第248話 Tー13 マリー②

 マリーはすぐに割れたお腹を修復しようとするもアーミヤがマリーの腰を蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされてマリーの体は完全に上半身と下半身に分離させられた。


「ぐっ!」

「実のところウイルスを仕込ませていただきました」

「それはどういうことです? スキャンでは確かにウイルスはありませんでした」


 マリーは地面に寝転んだまま、アーミヤに問う。


 以前のアーミヤとの戦いの後、マリーはタイタン側のフィールド全体のスキャンだけでなく自身の体のウイルススキャンも入念に行った。

 そしてスキャンの結果、ウイルス反応はなかった。


「仕込んだのはあなたの体ではありません」


 体ではない。しかし、実際にはマリーの体からアーミヤは出てきた。

 だが、それが結果によるものであったなら。


「プレイヤーですか?」

「さすがAEAI。演算処理が速くて助かります」

「当たりですか」

「ええ。お見事」


 プレイヤーは人間だ。

 その人間の体を調べることはできるが完全とはいかない。もしそれができるなら人間をこの世界に閉じ込めるなんてことはしない。


「二重……いえ三重ほど複雑化してますね。まずプレイヤーに箱を。そして先程の貴女方がタイタンプレイヤーに送ったメッセージで箱の鍵を開けさせ、を植え付けた。あとは私と私の体にウイルスを植え付けて、しばらくして発動させせるように仕向けた」

「ま、今更わかったところで貴女はおしまいですけどね」


 アーミヤは虚空から戦斧を取り出す。そして柄を掴み、一気にマリーの頭へと振り下ろす。

 頭は割れ、これで光の粒として消滅するはずだったが、マリーの体は白い煙として霧散した。

 異変に気づいたアーミヤはすぐにバックステップで距離を取る。


「あら? どうしたんです?」


 マリーの声が上空から発せられる。


「しぶといですね」


 アーミヤが忌々しげに答える。


「いやあー、さすがに危険でしたよ。私以外だったらここで終わってましたよ」


 声と同時に女性が上空から地面へと降り立つ。

 それは金髪サイドテールの女性……クルミだった。

 クルミの姿をしたマリー。


「その姿は以前の?」

「ええ。クルミというプレイヤーのアバターです」

「もう一つアバターをお持ちでしたか」


 アーミヤはそう言って溜め息を吐いた。


「では、始めましょうか」


 クルミの姿をしたマリーは虚空からナイフを取り出す。

 そして真っ直ぐではなく、木々を回って高速移動でアーミヤへと切り掛かる。

 並のプレイヤーならそこで終わっただろう。


 だが、相手は中国産AEAIの1体。反応速度も予測もハイランカー以上。

 マリーの一撃を戦斧で悠々とガードする。


「威勢の方はよろしいですけど、すぐにやられないでくださいね」


  ◯ ◯ ◯


「予備のボディがあってもその程度ですか?」


 アーミヤはボロボロの体となったマリーに聞く。


「全然物足りませんね」

「そうですか」


 マリーはたいして悔しそうでもないようだ。

 その反応を見て、アーミヤは呆れた。


 ──所詮は時間稼ぎ程度と腹を括ってたんですかね?


 アーミヤはトドメと戦斧を力一杯振る。

 その一撃は防ぐことは出来ない。そして今のマリーにはかわす程の俊敏さもない。


 ──これで終わり。


 アーミヤは勝利を確信した。


 戦斧の刃がマリーの頭を──。


 かち割ることはなかった。


 振り下ろした戦斧は右横からのビームにより邪魔をされたのだ。


 誰だとアーミヤは右に振り向く。

 振り向いたと同時に光が近づく。

 それをすぐアーミヤは戦斧でガードして防ぐ。


「お仲間がいるのですか?」

「いちゃあ悪いか?」

「!?」


 木々の合間からショートカットの女性プレイヤーが現れた。


「貴女……セブルスですね。どうして貴女がここに? 貴女は確かに私とチェンが倒したはず」


 一見、タイタンプレイヤーに思われるが、アーミヤはすぐに見た目が違えどセブルスだということに気づいた。


「おいおい、まさに鳩が豆鉄砲を食らったような顔してるな。人間らしいじゃねえか」


 セブルスはニヤリと笑う。


「質問にお答えください。どうして貴女がまだ存在しているのですか?」

「んなもん。決まってるだろ?」


 そこでセブルスは一拍置く。


「テメエらが倒したさっきの俺もプレイヤーのアバターを利用していたんだ。ちなみこれは本物な。前とあんまり変わんないかな? てか、うちらAEAIに本当の体とかはないんだけどな」


 アーミヤは息を吐き、すぐにチェンにメッセージを送る。人ではないゆえ、メッセージ作成と送信には体を動かす必要はない。


 そしてすぐにチェンから返信がきた。


『すぐに向かう』


「おっ!? お仲間を呼んだか? すぐに来てくれるといいな」


 セブルスはビームライフルの銃口を向け、トリガー引く。


「遅い!」


 アーミヤは最初の一発を戦斧で防ぎ、すぐにセブルスの間合いに入って戦斧を振り下ろす。


 セブルスは瞬時にビームライフルを盾にして防ぐが、重い一撃がセブルスの体を後ろへと押す。

 さらにビームライフルは使えなくなった。


「もう一発!」


 アーミヤが戦斧を振り上げた。


 その時だ。


「今だ! マリー! やっちまいな!」

「わかってわよ!」


 マリーが空へと跳んでいた。


 そして両手を2人へと向けている。


 ──攻撃?


 しかし、マリーは武器を持っていない。


 ナイフもライフルも爆弾も。

 ただ両手をこちらに向けている。


「くらえ!」


 森が赤い光を纏い、温度が膨張した。


 アーミヤが炎と気づいた瞬間、大きな爆炎が生まれ、周囲50メートルの森を一瞬で消し炭にする。

 そして爆炎は渦を巻いて空へと伸び上がる。


 爆炎から一つの影が飛び出してマリーの隣へと着地する。


「あぶねー。私も消し炭になるとこだったじゃん」


 影はセブルスだった。

 体のあちこちが炭化したり焼け爛れたりとしている。


「そのつもりでしたから」

「なんだよそれ!」

「いえ、あれくらいしないと倒せないという意味です」

「で、やったのか?」

「……わかるでしょ?」


 セブルスは返事をしなかった。


 突如として風が吹き天へ昇る炎は小さくなった。


 黒焦げとなった地帯には煙が昇り、残り火が木々を焼いている。


 その中心に体を青みかかった透明な布に包まれたアーミヤがいた。


 透明な布が爆炎を防ぎ、そしてなんらかの方法で風を生み出して炎を消したのだろう。


「やっぱりか」


 生存しているアーミヤを見て、セブルスは溜め息を吐いた。


「出来るだけお仲間が来る前に終わらせましょう」

「だな」

「私が前衛を」


 マリーはナイフを2本手にして、アーミヤへと攻撃を開始する。

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