第237話 Tー6 まことしやかに
イベントの告知があったその日、タイタン内では一部のプレイヤー達は密かに震えていた。
なぜなら──。
事前に
外から助けにきた人間曰く、次のイベントは救出イベントでアヴァロン・タイタン各々の五つのフィールドに敵対する相手プレイヤーを閉じ込め、それを休出するというもの。
それは先程のロザリーからの通知と同じ内容。
この情報は端末の掲示板に流すとロザリー達が警戒するゆえ口伝のみで書き込みを一切禁じると告げられていた。
眉唾な話だったが、外からの人間が紛れいるという噂は少し前からあった。
自分達は囚われた被害者。
ゆえにわざわざロザリー達に情報を流すようなことはしてはならない。
それに掲示板に書き込んだことにより、他のプレイヤーから咎めを受けてしまう。
だからこの情報は手に入れた一部のタイタンプレイヤー達は半信半疑の気持ちでロザリーからの告知を待っていた。
「で? どうするんだい? これだとタイタンプレイヤーが彼女らに味方をするが?」
キョウカはこのタイタン側のフィールドを統治するAIのセブルスに聞く。
ここはキョウカのオフィスで今はキョウカとAIのセブルスしかいない。
先に述べた一部のタイタンプレイヤーが知る外からの情報。
その情報はレオパーティーやハイランカー達、もしく彼らを擁する一部のパーティーが秘匿していた。
そしてキョウカ達はレオ達と繋がりがあるため彼らの口伝のみの情報を取得したいたのだ。
キョウカは外からの者というまだ姿がはっきりしない曖昧な存在を否定するため、イベント内容を変更すべきだと忠告していた。
だけど、葵達AIは予定通りに事を進めた。
「なに。大丈夫さ。むしろタイタンプレイヤーに外からの救出者だと言われたら、奴らだって表に出ずにはいられないだろ?」
表に引き摺り出すのが作戦だと言わんばかりのセブルス。
「もし表に現れたらどうするんだい? 逆にプレイヤーを取り込むんじゃないのか? そしてクーデターまがいのことをされたらどうする?」
「簡単さ。化けの皮を剥いでやればいいのさ」
「やつらは中国当局側のAIでプレイヤーを助ける気はないと言うのかい?」
「そうそう。そしてあいつらをボコボコにしてやるのさ」
どっちが悪人なのかと疑うような下卑た笑みをするセブルス。
「プレイヤーは信じるかね?」
その質問からキョウカが上手くいくのかという懐疑的な意味が含まれているのがわかる。
「信じ込ませるさ。根は回してある。それにいざとなれば強制的にね」
そう言ってセブルスは消えた。
彼女達AIは好きな時に現れ、自由に消えることが出来る。
1人になったキョウカは複雑な息を吐いた。
◯ ◯ ◯
パーティー内で借り受けている施設のリーダー室にて、レオはロザリーからのイベント告知メッセージを聞いた。
聞き終わりレオは椅子の背もたれにもたれかかり、目を瞑る。そして頭の中で情報整理を始めた。
──これはますます彼女の話が事実に近いということか。
彼女とはこの前に接触したチェンと呼ばれる者のこと。彼女は外から来たと言う。イタズラや虚言の可能性も疑ったが、彼女からもたらされた情報、周囲で発生した理解できないこと、そして極め付けが今回のことだ。それで少しは真実の方へと天秤は傾いた。
ドアからノックがさら、レオは返事をした。
2人の男性プレイヤーが部屋へ入室する。
「なんだ?」
イベント告知についての相談だろうか。しかし、そういったことは後でミーティングをする。フライングで聞きにくるほどしっかりしない仲間ではないはず。
「掲示板内でおかしな情報が流れているとのことです」
「情報? なんだそれは?」
「それが……」
男が隣の仲間に目で伺う。隣の男は黙って頷き、話を促す。
「それが外から中国当局のAIが一部のプレイヤーと結託して、ここから抜け出そうとしているとか」
「中国当局のAI? なんだそれは?」
それは初耳の言葉だった。
「囚われた中国当局の自我を持った量子コンピュータがゲーム内にいるとかで」
「で、そのAIってのがプレイヤーと結託して脱出。どのプレイヤーと結託してるんだ?」
「それが……我々だと」
「はぁ?」
レオは眉を八の字にさせる。
「なんでそうなる? いや、待て……そういうことか」
自分達がチェンと呼ばれる外の者と会っていたことが漏洩して、それが紆余曲折のすえに中国当局のAIと手を組んだということになったのだろう。
「とんだデマだな」
「どうしますか?」
「かと言って本当のことも言えんしな。しばらくすると沈静化するだろう。ほっておけ」
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