第81話 Aー6 告知

 リゾートイベントも今日で6日が経ち、スピカは日課の上級クエストを一人で全て終わらせてコテージに戻っていた。


 今、コテージには誰もいないので一人で紅茶を淹れて、ダイニングテーブルで一息をついていた。そこにメンバーのスゥイーリアが戻ってきた。


「あらスピカ。お疲れ様」

「別にたいした難易度ではないし」


 スピカは高ランカーなので上級イベントは単独で攻略できる実力者。


「というか。なぜ水着?」


 スピカはスゥイーリアの姿を見て聞いた。

 そのスゥイーリアは上下白の水着に唾の広い帽子。水着はこれといった装飾はないが高身長で腰まであるウェーブのかかった金髪、出るとこは出て引っ込むとこ引っ込んでいるスタイルゆえ問題はない。


「先程までビーチで遊んでいましたの」


 スゥイーリアは帽子を外し、椅子に座る。


「なら、着替えるべきでは?」

「またビーチに行くから」

「だからって……」


 やれやれとスピカは首を振った。


「他の皆さんは?」

「クラーラたちは山で虫取合戦や魚釣りに興じています。メイプルたちはビーチです」

「皆、遊んでばっかですね」

「いいではないですか。報酬は全部初日に手に入れたのですから」


 そう。スゥイーリアたちはこの島に訪れた日に上級クエストを制限時間いっぱいまで挑戦してポイントを大量獲得した。その日の分だけでストーリーイベント用の特攻アイテムを手に入れ、さらには余ったポイントで食材も獲得した。二日目は上級食材クエストに挑戦して、当面の間の食材を手に入れた。スゥイーリアたちはたった二日目でもうやるべきことは終わらせていたので三日目の運営からの突然告知されたリゾートイベントは喜ばしいものであった。スピカも最初は興じてはいたが、さすが飽きていた。難易度も高くはなくリゾートイベントというより、ちょっとしたミニゲームだった。


「よく飽きませんね」


 スゥイーリアは肩を上げ、

「ほら、私たちずっと戦ってたじゃない。たまにはこういうのもいいじゃない」

 と、にっこり微笑んだ。


「スピカもこのあと、ビーチで一緒に遊びません?」


 その誘いにスピカは断ろうとしたが、

「……わかったわ」

「本当!」


 スゥイーリアは花が咲いたような満面の笑みになった。


 ――ホント、不器用な人ね。


 メッセージではなく、直接誘いにくるのだからどうしても来てほしかったのだとわかる。


 スピカは心の中で息を吐いた。

 スゥイーリアは交渉や勧誘が苦手なタイプだ。いつも直線的である。今だってコテージに戻ってからコーヒーを淹れるのでもなく椅子に座り、スピカに対面している。そして話術もなしにビーチに誘ったのだ。その気になれば団長特権と言えばいいのに。しかし、スゥイーリアはそういうのを気嫌う。そこが彼女の人としての良きところなのだが、やはり団長としては駄目なところでもある。


 それゆえギルド・ホワイトローズではヴァイスやセロたちが交渉、勧誘役を担当している。


  ○ ○ ○


「相変わらず暑いですね」


 燦々さんさんと輝く太陽の光を右手で庇を作って遮り、スピカは言った。


 スゥイーリアに誘われ、スピカは水着に着替えて今ビーチにいる。水着は黒のワンピースで胸元には小さな白のリボン、そして脇から腰へと白のラインがはいっている。長い後ろ髪は後頭部辺りで結っている。


「さあさあ、何します? バナナボートですか? それともビーチバレーにしますか?」


 スゥイーリアはうずうずしながら言う。それはもう早く遊びたいという感じだ。


「メイプルたちは?」


 彼女たちの姿はビーチバレーエリアにもビーチフラッグエリアにもいない。

 海の方かとそちらへと目を向けると彼女たちはビーチボールで遊んでいた。


「おーい」


 スゥイーリアは手を大きく振って、メイプルたちに声を上げる。向こうも返事として同じ様に手を振って応える。


「スゥイーリア! 声!」


 スピカははしたなく大声を上げるスゥイーリアを嗜める。


「大丈夫ですよ。ここにいるのはNPCなんですから」


 と言ってスゥイーリアはウインクする。


「あなた無人島にいったらビーチで素っ裸になるタイプでしょ」

「そ、そんなことありませんよ! リアルの島なんて虫がいっぱいなんですよ。裸になったら大変ですよ。それに海に沿っている=ビーチというのも偏見です。知ってます? ワイキキビーチはコンクリの土台にカリフォルニアの砂を撒いただけなんです」

「そんな夢を壊すこと言わないでよ!」

「ちなみにビーチというものはブダイやらの魚類の糞でできているそうですよ」

「だからやめてよ!」


 スピカは耳を塞いでいやいやと頭を振る。


「どうしたのですか? 二人とも?」


 落ち込みながらやって来たスピカにメイプルは不思議そうな顔をして尋ねる。


「スゥイーリアがビーチはブダイの糞でできているっていうのよ」


 肩を落としてスピカが答える。


「ええ、そうらしいですわね。確かの沖縄のでしたっけ? 宝の砂も微生物の死がいって知ったときはショックでしたわ」

「……ホント、夢が壊れからやめてよ」

「あら、ごめんなさい」


 そしてスピカたちも輪に入り、ビーチボールで遊ぶことに。


「では、いきますよ。吉祥寺駅!」


 メイプルが駅名を言ってビーチボールをトスで上に飛ばす。


 スピカは「え? 最後の何?」、と驚く。

 団員のリルが受け、

「品川駅!」


 と言いビーチボールを上へ跳ね返す。

 ボールはスピカの頭上にやってくる。

 とりあへず駅名を言って返すのだと判断して、


枚方ひらかた市駅!」


 と言って頭上のボールを両手で跳ね返す。

 しかし、


『アウトー!』


 皆からアウト宣言をされたスピカ。

 ボールはメイプルがキャッチ。

 スピカはどうしてという顔をする。スピカの疑問に気付いてスゥイーリアは、


「東京よ。東京の駅名を言うのよ」

「そう。……あれ? 言ってなかった?」

 リルが確かめる。


「聞いてません」


 スピカが目を半眼にする。


「ごめん。ごめん。じゃあ、今のはノーカンでもう一回行こっか」


 メイプルが「では」と言いボールを空へ上げようとした時、軽快な電子音がプレイヤー全員の頭の中で鳴った。不意なメッセージ音でボールは変な方向に飛んだ。


 皆はそれぞれ端末を取り出して音声付きメッセージを開封する。音声は使用者の耳にしか届かない仕様となっている。


『はい、はーい。みなさーん、バカンスはどうですか? 楽しめてますかー? あれー? 返事かないぞーって当たり前か。6日間どうだったかな? いい気分転換になったかな? このリゾートイベントもいよいよ明後日のお昼でおしまい。明日はリゾートイベントでおっきなイベントを二つするよ。

 まずは水着コンテスト! アヴァロン、タイタン合同水着コンテスト。エントリーは今日の夕方18時から明日12時59分まで。女性限定だからね。ビーチ受付でエントリーして、写真を撮るだけ。プレイヤーの皆様は15時から17時59分までに投票して下さい。お一人様5名まで票を入れることが可能です。一人お気に入りを決めていただき、そのお気に入りには5票を投じることができます。それ以外の4名には1票ずつとなっております。結果は18時に発表。優勝賞品はトロフィーとゲーム内で使える各種アイテム。副賞として100万ポイント。それと二位から十位までにも賞品がありますので。

 そして二つ目のイベントはビーチバレー大会。トーナメント制で、ペアであれば男同士だろうがミックスであっても構いません。こちらもアヴァロン、タイタン合同だからねー。エントリーは今日の夕方18時から明日の朝9時までありますので。こっちはエントリー期間が短いので気を付けて下さい。優勝賞品はゲーム内で使える特殊優待券。副賞にポイント300万です。参加費用もペナルティもありませんので皆様、こぞって参加して下さいませ。

 では、皆様明日をお楽しみに』


「水着コンテストだってさ」


 音声メッセージを聞き終えたリルが端末を虚空に消して言った。


「誰が出ますか?」

 メイプルが誰ともなしに聞く。


「スゥイーリアでしょ!」

「なんでですか!?」

「そりゃあ団長じゃん!」


 リルは親指を立て、にっと笑う。


「いえいえ、私なんて」


 スゥイーリアは慌てて手を振って否定する。


「私もスゥイーリアがいいかと」

「スピカまで!?」

「え、だってその容姿で出ないのはおかしいでしょ」


 知名度もあり顔も良く高伸長でスタイルも良い。これ以上のない適任。


「あら、山で遊んでいるアルトからメッセージですわ」


 メイプルがメッセージに気付いて言う。

 皆は再度端末を取り出してメッセージを確認。


『女子は皆、水着コンテストでなよ。参加は自由なんだし(笑)。写真だけなんでしょ(笑)。男はバレーボール大会にでるよ』

「とりあへず(笑)がむかつくのでアルトは絞めておきましょう」


 メイプルが澄んだ声で言う。それに皆は無言で頷いた。



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