第245話 Tー10 キョウカ

「いやはや。これは実にまずいことになったね」


 チェンの策略によりキョウカとクルミはタイタンプレイヤーから狙われることになった。


 先程からティナからの着信がうるさく鳴っている。


「はて、どうしたものか?」


 城の中だとプレイヤー達に狙われると踏んでキョウカ達は今、城から離れた森の中に隠れていた。


「二手に別れましょう。私はここに。キョウカさんは古墳エリアへ」


 そう言ってクルミは元のマリーの姿へと戻った。


 銀の長髪少女。背丈はキョウカより少し低く、服は白シャツに黒のワンピーススカート。


「それが君の本当の姿か」


 初めで見るマリーの姿にキョウカは感想を述べる。


「はい。今まで知人のお姿を無断でお借りして申し訳ございません」


 マリーは深々と頭を下げる。


「構わんよ。で、君はここで残って、どうするんだい?」

「倒します」


 はっきりと。そして強い意志を持って、マリーは言う。


「簡単に言うね。でも万単位の数だよ。それに私は彼女達からの索敵に引っかからないようにしてくれているのだろう? 隠れていればいいのでは?」

「そうかもしれませんが。もし彼女達が索敵を強化したら見つかる可能性もあります」

「で、古墳エリアに」

「はい。ここは我々が所持していたフィールド。勝手も分かっております。それに古墳エリアにはとありますから」

「分かると言っても、彼女らに支配されたんだろ? 古墳エリアのも大丈夫なのかい?」

「支配といっても完全というわけではないようです」

「それは?」

「つい先程連絡があり、葵達が何体かと戦闘に入ったと。ヤイアがアヴァロン側に向かい、ガードを固めています」

「そうか。で、葵達はどうなの?」

「まだ戦闘継続中です。が、私は葵達が勝つと信じております」

「根拠は?」

「信頼です」


 はっきりとそう言われてキョウカは吹いた。

 まさかAIである彼女に論理的でなく、信頼というあやふやなものを言われるとは。


「そうか。セブルスは?」


 セブルスはタイタンエリアを管轄してあるAI。この事態において、真っ先に対応もしくは彼女達から攻撃を受けているはず。


「連絡が取れません」


 それは連絡取れないほど切羽詰まっているのか、はたまたもうやられているのか。


「とにかくキョウカさんは古墳エリアに」

「分かった。ご武運を」

「はい」


 そうして二人は森の中で二手に別れた。


  ◯ ◯ ◯


 今、タイタンプレイヤーがいるのは後のイベントで使われるはずだったフィールド。

 そのイベント内容については多少は話を聞いていたためキョウカはさくさくと森を突っ切り、川を越えて、谷に入った。


「ふう」


 谷間に腰掛けるには丁度良い岩があり、キョウカはそこへと腰掛け休憩をとる。


 古墳エリアは谷を抜けた先の荒原をさらに進んだ先にある。

 距離はここからでもまだ20キロもある。


 もしこれが半日以内で終わるなら逃走先としては良い。

 途中でマリーが足止めもしてくれている。

 が、それはあくまで半日で終わるというならだ。


 もし長引けばどうなるのか。

 そして葵達が負ければ。

 ここはやはり戦うべきだったか。

 どこと?

 タイタンプレイヤーか。それとも中国AEAIか。タイタンプレイヤーに事情を話せば……。


 ──いや、今はよそう。


 キョウカはかぶりを振る。

 今は余計なことを考えず、古墳エリアに向かおう。


 キョウカは腰を浮かし、尻を叩く。


 と、そこへ着信音鳴った。


 またティナだろうか。それとも縁のあるプレイヤーか。

 チラリと端末を見ると着信相手はセブルスだった。


 出るべきか。

 罠という可能性が高い。というか十中八九罠だろう。


 キョウカが逡巡していると着信音が切れた。

 だが勝手に通話モードになる。


『出ろよ。馬鹿!』

「あれ? セブルス君かい? 大丈夫なのかい?」

『……大丈夫かとどうかと言えば大丈夫ではない。今、皆と連絡が取れないんだ』

「ふむ。セブルス君、敵がフィールドを乗っ取ってるのかい?」

『ああ。だから今はお前にしか連絡が取れないんだ』

「勝手に通話モードになったから驚いたよ」

『仕方ないだろ。で、お前は今どこにいる?』

「……セブルス君。どうして先程からセブルスで驚かないのかな?」


 セブルスは絶対に君付けを拒否している。もし使えば雷が落ちる。


『……』

「偽物にしてなかなか上手だったよ」


 そう言ってキョウカは通話を切る。


  ◯ ◯ ◯


「あらら、バレちゃったか」

「チェン、もっと上手く真似ないと」


 城内のとある一室に二体のAIがいた。その一室の壁や床、天井にはあちこちに真新しい傷や穴、焼け跡などがあった。


 まるで先程まで戦闘があったような。


「声はバッチリ真似たんだけどね。でも、座標は特定したんだろ?」

「ええ。このフィールドはこちらがほぼ完全に支配したも同然」


 それはつまり──。


「わざわざセブルスになりすまして聞くより、相手にセブルスはもういないってことを告げたら降参するんじゃねえの?」

「信じない可能性が高いでしょう。それに逆に抵抗する可能性があります」

「なるほどね」

「さて、プレイヤーの皆様にご報告しないといけませんね」


 アーミヤはいやらしく微笑んだ。


『タイタンプレイヤーの皆様へ、キョウカの居場所が分かりました。彼女は今、谷にいます。座標データを送りますので至急向かってください』

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