第121話 Rー11 異変
早坂がアルクに連れられて地下の管理室に向かうと白洲が床に倒れていた。その白洲は目を剥き、大きく口を開けている。
「何があったのですか?」
部屋にいるシュタイナーに聞く。
「……分かりません。彼が倒れていて……息がなかったと聞いて」
そこへ鮫岡達も雪柳に連れられ管理室にやって来た。
「何があった?」
「きゃっ!?」
神田川は床に倒れている白洲を見て悲鳴を上げ、手で口を塞ぐ。
「し、死んでいるの?」
「……脈はありませんでしたので」
「ちょっとどいてくれたまえ」
鮫岡はシュタイナーをどけ、白洲のそばに屈み、体を調べる。
「たぶん、後ろから首を折られての殺害だな。第一発見者は?」
「ええと、第一発見者は……」
シュタイナーの視線が雪柳に向く。それにより皆の視線が雪柳に集まる。
「……私、です」
雪柳は俯いて、おずおずと答える。
「君は彼はここで何をしていたのか知っているのかい?」
「自分の疑いを晴らすため、監視カメラに怪しい人が映っていないか調べるとかで」
「彼は一人で?」
「はい。私達はそれぞれ別の部屋に」
「それでどうして君はここに来たのかい?」
「昨日、彼が読んでいた資料で少し……」
「その資料は彼に聞かないといけないものかい?」
「ちょっと鮫岡さん、尋問のような聞き方はあんまりですよ」
「すまない」
「いえ、いいんです。これがその資料です」
雪柳は資料を鮫岡に渡す。
やはり中国語で書かれているので内容はさっぱりである。
「抜けていたページがあって、少し気になって」
鮫岡はパラパラとページを捲っていく。
「確かに3ページ足らないね。で、これは何の資料だったのだい?」
「それが……その」
雪柳は目を逸らし、指をもじもじと動かす。
「おかしなことでも構わない。この状況がおかしいのだから。分かる範囲でいいから教えてくれないか?」
「はあ。……ええと、デモの誘導とZ.I.Tの予測です。それと国連への外交操作です」
「それって、やばくない? 中国が日本国民を操ってデモを発生させるってことでしょ? もしかして目黒の?」
早坂が疑問を放つ。
「いや、目黒のデモにはZ.I.Tは動いていない」
「もしかしてこれから行う気だった? ほら、工場のクモとファイヤービーとか」
「その可能性は高いね。これは早く通信機器を直して外と連絡を取らないとね」
「ねえ、それより……」
神田川が口を開く。
「何かね?」
「犯人がいるってことよね?」
その言葉に誰かが唾を飲んだ。
「誰なの?」
それはこの中に堂林と白洲を殺した犯人がいるということ。
「私と上田さん、鮫岡さんは工場にいたから違うわよ!」
「何それ? 私達の誰かが犯人と?」
自分が容疑者として疑われてアルクは機嫌悪く聞く。
「だってそうでしょ?」
「本当にずっと一緒だったの?」
「それは本当じゃよ」
上田が答える。
「同犯ってことは?」
「そんなわけないでしょ!」
「どうだかね〜」
とアルクは疑いの視線を神田川達に送る。
「お互いを疑い合うのはやめましょう」
シュタイナーが間に割って入る。
◯ ◯ ◯
白洲の死体はシュタイナーと早坂が冷凍室に運び、堂林の隣に置いた。
「寒いですか?」
シュタイナーが身震いする早坂に聞く。
しかし、早坂が身震いしたのは寒さが原因ではなかった。
シュタイナーと二人っきりということが原因である。
決してシュタイナーを疑ってるわけではないが、もし神田川達の発言が正しいのなら、容疑者はシュタイナー、アルク、雪柳に絞られる。
勿論、外に犯人がいるという可能性もなくはない。
だが、今のところ最も可能性の高いのは内にいるということ。
三人の内の一人。
「大丈夫ですか?」
シュタイナーがもう一度聞いた。
「ええ。少し寒いですね。早く出ましょう」
二人が地下の冷凍室を出て、一階のキッチンへ入るとアルクがコップに烏龍茶を入れていた。
「そろそろお昼だけど、どうする?」
「もうそんな時間ですか?」
「11時40分だよ」
「? どうして時間が?」
「腕時計見つけたの。ほら」
アルクは左手首を見せる。そこには赤色の腕時計が。
「それ時間合ってるの?」
「他のも全部同じ時間だったから合っているんじゃない?」
「ん? 他にもあったの?」
「うん。二人にもあげるわ」
と、アルクはポケットから腕時計を二本だした。それを二人に差し出す。
「……どうも」
「ありがとう。でも、工場にいる人達に渡した方が良いのでは?」
「大丈夫。他にも沢山あったから」
とアルクはポケットから腕時計を四本取り出した。
「本当に沢山あったんだね」
早坂は腕時計を装着した。少し安っぽくて、子供っぽいがスマホがないため無いよりましだと考えた。
シュタイナーは少し抵抗があるのか、顔が硬い。
そして三人は昼食を作り始めた。
◯ ◯ ◯
アルクは工場にいる三人に昼食が出来たことを告げに向かった。
ドアを開けると中の三人が音を聞いてアルクへと顔を向ける。その視線には昨日にはない猜疑心が含まれている。
「昼食できたよ」
とアルクが言うと三人は作業を中断して立ち上がった。
「それと、これ部屋にあったから」
アルクは腕時計を三人に一つずつ渡す。
鮫岡以外は嫌な顔をして受け取った。
「ないよりましでしょ?」
アルクは渋い顔をする神田川に言う。
「……まあ、そうね」
◯ ◯ ◯
昼食は昨日の夕食と同じ様に会話がなく、もの寂しいものだった。どうやら工場組は早坂達を怪しんでいるらしかった。
それでも聞いておきたいことがあるのか、昼食後にシュタイナーが工場組の三人に聞いた。
「通信はどうなりました?」
その質問に答える前に鮫岡は一度上田と神田川に視線を向けた。その二人は強く頷き返した。それを受けて、
「実のところ通信は朝に回復していて、すでに警察に助けを呼んだんだよ」
「そうなんですか! いつくるんです?」
早坂は喜び、上半身をテーブルに傾けて聞いた。
「時間は不明だがなるはやで来てくれるそうだ」
「なるはやとは?」
知らない日本語が出たのでシュタイナーは聞いた。
「なるべく早くという意味だよ」
「略語ですか」
「それで、ここ日本なんですよね?」
早坂が聞いた。
「ああ。位置情報からここは群馬だったよ」
「群馬ですか」
◯ ◯ ◯
早坂は昼食後、やることもなく空き教室に一人でいると爆発があった。
「わっ! な、なに?」
呆けていたところの爆発音で早坂は反射的に椅子から立ち上がった。
窓を開けて、外を見るが何もない。ということは施設の裏側で起こったということ。
すぐに早坂は反対側の教室へ向かう。
そして反対側の教室の窓を開けると工場から黒煙が立っていた。
その黒煙が早坂のいる教室に入ってきそうなので早坂は窓を閉めた。
「一体何が!?」
早坂は廊下に出た。そして階段で一階まで降り、非常口から施設裏へと向かおうとした。
そこでシュタイナーと雪柳に遭遇した。
「早坂さん! 良かった無事だったんですね」
「あの、工場でなんか煙が立っているんだけど」
「それが大変なんです。鮫岡さん達が!」
「何があったのです?」
「鮫岡さん達が暴れ始めたのです」
「ええ!? 他の方は?」
シュタイナーは暴れたのが鮫岡さん達と言っていた。なら他にも暴れた人もいるということ。
「それより早く! 逃げましょう!」
雪柳が早坂の腕を掴み、廊下を走る。
「えっ、あ!? ちょっと!?」
三人は廊下を走り、そして施設正門から外に出る。
「どこに向かうのですか?」
早坂は走りつつ聞いた。
「ここは危険です。離れましょう」
「でも、どこに向かうんです?」
早坂はもう一度聞いた。
「…………分かりません」
「ええ!?」
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