第104話 EXー1 閑話休題

 暇だった。


 今、ロザリーがやるべき仕事は何もなかった。


 あまりにも暇でロザリーは城内のテラスでテーブルにだらしなく寝そべっていた。


「ひーまーだー、ひーまーだーよー」


 と叫びつつロザリーは手を伸ばし皿のクッキーを掴む。クッキーは動物型で今ロザリーが取ったのはペンギン型だった。それをぼんやり眺めてからロザリーは頬張る。


 噛み砕き、舌に載せるとミルクの甘い味がする。


 不思議なものだ。

 味覚センサーはあれど今までことはなかった。それが今やハイペリオンのおかげで五感のクオリアが与えられ、AIでも味覚をことができた。


 もう1つクッキーを摘み、頬張る。


「なんです? その食べ方は?」


 声の方を伺うと葵が側に立っていた。ロザリーの醜態に呆れたように眉を曲げている。


「あれー? 葵、どうしたのー?」

「いえ、暇だったのでここに」

「ふうん。あいつは大人しくしているの?」

「していますよ」


 あいつとはクルエールのことである。敵の量子コンピュータでスーパーAIである。なんとかこの世界に閉じ込めたと思えば勝手に動き回り、なんとプレイヤーと交渉までしたのだ。その時は保留ということで交渉は結ばれなかったが、いつ結ばれるか分からない。


 葵はロザリーの対面に座る。


現実そとは?」

「順調です」


 と言って葵は電脳世界を操作してテーブルにカップを生み出した。カップの中にはミルクティーが。


 ロザリーは庭園を眺める。

 当然のことながら作られた庭園には不穏な空気は何もなかった。空は快晴で、気温も丁度良い。


「こういうのを凪って言うのかな」


 ロザリーはわざとらしくセンチメンタル風に呟く。


「ここを見て凪というのはどうかと。でもこの時期は何もありませんね。プレイヤーもまだストーリーイベントに苦戦しているらしいですし」

「現実では水面下で色々動いているのにね」


 その発言に葵は半眼で、

「……凪と言っておいてそれを言いますか?」

「ごめんごめん。それよりマルテがいないのが怪しいよね」

「仕事をしているのでは?」

「だからよ。まーた変なモンスター作ってたりして」


 マルテの仕事はモンスター作成だ。

 この前、報告にないモンスターを作り、かつそれらをプレイヤーのいるエリアに放ったのだ。


「あら? 変なモンスターとは失礼ですわね」

「げ!? いたの? 仕事は?」

「変なモンスターを作っていいのでしたら仕事をしますわよ。うふふふ」


 マルテは口元は笑っているが目は笑っていない。


「だって本当のことじゃない。こっちに何の連絡もなしにさ」


 ロザリーは視線を逸らし文句を言う。


「連絡はしていますわ。ただ急なことで」


 と言いながらマルテは椅子に座る。


「急って……あんたね」

「まあまあ、二人とも。今日は定例会ではありませんよ」

「定例会と言えばマリーはどうなの? ずっと見かけてないわ。まあ、連絡は受けてるけどさ」

「私の方にもぬかりなくと連絡がきているのでをきちんと監視しているのでしょう」

「ふうん。へましてなければいいのだけれど」


 ロザリーは片肘をついてクッキーを一つ頬張る。

 マルテは葵と同じ様にカップを取り出す。ただ中身は紅茶ではなくコーヒーである。


「ヤイアとセブルスは頑張ってるのかしら?」


 コーヒーを一口飲んだ後、マルテが聞く。

 それにロザリーが含み笑いをする。


「頑張ってるわよ。特にヤイアは」

「それはどういう意味で」

「ヤイアはお姫様役でダンジョンに囚われているらしいわよ」

「そうなのですか?」


 アヴァロンプレイヤーのいる世界でヤイアはお姫様役をセブルスはタイタンプレイヤーのいる世界で都知事役をやっていると聞いている。


「プレイヤーを閉じ込めた本人がプレイヤーに助けられるんだからとんだ皮肉よね」

「といってもストーリーですからヤイアも好きでそういう役割をしているのではないでしょう?」


 そう言ってマルテはコーヒー飲む。


「どうだか。あいつ結構メルヘンチックだからねー」

「もう。そんなこと言っては駄目ですよロザリー」

「はいはい」


 葵の注意をぞんざいに流すロザリー。


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