第125話 Tー7 凪
ストーリーイベントが終わり、1週間が経った。その
その中でレオ達や攻略班は大きなチーム作り奔走中。周りに熱く訴えてかけている。しかし、他のプレイヤーはのんびりとしたもので中々上手くいっていないらしい。
そしてアリスも呑気に平原で大きな岩の上で横になり寛いでいる。
場所は首都カシドニアから南西にある平原。
「こういう時、トンビの一羽くらい飛んでたら風流なんだけどねー」
澄み切った青空。綿のような雲。風も邪魔に感じない程度。環境としては問題はないのだが、ずっといるとなんだかもの寂しくなる。
「暇だな〜」
アリスはごろんと寝返りを打つ。
1週間ずっとこの調子である。
勿論、レベルやランク上げの日課はこなしている。
けれど、これといった日常の変化がないので飽きてくる。意外にもイベントを楽しみにしているのだろうか。それとも──。
「ユウはどうしてるんだろ?」
でも答えてくれる者はいない。
「暇だな〜」
もう一度、寝返りを打ち仰向けに戻る。
「ん!?」
先程はいなかった鳥が一羽、ぐるりと円を描き、飛び回っている。
「なんだろう?」
アリスは上半身を起き上がらせて、ライフル・スピードスターのスコープで相手を見る。自動調整がされているので覗くだけで鳥の姿は判明する。否、それは鳥ではなかった。
ハヤブサ型モンスター、ギルファルコンファッサー。レベル35。
ちょうど自分と同じレベル。しかし、ランクは27である。つまり、今のアリスのステータスはレベル27ということ。ギルファルコンファッサーに挑戦するにはちょいっと厳しい。
「なんでレベルとかランクとかあるのかしら。どっちか一つで良くない」
アリスは独りごちた。
敵はこちらに対して敵意を向けていない。その間に逃げるか。しかし、それが失敗して先手を打たれるも癪である。
「今の私ならいけるかな? 今まで強いのとも戦ってきたんだし、大丈夫よね」
けれどそれは手伝ってくれた仲間達がいたからである。単騎で自身よりレベルが高いモンスターは倒したことがない。それをアリスは失念していて何事も挑戦だと考えた。アリスは立ち上がりギルファルコンファッサーに向けて照準を合わせてトリガーを引く。
乾いた音が静寂な自然の中に鳴り響く。
「よし、命中!」
敵のHPバーの減少を見てアリスは満足気に呟く。そして再度攻撃を開始。次は連射に替えて狙い撃つ。
撃っている自身も申し訳なく感じる程のうるさい音が鳴り響く。
そんな音の中、悲鳴とも威嚇とも聞き取れる野性の声が混じる。発生源であるギルファルコンファッサーがアリスへと嘴を開けて下降する。
敵が近づくとアリスは回避行動をとる。
そして即座に銃口を──、
「わっ! ととっ!」
トリガーを引こうにも下降行動から再度上昇したギルファルコンファッサーが翼を前へ羽ばたかせると無数の羽がアリスへと放たれたのだ。
すぐにもアリスは回避行動をとるも、いくつかの羽が刺さりダメージを食らう。
「やったなー」
アリスはカウンターとして銃弾を相手にぶちかます。
相手はさらに上昇して避け、ある程度の到達点に達するとまた下降を始め、アリスへと体当たりの行動をとる。
アリスはまたそれを回避した後、次はサイドステップでギルファルコンファッサーの羽による攻撃を避ける。
「同じ手が通用するとでも?」
アリスは不敵に笑い、3連弾モードで敵を狙い撃つ。
弾は当たり、ギルファルコンファッサーは悲鳴を上げる。その後、ギルファルコンファッサーは天高く飛翔する。
「ワンパターンよ!」
アリスは天高く飛翔する相手を狙い撃つ──はずだった。
「え!?」
視界が急に反転したのだ。
アリスは起き上がり、状況を確認しようとしたところで悲鳴を上げた。
「きゃあ!」
目の前にサイがいたのだ。正確にはサイ型のモンスター。どうやらそのサイ型のモンスターにアリスは横から突き飛ばされたようだ。
ゲーム世界では痛覚がないので視覚外から吹き飛ばされたことが理解し難い。
サイ型モンスター、名前はクロサイダー。レベル25。クロという名がついているが全身白い。
そのクロサイダーは再度アリスに突撃をかます。
「ぎゃあ!」
吹き飛ばされたアリスはすぐに体勢を整えようとするが、頭を何者かに弾かれた。
「な、何よ!?」
アリスの頭を弾いたのはギルファルコンファッサーだった。突撃がヒットしたのだ。
ギルファルコンファッサーの羽攻撃を避けつつ、クロサイダーからの突撃も回避。
どれから倒すべきか? アリスは回避しつつ悩んだ。
レベルが高いのはギルファルコンファッサー。しかし、回避し難いのは体格が大きく、当たれば吹き飛ばされるクロサイダー。
やはりここはレベルが低く、邪魔なクロサイダーから。
狙いをクロサイダーに絞るが、ギルファルコンファッサーの攻撃も避けなくてはいけないので、なかなか反撃ができない。
「くっ!」
苦戦していると、
「ロックを外すっすよ」
と声が。
ロックとは対戦者以外助太刀、横槍禁止の仕様である。モンスター名の隣にある赤い×がロックの印。アリスはすぐに意識をそれに集中させ、両モンスターのロックを外した。
ロックが外れるや別方向から二発の銃声音が鳴る。
そして、それぞれが両モンスターにヒットし、一発でモンスターはHPがゼロになり消える。
アリスは肩の力を抜き、助太刀してくれたプレイヤーへと振り向く。
「ケイティー!! 助かったわ。ありがとう」
援護してくれたのはケイティーだった。
ケイティーはパーティー内では明るく気さくで外野のアリスとも仲良く接してくれている。ただ、最近は様子がおかしく、どこか陰鬱で危な気な雰囲気を醸し出している。
「どういたしまして。……にしてもアリスさんはこんなところで一体何を?」
「暇だからゴロゴロしてたのよ」
「駄目ですよ。それじゃあ穀潰しじゃないですか」
「ごくつぶし?」
「役立たずのただ飯食いですよ」
「ひっどーい。私だって活躍しているんだから」
アリスは頬を膨らませた。
「まあ、確かに先日のラスボスでは貢献してましたね」
「それ以外でも貢献してるよー。……つて、そういえばケイティーはこんなところで何を? どでかいチーム作るんでしょ?」
レオ達はこのデスゲームから脱出するためプレイヤーが一丸となる様に大規模なチームを作ろうと奮闘している。だが、いかんせんことに周りとの温度差が違うため中々進めていないらしい。
「いやあ、ちょいと外されましてね。……で、まあ、ぶらぶらしていましたらアリスさんを見つけましてね」
とケイティーはへへへと笑う。その笑みはいつもとは違う危な気な色を含んでいた。
「そ、そうなんだ。じゃ……」
じゃあ、これでとアリスは去ろうとするも、
「訓練付き合いますよ」
と言われた。別に訓練をしていたわけでもないし、付き合って欲しいと思わない。けれど助けて貰っておきながら無下な態度は失礼と感じた。
「あー、いや、別に訓練でもなく、ただ、ぶらぶらーとしたたげなので。それにほらランクもね」
と言ってアリスは乾いた笑み貼り付けた。
「駄目っすよ。訓練しないと次のイベントで脱落しちゃいますよ。こっちは縛りプレイと思ってレベル下げますよ」
ここで言うレベル下げとは本当にレベルを下げるのではなく、低レア装備や低ランクジョブで対応するということ。
「あーうん。そだねー。…………うん。じゃあ一緒に訓練しょっか」
アリスは諦めて一緒に訓練することにした。
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