第46話 Aー1 ストーリーイベント
「やっぱ修復だけでなく街そのものが変化しているわ」
セシリアが手で
3人は今は、街全体を見渡すため南の丘の上にいる。
「これは昨夜のデモでってわけではないね。修復ってレベルではないわ」
アルクが続いて言う。
今、3人が見ている街は目測で前の街の3倍は広がっている。ここから見る街の北側は地平線となっている。そして中央には白い城が聳え立っている。
「デモってどれくらいだったんだろう」
ユウが街を見下ろしながら誰ともなしに聞く。
「さあ、私たちあの後、すぐに就寝しちゃったからね。掲示板だと相当だったらしいわよ。NPCの自警団で制圧したとか」
セシリアが肩を竦めて答える。
昨夜、街で大規模なデモがあった。大半のプレイヤーがイベントの結果、敗者ペナルティに対して怒り、暴徒化して建物を破壊。そしてNPCの自警団が現れデモは鎮静化した。元々ゲーム内ではフィールドは破壊されても時間が経てば修復されるので破壊の爪痕は今は一切残っていない。
「それにしても運営からメッセージが届いたときはびっくりしたよ」
「そうそう。大型アップデートで街から首都国家にしたって連絡きたときはびっくりよ。それにカルマ値だっけ? 悪いことすると貯まるってことかな?」
「それだとデモした人はどうだったのかな?」
ユウの疑問にアルクが、
「カルマ値は今日からだから大丈夫なんじゃない?」
「にしてもデモなんて」
セシリアがため息混じりに答える。
「まあ、帰れないとなったら暴動の一つでも起こるでしょ」
「あと、メッセージに昼頃12時に城門広場にてストーリーイベント発生ってあるけど。ストーリーイベントってなんだろ?」
「ストーリーイベントは文字通り物語よ。NPCの演劇が発生して、えっと、条件をクリアするものよ」
アルクが説明する。
「物語ねえ」
ユウは顎を撫でながら空を見上げる。イマイチピンときていないらしい。
「まあ、城門広場に行けば判るわ」
○ ○ ○
3人は丘の上から街へと戻り、城門広場に向かった。城門広場に近づくにつれ人の数が多くなる。
「これ大丈夫なの?」
ユウが心配して呟いた。
「……たぶん大丈夫じゃない。城門広場もそうだけど城門からの大通りも広いし」
セシリアが眉間に皺を寄せて言った。しかし、大通りは隙間なく人で溢れ、所々で渋滞に会う。
仕方なくユウたちは流れに任せて進む。
そして、人の流れは広場を囲むように動く。
「あれ? 真っ直ぐ進まない? 曲がらされる」
「ユウ、セシ、
「人、多すぎよ!」
ユウたちは肩を寄せながら移動。そして流れが止まった。城門広場に着いたのだろう。しかし、前にいるプレイヤーが列をなしていて広場が窺いしれない。
「もう! どういうことよ」
セシリアが列の向こうの城門広場を見ようとピョンピョン飛びながら文句を言う。すると、
「最前列の皆様はお座りください」
と、 プレイヤーたちの声をかき消すかのような大声がユウたちの耳に入った。
最前列は座り、その後ろの列は屈んだことによって視界が
鉛色の鎧兵士が最前列プレイヤーの前に立ち、そして指示を出している。
ユウは何人かのプレイヤーが列から出ているのを見つけた。
「あの人達どこに行くのかな?」
隣のアルクに立ち去るプレイヤーを指差し尋ねる。
「ああ、そっか」
アルクは質問に答えずユウとセシリアを引っ張る。
「ちょっ、ちょっと」
急に引っ張られたセシリアは足をもつれて、こけそうになる。
「こっち。今なら空いてるかも」
アルクは背後の建物を見上げながら言う。
そしてアルクは二人に説明もなく建物の中へと入る。その建物はカフェ店らしくアルクは階段を上がり2階へと進む。それにユウとセシリアも続く。2階でアルクはベランダ側の空いているテーブルと椅子に近づき、椅子に座った。ユウとセシリアも椅子に座る。
「へえ、ここからなら広場がよく見えるわね」
セシリアが城門広場に目を向けて言う。
「でもイベントに参加できるの? 遅れそうだけど」
ユウが心配して聞く。
「大丈夫。ストーリーイベントっていうのはまずシーンから入るの。それに戦闘があっても参加できるのは僅か数名。しかも、大半が負け戦だから」
と、アルクが答える。
「負け戦?」
「敵を倒せないってことよ。よくゲームとかでもあるでしょ」
「ああ! あれね」
ユウとセシリアは大きく頷く。
「セシ、あんたも知らなかったの?」
「私、ストーリーイベントは初めてなの」
○ ○ ○
そして時間になり、城門が音を立てて開いた。門からは赤と青の軽装兵の列がラッパを吹きながら行進する。そして彼らは広場端に立ち止まった。門からはまた兵の一団が現れ、さらにその後ろに大きな御輿が現れた。御輿周辺には貴族兵が取り囲んでいる。そしてその御輿の上には王様と妃らしき人物が。
「何アレ?」
セシリアが半眼で呟く。
御輿の大きさは日本の御輿と同じくらいで遠くからなら日本の御輿に見えるだろう。唯一違うのが装飾過多であろう。金銀プラチナの類だけでなく
和洋折衷のような神輿であった。
御輿の前にいる大臣のような人物が、
「国民の諸君! これより国王様から大切なお知らせがある。心して静聴なされるように」
そして、神輿の上、椅子に座っているスレテオタイプな王様が立ち上がった。
「我が愛すべき国民諸君よ。我が一人娘、ヤイアが同盟国ユーリアの第2皇子と御婚礼することになった」
王様が告げると拍手が。しかし、拍手しているのはNPCプレイヤーのみであった。
それもそうだろう全プレイヤーは頭の上にはクエスチョンマークが。なぜなら全てが初耳なのだから。今日、現れた王様が姫の婚約話されても反応に困るというもの。
もう一つの御輿が現れ、王様の乗る御輿の隣に並ぶ。その御輿にはお姫様と皇子様が。
「……これがイベントなの? どうでもいいわー」
セシリアが代弁して呟いた。
急に辺りが暗くなった。大きな雲影だろうかとプレイヤーたちは空を見上げた。
「え! 何アレ?」
「ドラゴン?」
「でか!」
プレイヤーたちがざわめき始める。上空には赤いドラゴンが。ドラゴンは腹を見せながら城門広場の上に浮遊している。
カフェ2階にいるユウたちも手摺りに寄り、上空を見上げる。
ドラゴンが下を向き、口を開いた。そして、炎を吹き放った。炎は城門広場周辺を焼き付くした。
「わあぁぁー!」
ユウは驚き、顔の前に腕をクロスさせる。
「……あれ? なんとも、ない?」
アルクは苦笑して、
「演出だから問題ないよ」
周りのプレイヤーもクスクス笑う。
ユウは恥ずかしくて顔を真っ赤にする。ユウだけでなくセシリアも同じように顔を赤らめる。どうやら同じく驚いたのだろう。
広場のNPCの兵はダメージがあったのか焼け倒れていた。王様たちは近衛兵によって無事の様子。
だが、
「きゃあぁぁー!」
絹を引き裂くような悲鳴がこだまする。
その悲鳴は主はヤイア姫であった。
黒い鎧兵が近衛兵、婚約者の第二皇子を倒しヤイア姫を拐ったのだ。
そして黒い鎧兵はドラゴンの上に乗り、
「我は竜神グラムディア! ヤイア姫は我が貰い受ける。返して欲しければカルガム山の山頂にある我が城へ来るがいい」
そしてグラムディアとヤイア姫を乗せた竜は翼をはためかせて北へと飛び去った。
竜の姿が消えて、
「なんたることだーーー!」
王様が北の空を見上げながら絶望の声を上げた。そして王様は膝を落とし御輿の台を叩き嘆く。そばで妃がハンカチを目にあて、めそめそと泣いている。
大臣がプレイヤーたち向けて両腕を広げ、
「ここにいる者で誰か竜神グラムディアを倒し、姫を取り戻せるものはいないのかーー!」
「頼む。姫を取り戻せてくれるなら褒美を沢山だすぞー!」
王様も広場にいるプレイヤーたちに向け懇願する。
その後、王様たちは城へと戻り、城門は閉じた。
○ ○ ○
「……なにこの三文芝居は」
皆が呆然とするなかセシリアがぼそりと呟いた。
「ストーリーイベントっていつもこんなのなの?」
ユウが城門広場を指してアルクに尋ねる。
「いや、こんなのはクソみたいなストーリーは初めてだ」
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