第48話 Tー2 首都カシドニア

 タイタン側のアップデートも街が一新され街から首都へと様変わりした。


 首都名はカシドニアで都心には都庁があり、NPCが都知事を務めている。


 その他、アップデートは全タイタンプレイヤーにカルマ値、そしてストーリーイベントが。それらはプレイヤーにメッセージとして今朝がた送られた。


 アリスはそのメッセージの件でエイラの元を訪ねたが残念ながら留守であった。


 他にパーティー内で仲の良いのはケイティーぐらいしかいない。仲が良いといっても多少気心がしれた程度。部屋に向かってまで会いにいくほどの仲ではない。


 あとはパーティー外の知人。キョウカたちであろう。端末のメッセージ機能で『カルマ値とストーリーイベントについて何かわかります?』とメッセージを送った。


 すると端末から電子音が鳴った。メッセージ音とは違う電子音だった。端末画面には通話のマークが。

 アリスは通話マークをタップしおそるおそる端末を耳もとに近づけた。


「……もしもし?」

『やあ、カルマ値の件だが……』

「え! いやいや、その前にどうして通話が?」

『ん? 知らなかったのかい? どうやらアップデートで通話機能が誕生したらしいよ』

「へえ、そうなんですか」

『で、カルマ値なんだが』

「あ、ちょっと待ってください場所を変えるんで」


 アリスはすぐに自室に戻り、ベッドに座った。


「すみません。それでカルマ値とは?」

『カルマとは日本語で訳すなら業だね。意味は、……詳しくはわからないが生きるための悪行とか、徳に関することかな』

「う~ん。つまりはやっぱり善悪に関することですか?」


 アリスは眉間の皺を指先で揉みながら聞く。


『ロザリーの発言から察するにそうだろうね。悪意が増えるとカルマ値が上がるってことだろう』

「上がるとやっぱり……」

『うむ。殺されるね』

「……」

『なに、悪いことをしなければいいことだ。健全に生きていれば問題ないだろ』

「でもなんかこれ、中国のアレみたいじゃないですか?」

『アレ、……もしかして大規模かつ長期的なデモになって廃止になったインプラント型犯罪係数測定器のことかい?』

「はい」


 一年程前、中国で国民にデバイス内犯罪係数測定器を導入するという話になった。だがそれは当局にとって不都合な人間を選別するためだと国民は犯罪係数測定器導入に猛反対した。デモは中国全域だけでなく国外でも発生したほど。一つのデモで平均10万人以上が参加。都市部では100万人以上もの参加者が。これらのデモは半年以上に渡り不定期に行われた。国外のデモは暴動はなかったが中国国内のデモは暴動は発生した。


「なんか不都合な人間は潰されるんじゃないかって、その」

『その気持ちはわからなくもない。だがそう悲観すべきかな? 彼らがどういう奴らかは判らないが我々の脳をいじくり回して思考を知ることはできないだろう。せいぜい対象に対して嫌悪、嫉妬、虚偽に関することぐらいだ。だからもう少し気を楽に持ってはどうかな?』

「楽にって言われても」

『そうだ。これから時間とれるかい?』

「ええ、予定はありませんが」

『ストーリーイベントがあるって言うじゃないかい。なら、一緒にどうだい?』


 新しくできた空港でイベントがあると報せにあった。


「いいですよ」


  ○ ○ ○


 空港は南東にあり、海から近い場所にある。

 アリスはキョウカたちと待ち合わせをしてそこから一緒に南東の空港に向かった。空港までは砂漠地帯を突き進んだ。砂漠といっても黄金の砂海ではなく干からび、ひび割れた大地だった。何もない大地から急にモンスターが現れ、アリスは遭遇の度に驚いていた。


「なんでオバケでもないのに急に出てくるかな?」


 アリスは唇を尖らせて文句を言う。


「オバケではないが似たようなものだろう」


 キョウカが笑いながら答える。


「違いますよ。オバケは実体ないで、ひゃ!」


 またアリスたちの前にモンスターが急に現れた。サーベルタイガー似のモンスターで名前はドゥーダ。レベルは30。今のアリスでは怖れるほどではない。ライフル・スピードスターで即解決。


「もう! 出るなら出るって言ってよ。準備ってものがあるんだから」


 トリガーを引き、ドゥーダに銃弾をぶち込んで倒す。


「でも確かにおかしいですね」


 クルミが思案顔で言う。


「おかしい?」


 キョウカが拾って尋ねる。


「はい。今までは遠くから現れて向こうかこちら側が近づいて戦闘でした。だけど、これだと目視=エンカウントです」

「ふむ。そう言われると確かに。もしかしてアップデートの支障かな」

「あとで掲示板に書き込んでみましょう」


  ○ ○ ○


 空港の前にロータリーがあった。車やバス、戦車までも停まっていた。


「もしかして徒歩で来た私たちってバカ?」


 アリスがげんなりして言う。


「いや、車の類は使用できなかったはずだが?」


 キョウカが首を傾げて話す。


「でもバスからプレイヤーが降りてきてますよ」

「ううむ。これもアップデートか?」

「らしいですね。プレイヤーに知らされていないアップデートがあると掲示板に書き込まれています」


 と、端末を操作していたクルミが答える。


「カナタ! 戦車だよ」


 アリスは戦車を指差してカナタに教える。


「うん」

「あら、反応薄いな。戦車好きじゃないの?」

「別に」

「男の子だから戦車とか好きだと思ってたんだけど。もしかして飛行機の方が好き?」

「……普通」


 カナタは少し考えてから答えた。


「ええ! 何それ?」

「まあまあ。それより中に入ろうではないか?」

「ストーリーイベントって何なんでしょうね」

「中に入ってみないとわからんね」


 そう言ってキョウカは肩を竦める。


「クルミさん、掲示板には何か書かれていますか?」

「国賓のお客が来るとか……ですかね?」


 クルミは眉を寄せ、歯切れ悪く答えた。


「国賓?」

「すみません。それ以上の情報は……」

「いえいえ、では中に入りましょう」


  ○ ○ ○


 空港内は現実の空港と同じような構造であった。まずロータリーから中に入ると広場。その先にレストランやカフェ、お土産屋が並んでいる。大通りを抜けると受付が。2階に続くエスカレータが2つ。右側のエスカレータは待合室に。左側は展望台に。


「私たちって飛行機に乗れるんですかね?」


 アリスは受付を見た後、キョウカに尋ねた。


「乗れないだろうね」

「ええ! 他の空港に行くとかないんですか?」

「空港はここだけらしいよ。それに来るのは飛行機ではなく宇宙船だよ」

「う、宇宙船!?」

「君、ここがSF世界だって忘れてるね」

「でもでもキョウカさん、SFなら軌道エレベーターでしょ」

「ここは開拓惑星だよ。軌道エレベーターは開拓してからだね」

「それよりどうします? 展望台に向かいますか?」


 クルミが二人に聞く。


「ストーリーイベントの時間は、……一時間後か」

「でも皆来たら展望台混みませんかね?」

「内部マップを見ると展望台は広いので問題ないと思います」

「クルミさん、もうマップなんて手に入れたの?」

「施設マップは自動で手に入りますよ」

「あ、そうなんだ」


 アリスは端末を操作してマップを画面に表示する。


「あー本当に広いですね。これなら後からでも問題なさそうですね」

「それならカフェでお茶でもしようか?」

「賛成です! カナタは?」

「うん。問題ないよ」


  ○ ○ ○


 アリスたちはカフェで一息つき、ストーリーイベント十分前に展望台に向かった。展望台までは人でごった返していたが展望台に入ると人との間に余裕が生まれた。


 展望台は屋内と屋外の2つがある。屋外に向かうには屋内の奥にあるドアから抜けないといけない。


「本当に広いですね」


 屋内展望台には椅子や自販機がある。椅子は残念ながら埋まっている。


「窓側は占領されちゃっているね」


 キョウカは残念そうに言った。


「しかし、ここからどのようなストーリーイベントがあるんですか?」

「判らないがやって来る宇宙船、国賓が関係しているのだろう」

「屋外に行きますか? 屋外は屋内より広いのでフェンス際に隙があるのでは?」


 キョウカが移動を提案する。


「そうだね。一度屋外に行ってみよう」


 奥の自動ドアをくぐり、アリスたちは屋外に出た。

 屋外は人が少なくガラガラだった。


「おおー! 人少ねー! やったね!」

「君、語彙力が低下してるよ」

「あははは。いや、こうまでだだっ広い中、人が少ないとつい」


 アリスは頭を掻く。


「お! あれなんです? ジェットコースター?」


 フェンスに近づきアリスは空港から少し離れた場所にある赤いレールを指差す。

 赤いレールは上に伸び、途中で切れている。


「たぶんあれは宇宙船の離陸レールだね」

「へえ、すごーい。私、垂直やつしか知らないよ」

「それはレールではないよ」

「あははは。カナタはどう? わくわくする?」


 その質問にカナタは首を傾げる。


  ○ ○ ○


 時間になり人が集り始めた。屋内にいた人たちも屋外へと移動し始めたのだ。


「ゲゲ、人が集り始めましたよ」


 アリスが集まってくる人の群れにげんなりした目を向ける。

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