第105話 Aー4 入口

「何罰当たりなことをやってるの?」

「墓じゃないんだから問題ないわよ。ていうかユウも手伝いなさいよ」


 セシリアは2メートル長のモニュメントを横から押しながら言った。


 城の扉は鍵が掛かっているのでユウ達は鍵及び別の出入り口を探していた。

 そこでセシリアが見つけたのが台座と女神像のモニュメントであった。


「ゲームだと大抵こういうのは動かせば地下への入口か鍵が解除されるのがお約束なのよ! ふぐ、ぐぐぐ」


 セシリアは唸り声を上げながらモニュメントを今度は左横から押す。


 ユウはアルクに視線を向けると、


「まあRPGでは定番だけどね」


 と言うのでユウはセシリアを手伝いモニュメントを押す。アルクも続いて手伝う。


『ふぐぐぐ』


 しかし、モニュメントはびっくともしない。


「次は後ろからよ!」


 セシリアがモニュメントの後ろへと回る。セシリアは両手に息を吐き、モニュメントの後ろを睨む。


 モニュメントの後ろに手をつき押そうとしたところで城周辺を散策していたミリィが戻ってきた。


「皆さん、地下水路を見つけました。……って何をしておいでですか?」

「ん? 隠し通路でもないかなって。ミリィ今、地下水路って言った?」

「はい。地下水路を見つけました。柵が取り外しが可能で、そこからなら城の中へと入れるかと」


 セシリアはモニュメントから手を離して、少し間をとったのちにユウとアレク向け空笑いをする。そしてモニュメントに、


「もーまぎらわしいのよ!」


 とモニュメントに八つ当たりの足蹴りをする。


「よし! そこから行こう!」


絶対今のでカルマ値貯まったなとユウ達は心の中で呟いた。


   ◯ ◯ ◯


 地下水路はもう水は流れてなくて暗闇へと続くトンネルのようであった。


 アルクは松明を取り出し、火をつけて先頭を歩く。


「なんか不気味ね」


 セシリアが首を縮めて言った。


 暗闇といってもゲーム内では完全暗闇はなく、せいぜい薄暗い中でプレイヤー以外は色に陰りがあり、物の輪郭がぼやけて、道の奥が暗くて分からないくらいである。さらに奥へと進めば暗さは薄まる。決してプレイヤーの周囲は暗くはならない使用である。


 それに松明のおかげで周囲も明るく、暗いのは排水路の奥と入ってきた道くらいである。


 それでも不気味さは拭い得ないようで、


「早く着かないかな?」


 セシリアはおどおどしながら言う。


「これで何もなかったら許さないわよ」

「その時はごめんなさい」


 セシリアの前を歩くミリィが謝る。


「別にミリィに言ってるわけではないから。私は運営側に言ってるの。思わせなものを作っておきながら何もないなんて! ねえユウ?」

「え、ああ、そうだね」

「その心配はなさそうだ」


 先頭のアルクが松明を別方向に傾けて言った。


「階段だ!」


 壁右側一部が階段になっていた。


「どうする? 道はまだ続いているけど?」


「上がりましょう!」


 アルクの問いにセシリアは即答する。


「大丈夫よ」

「何を根拠に……でも、とりあへず上がってみようか」


  ◯ ◯ ◯


 階段を上がった先に扉があり、押し開いて進むと全面がクリスタルの物置部屋だった。


 箒やちりとり、モップ、雑巾、バケツが乱雑に置かれていた。


「物置部屋ってだけで何もないわね」


 セシリアがつまらなさそうに言う。


「でもこんなところに物置部屋なんか作るでしょうか?」


 ミリィが部屋の壁をさすりながら言う。


「確かに。だとしたらどっかに隠し通路とかあるかも」


 ユウ達は部屋の隅々を調べる。ユウは槍で地面や天井をっつき、セシリアは杖で壁を叩く。アルクとミリィは掃除道具に何かないかなと調べる。


 物置部屋はさほど広くもないので4人だとすぐに調べは終わった。


「……ないな」


 アルクは溜息交じりに言う。


「残念。戻るか」

「だね」

「でも一体この部屋なんだったのさ?」


 セシリアが両の手の平を上に向けて尋ねる。


「位置的にこんなところに物置部屋はおかしいんでしょ? てか掃除道具しか置いてないしさ」


 と言いセシリアは杖先でバケツを突っつく。

 するとバケツが倒れてコロコロと転がり壁にぶつかる。


「セシ、何してんだよ」

「メンゴ、メンゴ」


 セシリアが壁まで転がったバケツを取りに行く。


「待って下さい!」


 ミリィが声を上げた。急に声を上げられたのでユウ達は驚いた。


「どうしたの?」

「それです!」

「ん? これ?」


 ミリィはバケツを指差している。


「バケツがどうかしたの?」

「もう一度バケツを先程と同じ様に傾けて下さい」

「……いいけど」


 セシリアはバケツを横にする。

 すると先程と同じ様にコロコロと壁まで転がっていく。


『ああ! そっか!』


 ユウとアルクは気付いた様で同時に声を出した。気付いていないのはセシリアだけであった。


「え? 何? どういうこと?」

「床です! 床が傾いているのです」

「へーそうなんだ」

「そうなんだじゃないよ。普通は床が傾いたりしないから」


 ユウが突っ込む。


「え、そうなの? それじゃあ何かあるってこと?」


 ミリィは床に目を向けつつ、


「傾きはそんなにあるわけではなさそうですから……。皆さん、ちょっと向こうの壁際まで移動して下さい」


 ユウ達は言われた通りにバケツが転がった方に移動する。


 ミリィは反対側の壁へと向かい、杖の先端で床を叩き始める。

 そしえ端から端へと叩く。

 コツコツとした音が部屋に響く。


「ん〜?」


 しかし、何も発見はなく、ミリィは何度も叩きながら考えこんでいる。


「何もないのかな?」


 セシリアが声を小さくしてユウとアルクに聞く。


「でも傾いているんだし……」

「少し待ってみよう」


 ミリィは先程から床を叩いているばかり。


「大丈夫かしら?」


 とセシリアが呟いた後に一際大きな打撃音が鳴る。


「ごめん。聞こえた?」


 セシリアは慌てて謝った。


「いえ、そうではありません。アルクさん、ここ一帯の床をおもいっきり叩き壊して下さい」

?」

「はい」


 ミリィは強く頷く。


「まあ、いいけどさ」


 アルクは鞘から剣を抜く。


「ここでいいんだよね?」

「はい。ここを中心とした2メートル四方程度の範囲で床を叩き壊して下さい」


 ミリィが指し示すのは部屋の中央。


「でもどうやって壊すの?」


 ユウは聞いた。

 アルクは魔法剣士だから斬ることはできても叩き壊すというのはできないのではと考えてのこと。


「なあに、ちょっと見てな」


 アルクは背中で答えて、剣を振り上げる。


 一呼吸の後に、


「アーマーブレイク!」


 アルクはそう叫んで剣を振り下げる。


 剣先は床に当たり、大きな破裂音が床から鳴る。


 そして床がひび割れて、破裂した。


「何? 今の?」

「敵の防御力を下げる技よ」


 ユウの問いにセシリアが答えた。


「確かダンジョンとかではフィールド破壊に用いられるわ」

「詳しいんだね」

「ウチのバカ兄がよくやってからね」


 とセシリアは肩を竦めて言う。


「で? 何かあった?」


 2人は床の破片をどけているミリィとアルクに近づいて尋ねる。


「ええ。魔法陣がありました」

「魔法陣?」


 ユウは疑問の声を上げた。ファンタジーゲームの世界では魔法陣なんてものは当たり前だがあまりゲームに疎く、かつ初心者のユウにとっては『魔法陣? だから?』となる。


「魔法陣は基本トラップです」

「ええ! それじゃあ危ないじゃん!」

「これは大丈夫かと。トラップ系ならアーマーブレイクの時点で発動していたでしょう。これはトラップというより、転移でしょう」

「転移ってことはワープってこと?」

「はい」


 覗くと破壊された床の下から魔法陣がほとんど露になっていた。魔法陣は淡く緑色に光っている。


 どうやら魔法陣を隠すためフィールドを盛っていたらしい。段になるとプレイヤーにバレるため、うっすらと盛り上げる形になったのだ。それゆえその上でバケツを倒すと転がったということ。


「もう一回アーマーブレイクしちゃう?」

「いえ、この程度なら私の杖でも大丈夫です」


 ユウ達は魔法陣を完全に露にするため床を強く叩き壊す。床がクリスタルだからかまるで氷を削っているみたいだとユウは感じた。


 そしてとうとう床が剥がれて魔法陣が完全に露になった。


「で? これに乗ったら転移でどっかに行くと?」


 ユウが緑色に光る魔法陣を見て聞いた。


「ああ。皆、戦闘になるかもしれないから心の準備はしっかりとね」


 アルクが剣を構える。


「戦闘?」

「ゲームだと転移したら戦闘というのは普通だから」

「オッケー」


 ユウも槍を構える。


 アルクは皆に視線を配り、そして頷いた。


「行こう!」


 ユウ達は魔法陣の上に乗った。

 魔法陣の光が強くなり、ユウ達の体が始める。


「わわっ! な、何これ?」


 今までの転移とは違うエフェクトでユウは戸惑う。


「落ち着いて。ダンジョン系ではこういうエフェクトよ」


 セシリアが答える。


「分かった」




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