第31話 Tー9 告知

 アリスは自室のベッドで目を覚ました。そして微睡む意識の中で上半身をゆっくり起き上がらせ、自分の手をぼんやりと見つめる。


「……あれ? 確か私、そうメタルカブキオオトカゲと、戦って……」


 記憶を手繰たぐり寄せる。思い起こすのはメタルカブキオオトカゲに向かってダガー振ったところだ。そしてその後、アリスは敵の爪で体を裂かれたはず。


「ああ、私、殺られたんだ。だから部屋にいるんだ」


 通常、ゲーム内でHPがゼロになるとクリスタルゲートに飛ばされる。だが、今はクリスタルゲートもなく囚われた状態。今はHPがゼロになると自室か自室を持っていないプレイヤーは街の手前に飛ばされることになっている。


 アリスはベッドから下りて部屋を出ようとする。その時、視界端からメールマークが点灯していることに気づいた。メッセージの他にメールが端末に備わっている。アリスはなんだと思いながらも端末を取り出し受信メールボックスを開く。メールボックスには兄のレオからだった。


『獲得ポイントはどうなっている。至急報告されたし』


 これくらいの内容ならメッセージを使えばいいのにとアリスは思う。面倒なので返信は後回しにする。そして廊下に出て食堂へと向かった。


 そこであの時のケイティーたちも殺られた後だったのではと理解した。

 食堂に辿り着いてドアを開けようとした時、またメールが届いた。


 ドアを開け食堂に入り、キッチンでコーヒーをカップに注ぐ。そして食堂に戻り椅子に座って新着メールを開いた。


『早くしろ。もう起きているんだろ』


 仕方ないのでカップを片手に端末から自身の累計獲得ポイントを確かめた。


 累計獲得ポイント10,880,329。


「ぶっ! 一千万!」


 累計獲得ポイントを見てアリスは驚き、口の中のコーヒーを少しテーブルに吐き散らしてしまった。ティッシュを探そうとしたけど見つからない。テーブルのコーヒーはすぐに消えた。それを見てゲームではそういう使用だったと思い出した。


 アリスはレオに自身の累計獲得ポイントを報告。


「これってやっぱさっきのやつ倒したからかな? え? 倒したっけ?」


 眉間を中指で押えながら思い出す。

 ダガーでメタルカブキオオトカゲの顔を切り裂いたがその後、すぐに攻撃を受けていた。もし倒したらなら攻撃はないはず。ということは倒していないということだろう。


「誰かが倒してポイントが分配されたってことかな?」


 天井に視線を向けながらひとりごちる。


  ○ ○ ○


「ええー! 私が倒したことになってるの? なんで?」


 夜、エイラの自室でメタルカブキオオトカゲの顛末を聞いてアリスは驚いた。


「アリスが爪で切り裂かれた時、突き刺さってたダガーが敵の顔を引き裂いたんだよ。それで倒したことになったんだよ」

「おあいこみたいな?」

「たぶんそんな感じだと思うわ」

「倒れた後、ポイントは分配されたんだよね? 私、一千万だったけど。皆はどうだったの?」

「私は約八千万でレオは九千万。他の皆もだいたい六千万くらいだったわ」


 それを聞いてアリスは落ち込む。


「なーんだ。私だけ高いのかと思ったら皆、高いんだ」


 そこで軽快な電子音が鳴った。

 ロザリーからのビデオメッセージが届いたのだ。


 そのビデオメッセージは端末を操作することなく自動で開封され再生される。

 画面がアリスの前に投影される。


『はいはーい。みなさーん、メタルカブキオオトカゲはどうでしたか? かなーり強かったでしょ。でもその分、ポイントはいっぱいだったでしょ。ではでは、ポイントを発表をしたいと思いまーす』


 ドロムロールが鳴る。


『アヴァロン総合獲得ポイント……531,002,147ポイント!』

「5億! 嘘でしょ?」

『タイタン総合獲得ポイント……』


 お願い勝ってとアリスは目をつぶり祈る。


『475,821,331ポイント!』

「ええー」


 敗北結果にアリスは声を上げ、肩を落とす。そして悔しそうに唇を尖らす。


『アヴァロンプレイヤーの勝ちということになります。勝ったことで何かプレゼントはありません。ただタイタンプレイヤーの皆様にはペナルティーを与えさせてもらいます。ペナルティー内容は当日お楽しみ下さいませ』

「楽しみにって楽しめるかい!」


 聞こえるわけないのにアリスは画面のロザリーに突っ込んだ。


『さて開始時刻ですが、午前10時からとなっております。場所はこちらが用意した島となっておりますので。それと場所までの移動は心配ありません。私共が皆様を強制転移させます。強制転移の時刻は9時半頃ですので。寝てても転移させますのでご安心を。それから制圧戦の説明は転移後にいたしますので。では、皆さんお休みなさいませー』


 画面内でロザリーが笑顔で手を振り、そして画面は消えた。


  ○ ○ ○


「いよいよ明日かー」


 アリスは怖さもあるがどこか沸き上がるものを感じていた。


「ねえ、どうなるかな?」


 エイラに顔を向けて聞いた。それにエイラは、


「え、あ、うん。どうだろうね」

 と、ぎこちなく笑って答えた。


「大丈夫?」

「大丈夫といえば嘘になるけど」


 エイラは一息つき、

「頑張らないとね」


 アリスはエイラに寄って体を抱き締めた。あまりの自然の動作にエイラは驚いた。


「アリス!?」

「大丈夫。勝つよ」


 勝つ根拠はない。でもそう思わないとやっていけない。

 アリスが強く抱くと向こうも強く抱きしめてくる。

 そらからどちらともなく離れた。


「ごめん。これ兄貴の役目だよね」


 と、言うとエイラは顔を赤くして、


「な、なな、何、言ってるのよ!」


 それを見てアリスは笑った。もう大丈夫かなと。その時、誰かがドアをノックした。


「あら、噂をすると」


 アリスがドア開けると案の定、兄のレオが。アリスはレオに向けにんまり笑い、ちらりとエイラを窺う。エイラは顔を赤らめ目線を下へと逸らす。


「それじゃあ私はこれで。二人ともどうぞ~」

「も、もう、アリス!」


 アリスはレオを部屋に押し込み、ドアを閉じた。


「それで何か用?」


 視線を下に向け、エイラは右手の人差し指で横髪をくるくるいじり回しながら聞く。ほんのりと顔を赤らめている。


「さっきのメッセージ聞いたか?」

「え! ……ああ、うん! 聞いたわ。いよいよ明日ね」

「昨日からもそうだが、ロザリーは昨日、そして今日はって言ってたよな」

「え? そうだったかしら?」

「ああ。やはり今回の件は複数犯の可能性が高いと思うんだ」

「……そうだね」


 希望してたのとは違う展開で気分が落ちるエイラ。


「どうした? 元気ないぞ?」

「なんでもないわ」


 エイラはにっこり笑って答えた。しかし、心の中では朴念仁と毒づいていた。


  ○ ○ ○


 アリスは自室に戻りベッドに横にたわる。明日はどうなるのか? そしてその後は? ついそんなことを考えてしまう。ゲームに囚われた初日は枕を濡らしていた。だが、今はなぜか平気だった。不思議なことに。現実の自分はどうなっているのか? 答えのないことを考えてしまう。


 アリスは大の字になって天井をぼんやりと眺める。


「もしかしてここが死後の世界だったりして。……なーんてね」


 そしてアリスは電灯を消して寝ることにする。しかし、部屋が真っ暗になっても、目を閉じてもなかなか眠れなかった。

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