文字を入れると無意識下で文字通りに動く効果だよ」

「ああ! あれか」

「だからモーニング・プリペアだけではAIに体を乗っ取られるのは難しいね」


 鮫岡は咳払いをして、


「話を戻すが、あとは書類を読んでみたのだが、どれも中国語でね」

「ん? お前ら中国語できんじゃねえのか?」


 白洲は堂林と雪柳に聞く。


「言ったろ。第二言語で触り程度だって。せいぜい『何か研究しているんだろうな』ってことくらいだ」

「すみません。私もあまり読み解きができませんでした。もう少し時間をかけて読めば何か分かるかも……です」


 雪柳は尻窄しりすぼみしつつ答える。その後、鮫岡は一度咳払いして、


「では、話を戻すが、私は翻訳を堂林君達に任せて二階と三階を見て回った。二階に仮眠室、三階にシャワールームを見つけた。……私からは以上だ」


 鮫岡は早坂とアルクに目を向ける。


「えーと、自分達は外を見て回ったんだけど工場か倉庫らしきものを一つ見つけたくらいだ」

「入って中を見なかったのですか?」


 シュタイナーが質問する。


「鍵がかかっていまして」


 早坂は肩を竦めて答えた。


「まあ、これで自分達の報告は終わりです」


 と言って早坂は白洲へと顔を向ける。それに釣られて皆も白洲へと顔を向ける。


「あんだよ?」

「君は何か発見しましたか?」


 シュタイナーが白洲に聞く。


「何もねえよ」

「あんたねえ」


 神田川は溜め息混じりに呟いた。


「それで、これからどうします?」


 シュタイナーが全員に聞いた。


「まず倉庫だっけ? そこ気になるね」


 と鮫岡は言った。続いて白洲が、


「だな。倉庫なら色んな物もあるはず。通信機の一つはあるだろうな」

「では倉庫に行きましょう。私は管理室に行き、鍵を取り行きますので皆さん先に倉庫へ向かっていて下さい」


 シュタイナーの言葉に皆は頷いた。

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