第123話 Rー13 説明

 花田悟は胴体に付いた縄を解き、インカムで二、三言葉を放つ。すると縄はするすると上空のヘリへと戻る。


 そして花田は三人に向き直った。

 花田は親としてアルクに聞きたいことがあったが、まずは親として──、


「なんで降りてきたの? 降りて何するつもりなの? もう無力化したのに? 仮にまだ戦闘中でもあれだと狙ってくれと言ってるものでしょ?」


 アルクに出鼻を挫かれた。しかも質問以外の答えは受け付けませんという顔をして。

 花田は開いた口をパクパクさせ、両腕を踊らせる。


「えっ、あ、いや、その…………そうだ! ほら、運ぶの大変だろ?」


 花田は倒れている雪柳をして答える。


「なら、運んで」


 そう言ってアルクはずかずかと歩き始めた。


「年頃の子は大変だね」


 と鮫岡は苦笑した。


  ◯ ◯ ◯


 道中、昏倒しているシュタイナーを見つけ、拘束バンドで手足を拘束した後、早坂が背で担いで運ぶこととなった。


「降りてきておいて楽な方を選ぶんだね」


 アルクは花田に毒づく。


「仕方ないだろ。最初に見つけたのが女性なんだし。そこの君、交換だ」

「大丈夫ですよ」


 勿論、だいの大人を担ぐのは大変だが問題はなかった。


「もう余計なことしてないで行くよ」


 アルクは呆れ声を出した。


「……にしてもお前も関わってたとはな。いつからだ?」


 花田は鮫岡に聞いた。


「つい最近だよ。これが初任務ってやつさ」

「どうして関わった?」

「興味があったからさ」


  ◯ ◯ ◯


 施設に着くとヘリが施設正面前に降り立っていた。

 そして乗組員達が上田、神田川をヘリの中へと運んでいた。


「二人は無事なんですか?」

「まあね」

 とアルクが答えた。


「その二人もそのヘリに入れて」


 花田と早坂は担いでいる彼らをヘリの中へと運ぶ。


「冷凍室にも遺体が二つあるから。こっち来て」


 とアルクは花田に告げて施設へ入る。


「遺体だ!? あっおい、待て」


 花田は乗組員の一人を引き連れて施設へ入る。

 それを早坂はヘリの中から見る。


「早坂君、こっちだよ」

「え?」


 手招きをされて早坂はヘリから出る。


「そのヘリはプリテンドの彼らを運ぶヘリだよ」

「それじゃあ、自分達は?」

「別のヘリが来るからそれに乗ってだ」


 そして花田とアルク、乗組員達が堂林と白洲の遺体を運んできて、それをヘリに乗せる。

 花田は操縦席の男に、


「後は宜しくお願いします」

「え? 乗っていかないの?」


 アルクが嫌そうに言った。


「当たり前だ! それにお前には色々と言いたいことも聞きたいこともあるからな!」


 と花田はアルクの顔に人差し指を向ける。


「人様の顔に指を向けるな!」


 アルクは向けられた人差し指を握り、明後日の方へ。


「痛え!」


 そんなやりとりを見て早坂は鮫岡へどういうことと視線を投げる。

 それに鮫岡は苦笑して肩を竦める。


  ◯ ◯ ◯


 残された四人は事務室に移動した。


「聞きたいことあるだろ?」


 鮫岡は早坂ににやりとした笑みで聞いた。


「はい。今回の件はどういうことなんですか? それに私が重要人物ってどういうことですか?」

「ふむ。ならまずは今回の目的から話そうか。我々の目的はプリテンド達がどのような行動を取るのか。そしてどこと連絡を取るのかだった」

「それって実験じゃないですか?」

「まあ、そうとも取れるね」


 早坂は机を叩いた。


「人が死んでるんですよ!」


 それは至極真っ当な怒りだった。堂林と白洲が亡くなった。もしこのようなことをしなければ二人は亡くならなかったということ。


 だが──。


「彼らはプリテンドだ!」

「え? ……ま、待ってください」


 早坂は一度俯き考える。


「雪柳さん達もプリテンドなんですよね?」

「私達と君以外全員ね」

「え? ん? ええと堂林と白洲を殺したのはあなた達でしたっけ? いえ、違いますね?」


 混乱する中なんとか導き出す。しかし、雪柳と戦闘で確か、アルクがそう言っていたような。


「うん。そうだ」

「だとしたら、どうして?」


 味方をあやめる。そこには一体何の意味があるのか。


 ますます頭が混乱して手を額に当て考え込む。そこに──。


「つまり、プリテンド達は誰がプリテンドか分からなかったのよ。分かってたら初めから名乗ってたでしょ」


 アルクが手の平を上にして言う。


「じゃあ、堂林君たちは……」

「そうよ。彼らは間違いで味方を殺しちゃったのね」

「ちなみに堂林君と白洲は誰が?」

「推理というか推測だが、両方とも雪柳だろう」


 鮫岡が答える。


「……本当に間違いで味方を?」

「そうだ。たぶん普通の人間だと思ったんだろう」

「あの……プリテンドと分かっているなら、なぜこんなことを?」

「さっきも言ったが、彼らの反応とどこに連絡を取るか知りたかったんだ」

「そのためだけにこんなことを」

「立派な理由だよ。トカゲの尻尾切りは駄目だろ?」


 狙いは末端ではなく、指示者ということ。


「でもそれだとしたら私は……そうだ! どうして私はここに?」

「君は彼らにとって重要な人物だったのだよ。正確には君ではなく、君の中のAIだがね」


 早坂は自身の頭を押さえた。


「私もプリテンドと?」

「いや、の君は人間だよ。ただ、君の中にAIは眠っているんだ」

「私はどうなるんですか?」

「デバイスを取ってもらうよ。いいね?」


 プリテンドではなかった。しかし、自分の中にプリテンドの核があるということに早坂はぞっとした。


「……はい」

「それとスマホの方も譲ってもらうよ」

「分かりました。……ん? でも、雪柳さんはどうせそっちに渡るならと私を殺そうしてましたよね。私が死んでからでもデバイスを取れますよね?」


 それに鮫岡は首を振った。


「いいや、君が亡くなるデータが消失するようになっているんだ」

「なんですかそれ? 一体何でこんなことに? やっぱモーニング・プリペアが原因ですか?」

「そうだ」


 と、その時、アルク吹いた。


「あの時はびっくりしたわ。すぐに人間かプリテンドかの区別がつきそうだったから」

「あれがなければ、もう少しはことこ流れは遅かっただろうね」


 鮫岡もうんうんと頷く。


「すみません。……ん? 向こうは私のこと知らなかったと?」

「初めは誰がくだんの者か誰が敵かは見分けが出来なかったようだね。それもあって彼らは危ない手は避けていたんだ」

「で、件の彼が判明した後は、人間とプリテンドの区別だったのよ」


 とアルクが続いて話す。しかし、


「それを君が腕時計を渡すから」


 困ったなあという表情をする鮫岡。


「確か中国では時計のプレゼントは『お前の死を待つ』という意味があるんでしたっけ?」

「そうだよ。それをアルク君が」

「どっかにGPS付けとかないと駄目だったの! それにそれだけがきっかけとは限らないでしょ!」


 ふんっとアルクは横顔を向ける。


 そこでヘリの音を全員は耳にした。


「おや! 第二陣が到着したようだね」


 鮫岡達は部屋を出ようとする。しかし、花田が、


「アルク。ちょっと話がある」

「後にして」

「駄目だ」


 花田はアルクの前に立ち、道を塞ぐ。花田の目はまっすぐアルクに向いていた。

 アルクは溜め息を吐き、


「分かったわよ。二人とも先に行っておいて」


 花田とアルクを残し鮫岡達は外へと向かう。


  ◯ ◯ ◯


 花田親子は椅子に座らず、立ったままで向かい合っている。双方、眉を寄せ唇を尖らせている。


「いつから関わってた?」

「昨年の十月」

「そんな前からかよ」


 花田は溜め息を吐いた。それがアルクにかかったわけではないが、


「人前で溜め息はやめてよ」

「すまない。しかし、……もう関わるな。危険だ」

「嫌よ。関係のあることなんだし」


 アルクはそっぽを向く。


「お前はただの被害者だ。そうだろ?」


 だからもう関わるなと花田は言う。

 それにアルクはすぐに首を振る。


「でもユウを助けるの。絶対に」


 それは自分に言い聞かせるように。


「やっぱり中身は違うか」

「うん」

「なら、それはお父さんに任せなさい」

「駄目!」


 力強く言い放ち、アルクは父から離れるように窓へと向かう。

 陽は落ちようとしていて、赤い陽射しをアルクに注ぐ。


「私は絶対に助ける。私達だけが助かるなんて良くない! 絶対にユウを助ける」


 強い決意を言葉にして、握り拳に力を込める。


「だが、危険なことなんだぞ。今回だって殺傷沙汰にまでなったんだぞ。これ以上お前に身に何かあったらお母さんも悲しむだろ?」


 これは少し卑怯な言い方だと花田は思ったら。でも、それぐらいしないと娘は止まってはくれない。


「大丈夫よ。今回だって上手くいったんだし。それにもしもはシフトを上げれば──」

「シフト?」

「……なんでもない」

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