第126話 Tー8 中級者の条件
ケイティーは低レア装備、ランク1ジョブという初心者スタイルの縛りプレイでアリスの訓練に付き合う。
「連射でバンバン撃っちゃってください。近づくやつは私がやっちゃいますので」
「わ、分かった」
アリスは天井に逆さで立っている十数匹のコウモリ型モンスターに銃弾の嵐を見舞いしていく。
「来たわよ」
雑魚モンスターなのでアリスのレベルでも難なく撃ち落とすことができるが、やはりアリスの実力では数匹は撃ち漏らしてしまう。
「はいはーい」
ケイティーは舌舐めずりしてアリスが撃ち漏らした数匹のコウモリ型モンスターを撃ち落とす。その獲物を狙う目は黒い負のエネルギーを備えていた。
◯ ◯ ◯
「それ本当に縛りなの? 普通に強いんだけど」
コウモリ型モンスターを駆逐し終わってアリスは努めて明るくケイティーに言葉をかけた。
「アハハ。そりゃあステータスは全く変わってませんからね」
ケイティーの顔からは嗜虐性の色が消え、アリスは安堵した。
今二人は先程いた南西の平原から更に南西へと突き進んだ先にある洞窟を探検していた。ゲーム世界において完全な暗闇は存在しないため洞窟内は薄暗い程度でライト一つで余裕であった。
「それよりずっとそれ使ってますよね」
「ん? これのこと?」
アリスは手にしているスピードスターに目を向ける。
ケイティーは頷き、
「そろそろ装備を変えた方がいいのではないですか?」
「そうかな?」
「それってパーティー共有の初心者用武器ですよね」
「うん。今は誰も使わないだろうって兄貴が貸してくれたの」
ケイティーは肩を落として息を吐く。
「ならなおのこと買わないといけませんね。あと、もうそろそろジョブレベルもMAXなのでは?」
そう言われてアリスはジョブレベルを確認すると確かにクラス2ジョブ・オールマイティーのジョブレベルはMAXの20であった。
「本当だ。新しいジョブにしないとね」
「でしたら装備はまずはジョブチェンしてからですね」
「今がランク2だから次はランク3のジョブになるの? それとも他のランク2のジョブを習得しないと駄目なの?」
「そうですよ。ランク3になるにはランク2のジョブを2つ以上レベルMAXにしないといけません」
「そっかそっか。それだと中級者への道はまだ遠いな」
「今ラン……レベルはおいくつで?」
ランクでなくレベルを聞いたことでアリスはムッとして、
「35。ランクは27よ」
「ほ〜35。すごいじゃないですか」
「お世辞はいいわよ」
「いやいや、素直にすごいですよ。私だってこのゲームやり始めて二、三ヶ月でレベル、ランクともに30くらいでしたよ」
「でもログアウトはしてたんでしょ?」
「それはもちろん」
「私はログアウトできず、ずっとプレイし続けてよ。だから、レベル35なんて大したことないでしょ?」
普通は現実世界の生活があるため、どんな人間でもログアウトをする。
だが、今は違う。ロザリーによってゲーム世界に閉じ込められた。ゆえにアリスは約二ヶ月間ずっとログアウトせずにプレイをし続けている……というかさせられている。
さらにデスゲームゆえにレベル上げは最優先事項。だから、普通の初心者プレイヤーのレベル上げとは違う。
「まあ、今の状況があれですけど、それでもすごいですよ」
「……」
「本当ですって。このゲーム、アヴァロンのチート問題の煽りでレベル30からレベルが上がらなくなったんですよ」
「アヴァロン?」
アリスは目をパチクリして聞いた。
「知りませんか? 一年前くらいに社会問題になったアレ」
「えーと、……色々あったやつ……かな? いじめ問題とかあったっていう」
アリスの言う問題は一年程前に世間で話題になった事件である。
VRMMO関連のゲームは若者の外出不足問題に拍車をかけて、注目されていた。そんな時にVRMMORPG『アヴァロン』内でいじめ問題が話題になったのだ。
その際にチート行為も取り沙汰された。
「そうですよ。その影響でタイタンではレベル30からはレベルが上がり
「上がり難い?」
「全然レベルが上がらないんですよ。さらにランクはレベルよりかなり上がり難くいんですよ」
「へー。それじゃあレベル30は中級者クラス?」
「う〜ん、ジョブレベル3のどれか一つのジョブをMAXにしないと中級者としてカウントされませんね。ちなみに中級者からはレベルやランクよりもジョブランク優先した方が良いですよ」
「なるほど〜。アヴァロンではどうなの?」
アリスはなんとなく聞いてみたのだが、ケイティーはほんの一瞬笑みを止める。
「アヴァロンも現在はそのような仕様ですよ」
一瞬の間は何だったのか。気にはなったがアリスはそれについては聞かないようにした。
「そうなんだ」
「お! 敵ですよ」
前方、十字路にヤドカリ型モンスターがいる。
「なんで洞窟にヤドカリなのよ!」
「まあまあ、フィクションですので細かいことはいいではないですか。相手はこっち気付いてませんね」
「やっちゃおう」
アリスはヤドカリ型モンスターに銃口を向ける。
「待ってください。相手がこちらに顔を向けてから撃って下さい」
「え? なんで? 背中から撃つのがセオリーでしょ?」
「普通なら。ですが、相手は殻をお持ちですので後ろからではダメージは低いですよ」
確かにあの殻は硬そうで銃弾を貫通できそうにもないようだ。頭が剥き出しになっている前面から攻撃した方が良いのだろう。
「なるほど。オッケー、分かったわ」
アリス達はヤドカリ型モンスターが振り向いたところで戦闘を開始した。
◯ ◯ ◯
「ほんと何アレ!」
ヤドカリ型モンスターを倒し終えてアリスは苛立ちの声を出した。
「硬すぎ! 全然ダメージ与えられないじゃないの」
「いやはや、相性が悪かったですね」
どこか面白そうにケイティーは笑う。
「相性? アレに合う相性って何?」
「ボマー系ですよ」
「ボマー?」
「武器が爆弾を使うタイプですよ。ジョブにもボマーってありますよ」
「爆弾であの殻を吹っ飛ばすの? できる?」
爆弾は確かに威力は高いが主に範囲系で、やはり威力と貫通力があるのは銃弾ではないだろうか。
「いえいえ、地雷ですよ。ヤドカリ型には地雷を踏ませて下の穴からドッカーンです。もちろん通常の爆弾でも倒すこともできますよ」
「ちなみケイティーは地雷持ってる?」
「ええ」
即答。
「じゃあ初めから地雷使ってよ!」
「あははは。…………駄目ですよ楽するのは。相手を倒すときはヤられてるというのを実感させて絶望というのを味あわせないと失礼じゃないですか」
ケイティーはS気のある嗜虐的な笑みを作る。それにアリスは引きつつ、
「ケイティー、目が怖いんですけど」
「ああ、すみません、つい」
と、いつものケイティーに戻った。やはりどこかおかしい。妙に変なスイッチが入る様になった。
「ここ最近、何かあった?」
「なんです?」
「えっと、そのう、……ストレスとか溜まってない?」
「まあ、ゲームに閉じ込められたらストレスは溜まりますけど」
ケイティーは小首を傾げる。
「それ以外で嫌な目にあった? 制圧戦イベントの後ぐらいからかな?」
「……制圧戦」
そう発するとケイティーの顔が一時止まった。
そして陰りのある顔に変化し始める。
憤怒と凶暴、そして怨嗟の感情を顔に表している。
やはり、制圧戦で何かあったのだろう。
アリスは話題を変える。
「い、今、思ったんだけどアヴァロン側の方が優位じゃない? ほ、ほら、リリースは向こうの方が早いんだしさ。なかにはチート行為でレベルを跳ね上げた奴とかもいるんじゃない?」
「それは大丈夫ですよ。チート野郎は垢バン。当時のプレイヤーもしばらくはレベルに上限が付けられたらしいですからね。それで数多くのまともなトッププレイヤー達が数多く引退したらしいですよ。ですので向こうのハイランカーは私達より少し数が多いくらいですかね」
「それでもこっちが不利なんじゃない?」
「どうでしょう。囚われたプレイヤーにどれだけハイランカーがいるか分かりませんし。それに向こうは戦闘プレイヤーよりものんびり屋が多いですから」
と言ってケイティーは肩を竦める。
のんびり屋というのは強くなろうとするプレイヤーではなく、ファンタジー世界を自由気ままにプレイする者を指す。
基本的に戦闘メインのタイタンとは違い、アヴァロンではつらい現実世界から抜け出して、のんびりと暮らすプレイヤーが多いのだ。
かく言うアリスもまた、アヴァロンで自由気ままにのんびり過ごしたいと考えていた。
それがVRMMOを体験及び練習をするため始めたタイタンで憧れのアヴァロン側のプレイヤーとデスゲームをする羽目になるとは。
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