第82話 Aー7 一方その頃②
清流に面した砂場でアルクたちはバーベーキューをしていた。肉、野菜を焼き、釣ったばかりの新鮮な魚を捌いては焼いて食していた。そんな中でロザリーからの音声メッセージが着て、皆は一時食事を中断して、端末を取り出し音声メッセージを聞いていた。
最初にセシリアがロザリーのメッセージを聞き終えて一番に口を開いた。
「水着コンテストは私が出るわ!」
胸に手を当て、意気揚々。それを聞いた二人はどこからそんな自信が湧いて出るのか不思議であった。
「……まあ、参加は自由ですし」
ミリィが苦笑いして答えた。
「何よ私だったら不満ってこと?」
「うん」
即答したのはアルク。
「じゃあ誰が出るのよ?」
頬を膨らませてミリィは聞く。
「強制ではないのでし、不参加でよろしいのでは?」
「ミリィそれでいいの? 女として出てみたいと思わないの?」
「……私は別に」
「アルクは?」
セシリアはミリィからアルクへと顔を向ける。
「そういうのはあんまり。それに私だとさ……」
アルクは自信をなさ気に答えた。
「そんなことないよ」
「そうです! アルクならいけますよ!」
ミリィも強く肯定する。
「……なんか私の時と反応違くない?」
セシリアはちょっとミリィの反応に不服そうに言う。
「でも私はビーチバレーに出るよ」
「でしたら私がパートナーとして」
ミリィが一歩前に出て立候補する。
「それじゃあ私は?」
「水着コンテストに出る? 参加は自由だし。結果とかは気にせずにさ。記念と思って」
「ええ。それに写真だけですし、内面はでないので問題はないかと思います」
「……ねえ、二人とも結構ひどくない?」
セシリアは苛立ちをもって唇を尖らせる。
○ ○ ○
アルクたち三人は案内所にあるポイント交換のカウンターにいた。カウンターの上には水着一覧表が。
「さあ、どの水着にする?」
セシリアは水着一覧表を見て二人に尋ねる。
「あの、本当に私たちも参加なんですか?」
ミリィがおずおずと聞く。
「当たり前じゃないの。参加は自由なんだし、写真だけで済むんだし」
と、セシリアはにっこりと言う。ただ、目が笑ってない。
「さっきの怒ってるのか?」
アルクが溜め息を吐く。
「別にー。ただ皆で参加した方が楽しいじゃない」
一人だけ恥をかきたくないというのは飲み込んでおく。
アルクはミリィと顔を合わせ、お互い肩を竦める。
「分かった。でも水着はもう持ってるから……」
「駄目!」
セシリアが声を上げ、腕でバッテンを作る。
「既存のでなく新しいので勝負よ!」
「ここで売ってるやつって他でも売ってるんでしょ。被ったらどうするのさ」
というアルクの問いにセシリアは不適な笑みを浮かべた。
「……フッ、大丈夫よ」
アルクとミリィは首を傾げた。
「見なさいこれを」
セシリアは一覧表を二人の前にかざした。
昨日までとは違う水着のラインナップだった。昨日までは6着程度だったはず。それが今は30着。
「しかもオーダーメイドも可能よ」
「オーダーメイド?」
「こっちでデザインを書けば作ってくれるのよ」
「本当だ……って! セシ! 消費ポイント3万じゃないかよ!?」
「普通の水着でも高くて8千ですよ。それの……3.75倍!」
ミリィがすぐに計算して答える。
「それとオーダーメイドは作るのに少し時間が掛かるらしいですよ」
「どれくらい掛かるの?」
セシリアはNPCの受付嬢に聞いた。
「色や柄程度でしたら一時間以内ですけれど。レースやアクセ、水着の形などが含まれる場合は三時間ほど必要とします」
「そっか。じゃあ早めに決めないとね」
○ ○ ○
三人の水着が決まった時はもう夜の19時だった。ビーチにはまだNPCがいた。
「長かった」
「本当ですね」
アルクとミリィは遠い目をして夜空と海が溶け合って判別困難になった水平線を見て呟いた。
「オーダーメイド注文しておいて良かったね」
そのセシリアの言葉に二人は恨めしげな目を向ける。
「……作ってたなら一覧表の水着を物色する必要なかっただろ?」
「いやあ、もし良いやつあったらそっちを選ぼうって思ってたから」
アハハハと笑いつつも二人から視線を逸らすセシリア。
散々悩んだあげくセシリアは結局オーダーメイドの水着を購入したのだ。アルクはミリィの勧めで一覧表からシンプルな黒のモノキニを。ミリィは白のビキニを購入。
そして今、受付で水着コンテストの参加を三人は申し込み、アルクとミリィはバレーボール大会に申し込んだ。水着コンテストには写真撮影をしないといけないので三人はNPCに撮影準備に待たされていた。
「どこで撮影するんだろうね?」
セシリアがあちこち見ながら疑問を上げる。
「撮影所にでも行くのかな?」
「あ、お夕飯どうなさいます?」
とその時、お立ち台の照明が強く放たれた。そして受付NPCが、
「準備が出来ましたので名前を呼び次第、お立ち台に上がって下さい」
「お立ち台ってこのためにあったの?」
「ではアルクさんどうぞ」
名前を呼ばれアルクはお立ち台に上がる。いつから居たのかNPCのカメラマンやレフ版を持つスタッフが前方にいた。
「ではポーズをどうぞ」
「ぽ、ぽ、ポーズ!?」
ポーズと言われアルクは右手を後頭部に左足を前にして少し体をひねる。
「もっとセクシーに!」
「表情が固いですよ」
と外野のセシリアとミリィからヤジを受ける。さらに、
「もっと色んなポーズをどうぞ」
とNPCのカメラマンからも言われた。
「ううっ」
アルクにとって水着撮影なんて初めてのことであったから、どうしてもギクシャクしてしまう。
いくつものポーズをして、その度に何度もシャッターを切られ、どうにか撮影は終了した。お立ち台から降りたときは高難易度のモンスターを狩った時と似たような疲労を感じた。しかしそれはモンスターを狩った時の高揚感、達成感ではなく、恥ずかしさと後悔であった。
「次の人どうぞ」
次の準備ができたらしい。
「それじゃあ、次は私が」
セシリアが段を上がりお立ち台に立つ。
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