第136話 Tー12 特訓

 アリスは頑張った。


 それは次のイベントの件もあるが、やはり先日の陰口の件もあるのだろう。


 バイソン型のモンスターの突進を回避して、アリスは両手の自動拳銃でカウンター。


 それを窺ってキョウカはクルミに、

「ちゃんと2丁使って攻撃しているね。才能はあるのかな?」

「いえ」

 とクルミは否定。


「2丁拳銃は離れた数名の敵に瞬間で攻撃をするものです。あれでは近づく敵の攻撃を回避して撃ってるだけです。しかもあのモンスターは大型ですから狙いを外すこともありません」

「まだまだと」

「はい。あれではデュアルスタイルですね」

「二人ともー、どうしたんですかー?」


 バイソン型モンスターをカナタと倒し終えたアリスが二人に向け声を掛ける。


「なんでもないよ」


 キョウカが手を振ってこたえる。


  ◯ ◯ ◯


「次はどうします?」


 今日のノルマを達成してアリスはクルミに聞く。


 ノルマの前にクルミから今日はイベント用の訓練があると言われていた。


 アリスとしては2丁拳銃についてもっと得意になりたかったが、イベントがあるのでは我が儘を言えない。次のイベントはアリスだけでなくクルミ達にとっても大切なものである。


「次は森へ行きましょう」

「森?」

「ええ。ここから少し遠いですが。次のイベントは緑が多い島ですから森での経験も大切かと」


  ◯ ◯ ◯


 アリス達が向かった森は都市グラストンから北北東にある森。先程いたエリアからは都市グラストンまで戻り、そこから迂回するように進まないといけなかった。


 その森は鬱蒼としていて、全体的に暗い。


「どんなモンスターが出るんですか?」


 勿論、森の獣や虫の類のモンスターだろうが、暗い森を窺うとゴースト系が現れてもおかしくない。


「情報によるとモンキー系とバード系、それとゴースト系ですね」

「ゴ、ゴースト!?」


 まさかと考えていたゴースト系が出てアリスは驚いた。


「アハハッ、アリス君は幽霊が怖いのかい?」


 キョウカが笑う。


「べ、別に怖くはありませんよ。ただ、苦手なだけですぅー」


 アリスはぷいと明後日を見て言う。


「でも、ああいうのって銃弾とか当たるんですか?」

「ここはゲームだからね。物理攻撃でもヒットするよ。ただ、ダメージは半減だけど」

「それでは私とカナタ、お嬢とアリスさんの二組で行きますよ」

「別けるんですか?」

「4人1組だと戦いづらいですからね」


 確かに狭い木々の間で4人行動は難しい。


「では、私達はこちらに進みますのでお嬢達はあちらを」


 とクルミは進行方向とは逆の方を指して、アリス達に進むよう指示する。


「分かりました」


  ◯ ◯ ◯


「……えっと私が前なんですか?」


 キョウカの前を歩くアリスが少し怖がりながら進む。


「そりゃあ君の特訓なのだから? 私が前に出たらすぐ終わってしまうだろ? なあに、ちゃんとサポートをするよ」


 それでもアリスは前を進むのに気が引けていた。

 そして森を歩き続けて数分後、モンスターに遭遇。


 モンキー系のモンスター。名前はデビルモンキー。レベル35。


 アリスは2丁拳銃で対応。

 デビルモンキーは木の枝を渡り、攻撃を回避する。


「もう!」


 アリスは苛立ちの声を出しつつトリガー引く。


「駄目だよ。同じ射線にトリガー引き続けたらデュアルスタイルと同じだよ」

「はい!」


 と返事をするもののどうしてもただの両手撃ちになってしまう。


「落ち着いて。相手の行動を予測して。なんなら右手銃にだけ集中して!」

「はい!」


  ◯ ◯ ◯


「ううん」


 キョウカは目を瞑り、指先で額を揉みながら思案する。


 悩みの種は勿論アリスの件だ。

 命中率が低すぎる。


 勿論、デビルモンキーが木の上にいて枝を伝って移動するのも命中率が低い原因でもある。だが、それでもアリスの命中率は低すぎる。


「すみません役に立てず」


 アリスはしょんぼりしつつ謝る。


「いいんだ」

「やっぱ今は一丁でやるべきでしょうか?」

「いや、2丁拳銃で進もう。先程私が言ったように基本は右で」

「はい」


 アリスはなんとなしに右手の自動拳銃を見る。自動拳銃そのものは問題はない。問題があるのは自分。そう考えるとつい右手の自動拳銃を強く握ってしまう。


「そっちで当たるように撃つように。左側はなんとなくでいい。大丈夫。ゆっくりこなしていこう」

「……私」

「焦る必要はない」


 とキョウカは言ってアリスの肩に手を置く。


 そして二人は森の奥へと進む。

 奥は先の見えない闇。


  ◯ ◯ ◯


 進むとまたデビルモンキーと遭遇した。


 敵は枝の上にいる。

 アリスは両手に拳銃を構える。

 そして銃口を敵に向ける。


 しかし、トリガーを引けない。

 敵はそんなアリスを見て、ケタケタと笑う。


「大丈夫。右を中心にね」

「はい」


 返事をしてアリスはトリガーを引く。

 銃弾はデビルモンキーの頭上の少しを飛ぶ。


「キー、キキー」


 デビルモンキーは笑い、跳ねながら隣の枝へと渡る。


「左の銃で追いかけたまえ。でたらめでもいい」

「はい」


 アリスは左手に持つ自動拳銃の銃弾を敵に放ち続ける。


「相手の動きを予測しつつ右の銃で狙うんだ」

「はい」


 アリスは息を吐き、右の銃口をデビルモンキーに向ける。

 そしてトリガーを引いた。


 銃弾は敵にヒット。


「や、やりました! やりましたよ!」


 アリスは嬉しさで後ろに振り向く。


「こら! 駄目だよ。敵はまだ倒れてない」

「は、はい!」


 デビルモンキーはまだ生きている。

 アリスは銃口を向け、銃弾を放つ。


 その目には先程と違い、強い光が宿っていた。


  ◯ ◯ ◯


「そうそう! その通り! だいぶ良くなってるよ!」


 キョウカは後ろからアリスに声援をかける。

 そしてアリスは最後の一発をデビルモンキーに向け発砲。


 弾は見事命中してデビルモンキーは消滅。


「いいじゃないか。最初に比べるとかなり命中率が上がっているじゃないか」

「いやー、そうですか?」


 と謙遜的に言うものの、どこか得意気な顔のアリス。


 あれからアリス達は森を進み、遭遇するデビルモンキーを片っ端から始末している。


「2丁拳銃も様になってきたし、これだと文句を言われないんではないかな?」

「そーですか? いやーキョウカさんのお陰ですよ。教え方上手ですね」

「そう言ってくれると嬉しいよ」

「もしかしてキョウカさんも前に2丁拳銃の練習とかしてたんですか?」

「いや、クルミの練習とか研究とかを見ていてね」

「へえ、ちなみにクルミさんは2丁拳銃をどのように修得したんですか?」

「ん〜基本は色々情報を収集して自分なりに独自の練習カリキュラムを作ってたね」

「習得にはどれくらいかかりました?」

「一年はかかったね」

「一年……ですか」

「なあにクルミはずっと特訓してたわけではないんだよ。あくまで時間が空いた時に趣味……いや、暇つぶしでやってたから一年なのさ」

「でも……私のようなセンスのないものが」

「そんなことはない。私からすると君の方がクルミよりセンスはあると思うよ」

「それ本当ですか?」


 アリスは疑惑の目をキョウカに向ける。


「彼女はしっかりしてそうに見えるが実際はダメダメなんだよ」


 キョウカは肩を竦めて苦笑する。


「えー? 全然そうは見えませんよ」


 アリスから見るとクルミは凛々しく芯がしっかりしている様に見える。


「仕事上しっかりしているけどね」

「仕事上……そういえば、お二人は長い付き合いなのですか?」


 クルミはキョウカのことをお嬢と呼んでいる。実際にキョウカは深山グループの令嬢で、現実でもクルミはキョウカのお付きをしているのだろう。なら付き合いは長いのだろうか?


「あっ! すみません。急に変なことを聞いて」


 少し踏み込みすぎたかなとアリスは反省した。


「別に謝ることでもないよ。そうだね、クルミとは幼少期からのお付き合いだよ」

「そんな前から?」

「クルミの家系は代々深山家に仕える一族でね」


 ──何その一族!?


「それあってクルミとは長い付き合いなのさ」

「す、すごいですね」

「まあね」


 と言って、キョウカは肩を竦める。


「さ、奥へ進もう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る