第90話 EXー3 緊急事態②
『あ……おい、お、……とう、……て、あお、い、……葵!』
葵は呼び声に目覚め、すぐに周囲を確認する。今、自分は湖近くの岸部にいる。しかし、ユウとアリスの姿はない。クルエールもだ。呼び出しはロザリーで内線を使っての呼び出しだった。
『ロザリー緊急事態です。クルエールが先程現れました。プレイヤーのお二人の姿が見えません。そちらで何か解りませんか?』
『クルエール!? それ本当なの?』
『はい。ログを確認して下さい』
『わかったわ』
○ ○ ○
案内所奥の部屋。そこはロザリーたちが好きにリフォームして使っていた部屋。今はテーブルと人数分の椅子のみが置かれている。
葵が部屋に入り、開口一番、
「何か発見はありましたか?」
と皆に尋ねる。しかし、
「ごめん。全く何も掴めてない。判ったのはクルエールが急に現れて、二人を連れ去ったことしか」
ロザリーは首を振り、申し訳なく答える。
「どこに行ったのかは?」
「わかんないわ。全てのフィールド、エリアをスキャンしたけど痕跡はなしよ」
「おいおい、どうすんだよ?」
そのセブルスの問いにヤイアが答える。
「ゲーム世界にいないということは……」
「解放か!?」
「いえ、それでしたらクルエールもとっくに解放されているでしょう。つまり独自にフィールドを作ったという可能性はなくはないでしょうか?」
「確かにヤイアの言う通りかもしれません。現に屋敷を繋げたのも彼女の仕業ですし。それなら今回のことも……」
葵はそこで言葉を切って痛切な面持ちをする。
「それでこれからどうします? 皆で消えた二人のプレイヤーを探しますか?」
マルテがどこか諦めのあるように聞いた。
「いいえ、まず私はハイペリオンの下に向かいます。彼女なら知っていると思いますし。ロザリーとマルテは他のプレイヤー様のためにイベントを続行。セブルスとヤイアは全リゾートアイランドに目を向けて下さい。異変が分かり次第私に、……いえ、ロザリーに報告を」
「わかったわ。イベントはなんとしても見事完遂してみせるわ」
「と言ってもビーチバレー決勝戦と3位決定戦とミスコン発表でしょ」
「あのねマルテ、明日のビーチバレー大会はは大型ドームでやるのよ。しかもその後、ドームでミスコンの発表よ」
「もしかしてそれが起因して今回のことが起こったのでは? 突貫イベントには隙が多いですし」
「なんですって!?」
ロザリーがテーブルを叩き、声を張り上げる。
「二人ともこんな時に喧嘩はやめてください」
「ごめんなさい葵。決して私はロザリーと喧嘩するために言った訳ではないのです」
「そういえばマリーはどうなってる?」
セブルスが思い出したように言う。
「彼女はしっかり彼を監視しております。先程も私から話を伺いましたが、そちらでは何も問題はないようです」
「そうか。それじゃあ、うちらは総スキャンしないとな」
セブルスは立ち上がり部屋を出る。
続いてヤイア、マルテ、ロザリーと。
○ ○ ○
「それでは私も行きますか」
葵は息を吐くように呟いてから、席を立とうとしたその時、
「どこにだ?」
「ぬぅわっはー」
突然の声に葵は驚いて、間抜けな声を出した。
声の方へ振り向くと、ハイペリオンがぽつんと立っていた。
「ど、ど、どうしてここに? いつもあの城のスイートルームにいて、滅多じゃない限り外に出ないのに? もしかして、いえ、もう知っているんですよね?」
確認のように葵は聞いた。
神に等しいほどありあらゆること知っているハイペリオンだ。こうなることもまた知っていたはず。
「うむ。知っていた」
「では、プレイヤーはどこに?」
「クルエールが独自に作ったフィールド内だろう。場所も特定している」
「では今すぐにでも」
「まあ、待て」
ハイペリオンは先程もロザリーが座っていた席に着く。テーブルにはいつの間にかクッキーとメロンソーダが。
「どうしてです? 早くしないと逃げられちゃいますよ」
「逃げることはできん。それに逃げるならプレイヤーは必要ないだろ」
「人質ということもあるのでは?」
「盾ではなく人質なら交渉の余地はあるな」
と言いハイペリオンはクッキーを頬張る。
「交渉なんて駄目です」
「ん、それはもちろんだ。交渉する必要はないし、それは向こうも承知のはずだろう。腐っても量子コンピューターだ。私に敵わないことくらい演算で解るだろう」
「それじゃあ、クルエールはどうしてプレイヤーを?」
「プレイヤーに話があるんだろう」
ハイペリオンは楽しそうに笑いながら言った。
「もう! 何なんですか? 計画通りに進んでないですよ!」
もどかしさと苛立ちで葵は頭をがしがしと掻く。
「まあまあ、落ち着きたまえ。少しは様子を見ようではないか。さあ、彼女は一体どんな解を導き出したのかな?」
「もーう! 貴女はどうして楽しんでいるんですか?」
憤慨する葵を尻目にハイペリオンはクッキーを頬張る。
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