第176話 Aー6 邂逅と仮交渉②
アリスがクルエールと接触した日の夜。
就寝中のユウの夢にクルエールが現れた。
否、現れたのでなくユウがクルエールの元に召喚されたのだ。
「久しぶりね」
「そんなに久しぶりじゃないだろ」
ユウはぶっきらぼうに答える。
「あらあら、私も嫌われたものね」
「ここは夢ではないよね」
2人がいるのは初めて会った時と同じウユニ塩湖のような空間。
「うん。話があって連れてきた」
「そんな自由……というか
「そこはほら、彼女に手を貸してもらったの」
クルエールはユウの背後を指す。
振り向くと、少し離れたところにハイペリオンが立っていた。
ユウは前に向き直り、
「そう。で、話って? 言っとくけど交渉は──」
「アリスが契約に応じた」
「っ!」
「まだ本契約してないから安心して」
「嘘だ」
「本当だよ。ねえ? ハイペリオン?」
「ええ」
「どうして?」
本契約。つまりクルエールを自分の体に入れて、交渉内容を知っている相手を解放すること。この場合はユウが該当する。
「どうしてって、そりゃあ、君がピンチだからだよ」
クルエールは笑みをこぼして言う。
「ピンチ?」
「君、分かったないの? 次の鬼ごっこに君が有力選出者なんだよ?」
「え!? 待って。なんでだよ。鬼ごっこはハイランカーが選ばれるんだろ?」
「別にハイランカーだけが選ばれるってわけではないよ」
クルエールはユウに近付き、
「恨まれているプレイヤーだっているでしょ?」
「……それって俺が恨まれているってことか?」
「ええ。君、この前のイベントでエイラを倒したでしょ? エイラはミスコンにも選ばれた人気プレイヤーだもん。
ユウは唾を飲んだ。
「アリスは健気だねー。アリスにとってエイラは兄の彼女であり友達でもあったんだから。それなのに君を恨まず、解放させるなんて」
そう言われてるユウは胸を締め付けられる想いだった。
「……それで俺が鬼ごっこ参加プレイヤーに選ばれるから、アリスは交渉を……」
「そういうこと」
クルエールはくるりと翻りユウに背を向け、後ろ手にして数歩進む。
「でもアリスの方に問題があってね」
「問題?」
「今、アリスってエイラの件やらで色々疑われているんだよね」
「え!?」
「エイラがやられたのはアリスのせいだとか。君──アヴァロンプレイヤーと繋がりがあるじゃないとか」
「何を馬鹿な!」
クルエールはユウの方へと向き、
「おやおや、間違っているとでも言うのかな?」
「うっ!」
ユウがエイラに勝てた起因の一つがスキル「ロミジュリ」だ。さらにユウとアリスは本来は敵対関係なのに一時的だが一緒に行動をとっていた。
だからクルエールの言うことはあながち間違いではない。
「このままアリスの体にいるも少し窮屈なんだよねー」
「待てよ。体に入るだけで、何もできないんだろ?」
「そうだよ。でもこれがさー、アリスのストレス値がノイズのように響いたりして五月蝿いんだよねー」
「……だから?」
「私としてはそっちの方が良いかもしれないなーと思ってね。だって君は友達も沢山いるじゃない」
「アリスだって兄がハイランカーで──」
「友達は1人もいないよ」
「!?」
「兄のパーティーにいるけどローランカーだから疎まれているし、兄の方は彼女がいなくなっておかしくなってるし、今のアリスの境遇は本当につらいものだよ」
それをユウは聞いてユウは沈痛な面持ちになる。
──もう一押しかな?
「唯一の友人であるエイラは君が倒したしね。しかもそれが原因で疑われているし」
「分かった」
──きた!
「俺がお前を……このアバターの中に入れてやる」
「おお! それは嬉しい」
けどクルエールはわざと困った表情をする。
「でもアリスとも話を進めててさ。次の鬼ごっこの成績次第で考えるって言ったんだよねー」
「つまりアリスより好成績になれってことだろ」
ユウは言葉を吐く。
「話が早くて助かるー」
◯ ◯ ◯
ユウが退出しクルエールとハイペリオンの2人だけとなった。
「これであとは待つだけね」
クルエールは大きく伸びをする。
「おや? アリスが好成績を残すかもしれないよ?」
「どうせそれでも
「できればしたくないね」
そう言ってハイペリオンもこの世界から消えた。
残ったクルエールは独り、遥か遠くの空と地面の境界線を見つめる。
「良い方向に行けばいいのだけど」
プログラムされた青い空は高く、空と同じ地面もまた深い。
「でも私達AEAIは神でもなければラプラスの悪魔でもない。だから絶対はない」
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