第117話 Rー7 工場
「お待たせしました」
シュタイナーは駆け足で先に倉庫へと着いていた早坂達に挨拶をした。
「これが倉庫ですか」
「はい。ドアはこちらに」
早坂は手でドアを指し示す。
「おや、鮫岡さんと神田川さんは?」
「倉庫の周辺を見て回るとかで」
「そうですか」
そしてシュタイナーはドアノブを掴んで回したり、押したり、引いたりをする。
「確かに鍵がかかってますね。他も駄目なんですか?」
「はい。窓もシャッターも閉まってます」
「そうですか。ではこの鍵で開けてみましょう」
とシュタイナーは鍵束から一つ一つ鍵を刺して、本物の鍵を探す。
そしてシュタイナーが本物の鍵を当てて、解除した時、神田川が戻ってきた。
「窓ガラス割れているわよ!」
「え? なんで? 確かに窓は……ねえ?」
早坂はアルクを伺う。
それにアルクは頷き、
「割れてませんでしたね」
「とにかく、こっちよ!」
早坂達は神田川に連れられて割れた窓へと向かう。
◯ ◯ ◯
倉庫側面の窓ガラスに向かうと、確かに側面にあるいくつかの窓ガラスの内の一つが割れていた。
「どうして?」
アルクが割れた窓ガラスに近付く。
「破片が少しあるから危ないよ。あと窓には触れないように」
鮫岡が注意する。
窓の下には少しガラスの破片が散らばっている。大半の割れた破片は内へと落ちている。ということは外からの衝撃で割れたという可能性が高い。
そして二人はある人物を思い浮かべ、ほぼ同時に二人は白洲へと顔を向ける。
「なんだよ?」
「確か自分達が戻ってきた時、逆に外に出てきたよな」
「あ? ……ああ! 外の空気を吸いたくてな。もしかして俺、疑われている?」
「別に窓ガラスを割ったことは咎めないわよ」
さっさと白状しなさいという口ぶりで神田川が言う。
「待て待て、知らねーよ。ここに倉庫があることすら知らなかったし」
「じゃあ、外で何をしてたの?」
「ちょっと、ぶらついてただけだよ。ここじゃなく前の方を少し歩いただけだし。……てか、窓ガラスが別に割れていようがどうでもいいんだろ?」
「あんたバカなの? いい? 二人がここに来た時は窓は割れてなかったのよ。それが今、割れているとなると私達以外の誰が割ったていうの?」
そこでやっと白洲は気づいたのか「ああ!」と声を出した。
「本当にあんたじゃないの?」
「断じてちげーよ。窓ガラス割ってまで入る気しねーし」
「……分かったわ。とりあへず中へ入ってみましょう」
「こっから入るのか?」
「違うわよ! ドアからよ!」
そして正面に戻り、施錠されたドアから中へと入った。
まずシュタイナーが先に入り、電灯のスイッチを押した。すると電灯が点き、中が
「ほう、ここも生きてるのか」
鮫岡の言葉にシュタイナーは、
「生きてる? どういう意味で?」
「電灯が点くということ、壊れていないということ」
「なるほど、そういう意味でしたか」
日系かつ発音よく日本語を話すので、つい日本人のように感じるが、やはり母国語が英語の日系アメリカ人であると再認識させられる。
「ここは工場だったようね」
神田川は中を窺って言う。
その工場の中はベルトコンベアーに、それを挟むように等間隔的にテーブルが並んでいる。その上にはハンダゴテや道具、謎のパーツが入ったダンボールが乗っている。
「いや、これは工場というより、これは組み立て小屋に近いな」
鮫岡がベルトコンベアーやダンボールの中身を見て言う。
「それじゃあ何を組み立てていたの?」
「それは調べみないとな?」
そして理系の鮫岡、神田川、上田たちは工場内を調べ始める。
その間、シュタイナー達は割れた窓の方を調べ始める。
シュタイナーは屈み、割れた破片が散らばる地面を注視する。
「何か分かるか?」
白洲がシュタイナーに聞いた。
「割れた原因は分かりませんね。近くに石やボールがない限り、素手か鈍器でしょうかね?」
「入った形跡は?」
「窓の鍵が開けられていましたし、ガラスも粉々ですしね」
「犯人が踏んだってことか?」
「そうですね」
「よし! お前ら靴の裏を見せろ!」
白洲は早坂達に言う。
「いや、まず一番怪しいあんたでしょ?」
アルクが前に出て言う。
「しゃあねーな」
「あ! 待って下さい! ここで脱ぐのは危険ですよ。破片がありますので」
「あ、そっか」
「破片の件は後にしましょう」
そして白洲は鮫岡達の方へ向かい、
「どうだ? そっちは何か分かったか?」
とベルトコンベアー近くのダンボールの中を窺い、手を突っ込もうとする。
「駄目だ!」
鮫岡が大きく声を上げて注意する。
びっくりして白洲は固まる。
「その中身は危険だ。離れろ!」
と鮫岡は急いで白洲をダンボールから遠ざける。
「おっ、おい、何だよ? そんなに怒ることか?」
どこか不満気に白洲は言う。
「そこにあるのは銃器だ」
「じゅ、銃!?」
「ひゃっ!」
雪柳が口に手を当て、小さい悲鳴を上げた。
「銃器って。拳銃とかか?」
白洲が鮫岡に聞く。
「そうだ。しかもただの銃器ではない。紛争地帯に使われるものだ」
それには後ろの早坂達も驚いた。
「なんでそんなものがあるんだよ?」
と堂林が聞く。
「知るわけないだろ? だが本物で、ここは何か兵器の類を組み立てていたらしい」
「兵器とは?」
雪柳がおそるおそる聞く。
「まだ分からん。とにかく危険だから、ここは私達に任せて君たちは他を調べたまえ」
シュタイナー達は顔を見合わせ、
「分かりました。ここは任せます」
しかし、
「いや、何でお前が仕切んだよ」
と白洲が鮫岡に文句を言う。
「私は科警研だと言ったろ」
「それに私は院生だし、上田さんは理系の人間だからね」
と神田川が答える。
「さ、白洲君、ここは彼女達に任せて私達は他を見て回りましょ?」
「ふん」
白洲は不機嫌に鼻を鳴らして外に出る。
シュタイナーは鮫岡達に、
「では宜しくお願いします」
「任せておけ」
◯ ◯ ◯
「さて、私達はどうしましょうか?」
工場の外に出てシュタイナーは残りの者達に今後の活動について尋ねた。
早坂はどうすべきかと考えた。けれどこれといった妙案は生まれなかった。
代わりに女子大生の雪柳が手を挙げた。
「あのう、二階と三階の鍵がかかった部屋を調べてみたいのですが」
「そうですね。では、そちらに行きましょう」
「待った!」
皆は声の方へ振り向いた。
声を出したのはアルクだった。
「どうしました?」
「靴の裏。見るんじゃなかったの?」
「ああ! そうですね。皆さん、片足でいいので靴の裏を見せて下さい」
シュタイナー達は片足だけ靴を脱ぎ、裏を見せ合う。
「ふむ。誰も靴の裏には破片がありませんね」
「なら、もう片方も見るか」
白洲が提案する。
「ですね」
というわけでシュタイナー達は反対の靴の裏も見せ合うことになった。
「ありませんね」
「てことは犯人は残った三人の内の誰かということか?」
「……まだそうとは言い切れません」
「犯人も窓ガラス割って工場に入り、その後でガラスの破片を抜いた可能性もあるしね。それとそもそも破片を踏んでない可能性もあるし」
アルクはそう推理する。
「なんだよそれ」
白洲がシュタイナーを睨む。ガラスの破片を踏んだと言ったのはシュタイナーだ。
「すみません」
「別に謝る必要はないですよ。現にガラスの破片はすくなかったのでしょ?」
頭を下げるシュタイナーに早坂はフォローを入れる。
◯ ◯ ◯
シュタイナーは鍵のかかった部屋を鍵束の鍵を使い解錠する。鍵が分かればペンで数字を書く。
「2-7。……2は二階のことですよね。7は?」
早坂はシュタイナーの手元にある鍵を覗き見て聞く。
「7は7番目です。西から順に番号を振ってるんです」
そして早坂達は部屋へと入る。
「寂しい部屋だな。何もなさそうだぜ」
白洲が部屋を眺めて言う。
確かに白洲の言う通り、部屋には机と椅子、そしていくつかのバインダーが差し込まれた棚しかなく寂しい部屋であった。
「棚にバインダーがあるだけましだろ」
堂林は言う。
「どうせ中国語だろ」
「私は他の部屋も全て開けておきますね」
と言ってシュタイナーは部屋を出た。
白洲はバインダーから書類をぱらぱらと捲り、中身を確認する。
「やっぱ中国語だ」
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