第85話 Rー12 防衛③

 少し前に時間を遡る。


 基地から離れた空き地に大型トラックが三台停まっている。そのうちの一台、大型トラックの荷台に花田はいた。荷台の中にはテーブルや椅子、パソコン。そして荷台右側の壁にはモニターが3つ並んでいる。


 その荷台の中には花田の他に九条と優がいる。


「こんなもんどこで仕入れたんだ?」


 花田は身に纏ったスーツを見て聞いた。全身黒のタイツスーツに防弾機能の鎧のようなプロテクター。そして通信機能のついたヘルメット。


「深山財閥の力でしょ」


 同じくスーツに姿の優が答えた。今、スーツを着ているのは花田と優のみ。


 残りのトラックは普通に運搬と更衣室用として。男性は花田一人らしくトラックで一人着替えるのは変な気分であった。


「暑苦しいと思ってたが以外と着心地がいいというか。なんか……その」


 スーツを渡された時は初夏の真っ昼間に真っ黒の全身スーツなんて熱中症になって死んでしまうと思っていたが服よりも暑さは感じられない。むしろ薄く、通気性も高いせいか裸の感覚である。


「でも戦闘になったら大変だから。そこんとこ気を付けなよ」


 九条が注意事項として言う。


「そうか」


 と、そこで一人の女性が荷台に入ってきた。

 その人物は花田が今日初めて会った人物。


 名前は御堂雫。20代後半くらいだろうか。会った当初はベランダの花に水をやってそうな若妻というイメージである。その雫も花田たちと同じくスーツに着替えていた。


「何か?」


 花田の視線に気付いて雫は聞いた。


「いや、あんたも戦闘に参加するのかなって思って」


 とてもではないが戦闘に慣れていそうには見えなかった。


「もちろん参加しますよ」

「安心して雫はこう見えて強いんだよ」


 優が雫の肩を叩いて言う。


「そうなのか? 元自衛隊とか?」

「……大学二年生です」

「え!?」

「おじさん、いくつだと思ってたのさ?」


 やれやれと優が肩を竦めて言う。


「すまない。てっきり社会人だと」

「いいんです。よく言われますので」


 そこでさらにもう一人、いやもう一体が荷台に入ってきた。


「こいつは?」


 それは人間ではなく女性型アンドロイドであった。青色の髪に、琥珀色の目。黒を基調としたハイレグに近未来的なパーツを身に付けていた。


 女性型アンドロイドは正式にはガイロイドと呼ばれるがガイという言葉が男性をイメージさせやすいので女性型もアンドロイドと呼ぶのが一般的となっている。


「見た通りアンドロイドだよ。ただし、中は人だけどね」


 九条が自身の頭を指で叩いて答える。


「つまり逆プリテンドね」

「操ってるのは葵か?」

「違うよ。中は風祭って子。さっき紹介したでしょ」

「ああ! あの人か!」


 雫と同じく紹介された子だ。確かスタイルの良い女性だった。年齢は20代前半、大学生か新社会人あたりの。しかし、先程雫の件もあるので実は女子高生かはたまた上の年齢で30前後なのかもしれない。


「風祭莉緒です。アンドロイドでの参加となりますが今日はお願い致します」


 と、莉緒は丁寧に挨拶をした。


「ちなみに本体はトラックの荷台にいるわ。VRMMOと同じで今はベッドで寝ているの」

 と、九条が説明をする。


「本体は寝ていて、アンドロイドで起きているって不思議だな」

「私も不思議な気分です」


 もし人間の体なら照れているだろう。


「で、なんでこの人だけアンドロイドなんだ?」


 九条はパソコンを操作し、モニターに映像を流す。そこにクモ型陸上戦略兵器が映し出される。


「さすがにこれを生身でやれってのは

 無理だよね」

「強いのかこいつ?」


 花田にはデカイまとでノロそうに見え、どう見ても細い脚が弱点そうだし、そこを狙えば勝機は見えそうなのだが。


「強いよ。機動力があって、すばしっこい。アームもコンクリを豆腐みたいに崩すよ」

「脚は? どう見ても弱点そうなんだが?」


 花田の問いに荷台にいた全員は頭を振った。


「一見そう見えるけど。これがかなり固いんだよ」


 と優が肩を竦めて語り、九条が続けて、


「細いから銃弾を当てるのも難しいし。耐熱装甲でもあって、ダイナマイトにも耐えるしさ。さらに脚には爪があるから近付くのも危険だよ」


 なぜか知識というより経験則で語っているようである。


「銃も爆弾も無理ならどうするんだ?」


 その質問に九条はニヤリと笑った。


「だからこそ彼女の出番よ」


 アンドロイドが1歩前に出て、お辞儀をする。そして、


「私が剣で脚を斬り外します」


 腰をねじって、腰部に装着している柄らしきものを前に向け、花田に示す。


 その刃のない柄を見て、首を傾げる花田に九条が、


「ビームソードよ」

「ビ、ビームソード!?」


 花田は声を大にして驚く。その声に九条は顔をしかめる。


「驚きすぎよ」

「そりゃあ、驚くだろ誰だって。……そのSFのような武器が出たらさ」

「ビームソードなんてすでに何年も前に生まれているのでしょ」

「それでも大型のはずだぞ」


 ビームソードやビームの名のつく物は実際に完成され、実物がある。だが、それらは大型でかつ燃費が悪く、ビームキャノン以外は実用には程遠いと言われている。


「小型化に成功したんだけど、戦闘時間は3分ってとこなんだよね」

「普通の剣でいいじゃん」

「剣で鋼は斬れない。スパスパと鋼を紙でも斬るかのように斬ってるのって漫画の世界のみよ。だからビームソードなのよ」

「なるほど。それは分かったとして俺達はどうするんだ?」


 その問いに九条はにっと笑ってから手を叩き、


「では作戦会議を始めます。皆さん、お席にどうぞ」


 そう言われて各自それぞれ椅子を手繰り寄せ座る。アンドロイドもとい莉緒だけが立ったままである。花田の視線に、


「私は疲れませんので」

 と、言う。


  ○ ○ ○


「では作戦会議を始めます。まず、我々の目的はプリテンドを掃討するわけではありません。あくまで自衛隊を助けるためにクモを退治するのみです」

「ファイヤービーはいいのか?」

「すばしこくって厄介だけど、ファイヤービーの銃は殺傷能力は低いし、自衛隊は盾で事が足りるでしょう。球数の制限もありますし」


 九条は説明をしながらファイヤービーの詳細をモニターに出す。


「やっかいなのはプリテンドの周りにいて、それで自衛隊は銃撃して落とせないということ。まあ、自衛隊の放水で問題はないでしょう。滞空時間もありますし、時間さえ稼げたら自衛隊の有利となることでしょう」


 モニター画面をファイヤービーからクモへと変える。


「次にクモ。正式名称クモ型陸上戦略兵器。我々の本命よ。まずクモは周りにプリテンドがいふのでそれを優と雫の両名が対処し、引き離すの。その後、莉緒がビームソードで脚、腹部を斬る。最後に……」


 そこで九条は花田に視線を向ける。花田はここで俺? と、自身を指差して驚いた顔をする。


 九条は頷き、


「花田さんがグレネードランチャーで腹部を狙うと」

「ちょっと待て! 爆弾等に強いんだろ?」

「ええ。ですから莉緒が腹部を斬るのよ。装甲に切れ目ができたらそこをグレネードランチャーで」

「それで倒せるのか?」

「倒せるわ」


 九条は確信を持った目で答えた。


「なぜなら……」

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