第259話 Pー11 深山家
薄暗く広い和室。
2人の男が相対していた。
上座に座る和服を着た老人の男とそれに相対する気立ての良いスーツ、フレームのないインテリ風のメガネをかけた40代ほどのすらりとした男。
上座に座る和服の老人は腕を組んで
対してスーツの男は正座で、両手を畳につけ、慇懃に老人に何かを報告している。
老人の目は落ち窪んでいるも力強い炎を灯している。そして一言も発せず、スーツの男が報告する内容に黙って耳を傾けている。
そこへ女中が1人の私服を着た若い女を連れて入ってきた。そしてすぐに女中は一礼して若い女を残して部屋を出る。
若い女は深山鏡花。そして老人は深山家の当主で深山源一郎。スーツの男は源一郎の三男で鏡花叔父である深山明久。
深山明久は言葉を止めたが、当主に「よい」と言われ、また口を開いた。
そして報告が終わると老人に「下がれ」と言われ、明久はすんなりと引き下がった。代わりに鏡花が明久がいた場所へ移動し、正座で老人に相対する。
先に声を発したのは当主だった。
「人形を替えようと思ってな」
「そうですか」
鏡花は感情なく淡々とと答える。
「しかし、どいつこいつも気概のない奴での。首を掴んでおくにはちょうど良いのだが、権力と金に固執しているつまらん奴での」
「それまた大変で」
「ここいらで旗手が必要なのかもな」
鏡花は黙った。そして当主も。
しばらく沈黙が続いた。
広い和室は静かで、羽虫の音すら聞こえない。
鏡花は当主のその炎が宿る眼を恐れずにじっと見据える。そして心の中では不思議に思う。当主は自分のことを同じ者と称するが、自分には人を竦める眼を持っていない。
熱くもなく、野心もなく、愉悦もない。
けど近いし者は時折、血のせいか似ているとも言う。鏡花としてはそういう評価を受けるのは釈然としない。
「お話しは以上でしょうか?」
鏡花が口を開いた。
「何やら楽しんでいるようだな」
「それなりに」
「お前にあれを与えたのは正解だったようだな」
「ありがとうございます」
「強情だな。お前も」
当主は喉を鳴らした。
「無理にも関わるとは」
呆れていると同時に面白がっている声音であった。
「偶然です」
「お前も深山の人間だな」
そう言って、当主が眼を閉じる。その口元は笑っていた。
「此度は好きに暴れるが良い。バックアップはしておく」
「ありがとうございます」
鏡花は頭を下げた。
◯
鏡花が和室を出ると廊下に筋骨隆々の大男と余計な肉のない男、そして女性秘書の胡桃がいた。
鏡花は胡桃に眼を配らせ、廊下を歩き始める。その後を胡桃は黙って後ろに続く。
しばらく歩き続けて、鏡花は、
「オッケーだってさ」
先程とは違う年頃な声音で後ろを歩く胡桃に向けて語る。
「それは喜ばしいことです」
「まあねー」
「何かご不満でも?」
鏡花と胡桃は突き当たりを右に曲がる。
「別にー」
そのまま長い廊下を曲がったり突き進んだりして2人は玄関へと辿り着く。
そこには叔父の明久がいた。
「大丈夫です。誰にも何も言いませんよ」
明久が口を開く前に鏡花が出鼻を挫く。
そして明久に深く一礼して玄関を出る。
それから2人は門を出て、車に乗る。運転席には胡桃、後部席には鏡花が乗るこむ。
胡桃はアクセルを踏み、安心安全に車を運転する。
しばらくしてから、
「え? 聞かないの? さっきのあれは何って?」
鏡花が運転中の胡桃に聞く。
「明久様に『誰にも何も言わない』と言ったではないですか?」
「そりゃあ、言ったけどさ〜」
鏡花は眉を八の字にさせ唇を尖らす。
「もう。そんな顔してはダメですよ。深山家たる者、威厳が大事です」
「ジジイみたいに?」
「ダメですよ。そんなことを言っては」
そして車は家に辿り着いた。
ここはかつて深山家の分家が使っていた家。
宗家の者達は分家とはいえ、他人が住んでいた家に住むのはどうかと言ってくる者もいる。
そういう者達の言葉を無視して鏡花はこの家に住んでいる。
玄関で靴を脱いで、そのまま廊下を突き進み、突き当たりを右に折れて、奥の階段を
鏡花は二階の大部屋に入る。その大部屋には一体のアンドロイドがいて、パソコンに向かい仕事をしている。そのアンドロイドに見向きもせず、鏡花は三人掛けのソファをベッド代わりにして横たわる。
一息ついた後、
「葵、何か大きな進展はあったかい?」
「いいえ。予測通りなのですが……」
鏡花に葵と呼ばれたアンドロイドが答える。
「どうした?」
「先程、現地情報統合・作戦本部の副部長である
「あー、それはなりふり構わずに一気に物量で攻めてくるのかな? 大学の件、気をつけるべきかな?」
「推測といたしましては、まだ雷電公主のボディは修復されていませんし、仮に予備があったとしても同じ
予測ではなく推測を使って葵は答える。
「ただ大学の方も多少は過激になるかと考えられます。それとこちらのデータを収集しようと動く可能性も高いかと」
「つまりは危険度が上がるということだね」
「はい」
そこでドアが開けられ、胡桃が入室した。
手には飲み物のお菓子を載せたお盆。
「飲み物をお持ち致しました」
「ご苦労」
胡桃はテーブルにアイスコーヒーとチョコレート菓子を置く。
「頭を使ったから糖を摂取しないと」
と言って鏡花はチョコレート菓子を食べる。
「ご実家なのでしょう?」
葵は深山家がどういうものかを知っているけど、あえて聞いた。
「窮屈なんだよね。肩が凝るよ」
「お揉み致しましょうか?」
胡桃が鏡花に聞く。
「頼むよ」
寝転んでいた鏡花は起き上がり、胡桃は強化の背後に立って肩を揉み始める。
「ご当主は何をもって鏡花さんをお呼びしたんですか?」
「さあね。しつこい質問もなしに。すぐに終わったよ。あれは私に会うことで上手くいってるかどうかを確かめているんだろう」
「人を見て、状況を知るですね」
「叔父も勘ぐってくるし疲れるわ」
鏡花は目を閉じて息を吐いた。
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